ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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幕撤去 不穏な動きと輝ける聖騎士(1)

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 午前8時。チラホラと冒険者達も訪れ賑わうようになった食堂へ、ギルドマスターであるケイシーがヒョイと顔を出した。

「お、みんなここに居たか。都合がいい」
「ケイシー、あなたがこんな時刻にギルドに居るなんて珍しいですね?」

 家庭を持っている職員は自宅から出勤している。朝早くギルドに居るのは独身寮に入っている者だけだ。キースの疑問にマスターは苦い表情で答えた。

「ちぃっと面倒な事態になっていてな……。おまえら、業務開始時刻になったらまず会議室に来てくれや」

 それだけ言ってマスターは去っていった。何だろう? 私達は顔を見合わせてから、取り敢えず残りの食事を片付けること専念した。


☆☆☆


 8時50分には全員会議室に揃っていた。集合をかけたマスターも。

「おう来たな、好きなところに座ってくれ」

 既に着席していたマキアとエン。後から来た私達もテーブルへ着こうとしたら、キースが指示を出してきた。

「ロックウィーナは端の席へ行って下さい。隣には僕が座ります」

 私を男達から隔離しようとするキースにブーイングが上がった。

「白、何故貴様が仕切るんだ。お母さんか」
「端ではロックウィーナがケイシー殿の説明を聞きにくいだろう」
「そうだよ。ウィー、もっとこっちへ寄りな」

 アルクナイト、エリアス、ルパートの主張をキースは認めなかった。

「駄目です。あなた達ときたら、隙有らばロックウィーナの手を握ろうとしたり、脚を触ろうとしたり、お乳を見せようとするんですから」
「ギリ見せていない!」
「手は握ったが脚は触っていないぞ!?」
「俺達は痴漢か変質者かよ!?」
「似たようなもんです。いいからあなた達も適当な席にさっさと座りなさい」

 精神面では最年長のキースにピシャリと言われて、渋々男達は思い思いの席へ着席した。魔王まで従うって凄いな。

「それでケイシー、面倒な事態とは一体何ですか?」
「ああ。みんな、覚悟して聞いてくれな?」

 マスターは普段しない真面目な顔で述べた。自然と私は緊張した。

「我々フィースノー冒険者ギルドは、アンダー・ドラゴン、略してアンドラの本拠地壊滅作戦に参加することが決定した」
「はぁ!?」

 全員が驚いた眼差しをマスターへ向けた。本拠地壊滅作戦???

「何でそんなことになった? 俺達の任務は本拠地の場所特定までだろう? 情報持ってる連絡係を兵団へ引き渡したんだから、任務完了のはずだろーが」

 みんなを代表してルパートが質問した。マスターは頭を左右に振ってから溜め息を吐いた。

「俺だってそのつもりだったよ。連絡の早馬が来たのは昨日の夕方だが、近日中に国王陛下のサインが入った命令書が届くらしい」
「陛下って……。おいおい、勅命ちょくめいかよ……」

 ルパートの勢いが消えた。かつて騎士団に所属していた彼は、国王からの命令書がどれだけ重いものなのか知っているのだ。

「国はこの機会にアンドラを徹底的に潰したいんだ。それで短期間に手際良く重要人物を捕らえた、優秀なる我らがフィースノーギルドに目を付けたってことだ。命令書が届き次第、おまえ達は騎士団と合流することになる」
「ちょっと待って下さい。作戦参加はフィースノー支部だけなんですか!?」
「そうだ。アンドラの本拠地を探る命令は国中の冒険者ギルドに出されていたが、成果を上げたのはフィースノーだけだった」

 何てことだ。私達は上手くやり過ぎたのだ。その結果とんでもないお鉢が回ってきた。所属しているギルドが国から認められるのは名誉なことだが、アンダー・ドラゴンの本拠地へ向かうことになるなんて。
 私は慈悲の心を持たない首領を思い出して身震いした。

「あの、レクセン支部所属の俺達は不参加ですか? 連絡係を捕らえた功績は俺達にも有るのでは?」

 エンが口を開いた。面倒な任務から逃れられて助かったという眼はしていない。むしろ外されたことをいきどおっているかのような口調だった。
 マスターは静かに言った。

「……エンとマキアには、レクセンからここフィースノー支部への移籍勧告が出された。命令、ではなく勧告だからな。不服であるなら人事に掛け合ってレクセンに留まることが可能だ」
「俺は移籍します!」

 間髪入れずにエンは即決した。マキアがそんな相棒を心配そうに見つめた。

「どうしたんだよエン、おまえがそんなに熱くなるなんて……」
「アンドラには俺の兄弟子が居る」
「あっ……」

 会議室の全員が思い出した。アンダー・ドラゴン首領の側近、過去でエンを殺害したその男はエンが兄と慕っていた相手だった。

「俺はユーリと決着をつけたい。本拠地壊滅作戦に参加させて下さい!」
「ユーリ……、それが兄弟子の名前か」

 マキアは少し思案した後、前を向いて大きな声で宣言した。

「俺も移籍します! マキアとエンは本日よりフィースノー支部の一員となります!!」
「マキア、危険な任務だ。おまえが俺に付き合うことはない」

 止めたエンにマキアは笑顔を見せた。

「な~に言ってんだよ。俺とおまえは生死を共にするバディだろ?」
「マキア……。だがレクセンにはおまえの家族が居る。ここに住むと家族と離れることになるぞ?」
「会いに行けない距離じゃねーさ! それに俺、フィースノー支部の皆さんとまだ離れたくないんだよ」

 今度はこちらを見てマキアは笑った。

「ふつつか者ですが、今後も俺達を宜しくお願い致します!」

 本当に気持の良い青年だ。フィースノーの私達は彼らを温かい眼差しで迎え入れた。

「せっかく友達になれたロックウィーナと、もっともっと仲良くなりたいしね!」

 私へウィンクしたマキア。これは余計だった。エリアスとルパートがマキアを睨み付け、アルクナイトが魔法で空中に発現させた金ダライがマキアの頭上に落ちた。

「……ってぇ!」
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