101 / 257
野郎達の挽歌 ~ロックウィーナ目線~(1)
しおりを挟む
お茶にしましょうとキースの部屋に招かれた。
夜に異性の部屋へ行ってはいけないとキース自身から注意を受けていたが、現在の時刻は16時10分。まだ夕飯も済ませていない日暮れ前だ。大丈夫だよね? だからキースも誘ったのだろうし。
それに落ち着いた所でもう少しキースとお話ししたかった。
出動先で「愛している」と言われて、その言葉の衝撃に前後不覚となってしまった私。
毎回そうだ。情けない。相手が真剣に向き合ってくれているというのに、私は動揺してしまったと、それを言い訳にして明確な答えから逃げている。
これでは駄目だ。
「どうぞ。ミルクティーにしました。熱いから気をつけて」
「あ、ありがとうございます……」
イスに座る私はキースからティーカップを受け取って、息を吹きかけて冷ました最初の一口を含んだ。ミルクの優しい口当たりとほのかな甘さが身体に染み渡る。
穏やかに微笑むキース。彼は私をリラックスさせようとしてくれているんだろう。優しい人。だからこそ曖昧な態度を取ってはいけないんだ。
私はテーブルにカップを置いて、キースと正面から向き合った。そして言った。
「ごめんなさい」
否定の言葉は受ける側も伝える側もつらい。
「キース先輩のことはとても素敵な男性だと思います。ぶっちゃけると、先輩みたいな人とゆっくり恋ができたら素敵だろ~な~的な妄想もしていました」
あ、「妄想」じゃなくて「想像」って言えば良かった! 口に出した言葉はもう戻ってこない(泣)。
「でも、私にとって先輩は優しいお兄ちゃんなんです」
キースは表情を変えない。
「だから、恋人関係にはなれないです。ごめんなさい……」
私は頭を下げた。好意を抱いてくれたことには本当に嬉しくて感謝しているが、彼を兄と慕う私は気持ちに応えられない。
「顔を上げて、ロックウィーナ。キミが謝ることはありません」
私は言われた通り顔を上げた。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
キースは私をずっと好きだったと言った。気持ちに蓋をして誤魔化していたそうだ。私はそんな彼の様子にまるで気づかずに、無神経に甘えて頼りにもしていた。……傷付けてしまっていただろう。
「ふふ、キミは解りやすいな。僕を傷付けたんじゃないかと怖がってない?」
キースはくだけた口調で図星を指した。
「お兄ちゃんだと思うのは仕方が無いよな。僕がそう接してきたんだから。キミに恋をすることが怖かった。でもキミと関わっていたくて、兄と言うポジションに収まっていたんだ。ルパートと一緒。……だからキミのせいじゃないんだ」
「でも……、私いろいろと図々しかったです」
「いいんだよ。僕がキミに甘えて欲しかったんだから」
キースはイスごとずれて私のすぐ隣へ来た。
「ロックウィーナ、そんなに早く答えを出さないでくれ。それとも1パーセントの可能性も無いくらい、僕には男としての魅力が無い?」
そんなことは決して無い、キースは素敵だ! 私は思わず力いっぱい頭を左右に振ってしまった。キースに「ぷ」と軽く笑われてしまった。
「ならさ、もう少し時間をかけて僕を見てよ」
「で、でも、私はエリアスさんにルパート先輩、アルにまでプロポーズらしきものをされているんです。ハッキリしない態度で複数の男の人をキープするなんて、まんまビッチちゃんじゃないですか」
また「ぷ」と笑われた。
「じゃあ彼らにもお断りを入れるの?」
「はい。今みたいに落ち着いて話せる時に」
「それじゃあ全員を振ってしまうことになるよね? いいの?」
「うう……」
こんなモテ期はもう二度と来ないだろう。
「本音を言うと凄く勿体無いと思います! たぶん後で激しく後悔すると思います!」
「ぶはっ」
今度は確実に噴き出して笑われた。
「だったら開き直りなよ」
「でも……煮え切らない態度でいるのは卑怯です。ズルイです。迷って答えが出せないのなら、相手を解放するべきだと思うんです」
相手の恋心を知っていながら、付かず離れずの距離を取るのは残酷な行為だ。かつてルパートにやられて私は苦しんだ。あれをキースや他の人にやりたくない。ルパートにも。
夜に異性の部屋へ行ってはいけないとキース自身から注意を受けていたが、現在の時刻は16時10分。まだ夕飯も済ませていない日暮れ前だ。大丈夫だよね? だからキースも誘ったのだろうし。
それに落ち着いた所でもう少しキースとお話ししたかった。
出動先で「愛している」と言われて、その言葉の衝撃に前後不覚となってしまった私。
毎回そうだ。情けない。相手が真剣に向き合ってくれているというのに、私は動揺してしまったと、それを言い訳にして明確な答えから逃げている。
これでは駄目だ。
「どうぞ。ミルクティーにしました。熱いから気をつけて」
「あ、ありがとうございます……」
イスに座る私はキースからティーカップを受け取って、息を吹きかけて冷ました最初の一口を含んだ。ミルクの優しい口当たりとほのかな甘さが身体に染み渡る。
穏やかに微笑むキース。彼は私をリラックスさせようとしてくれているんだろう。優しい人。だからこそ曖昧な態度を取ってはいけないんだ。
私はテーブルにカップを置いて、キースと正面から向き合った。そして言った。
「ごめんなさい」
否定の言葉は受ける側も伝える側もつらい。
「キース先輩のことはとても素敵な男性だと思います。ぶっちゃけると、先輩みたいな人とゆっくり恋ができたら素敵だろ~な~的な妄想もしていました」
あ、「妄想」じゃなくて「想像」って言えば良かった! 口に出した言葉はもう戻ってこない(泣)。
「でも、私にとって先輩は優しいお兄ちゃんなんです」
キースは表情を変えない。
「だから、恋人関係にはなれないです。ごめんなさい……」
私は頭を下げた。好意を抱いてくれたことには本当に嬉しくて感謝しているが、彼を兄と慕う私は気持ちに応えられない。
「顔を上げて、ロックウィーナ。キミが謝ることはありません」
私は言われた通り顔を上げた。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
キースは私をずっと好きだったと言った。気持ちに蓋をして誤魔化していたそうだ。私はそんな彼の様子にまるで気づかずに、無神経に甘えて頼りにもしていた。……傷付けてしまっていただろう。
「ふふ、キミは解りやすいな。僕を傷付けたんじゃないかと怖がってない?」
キースはくだけた口調で図星を指した。
「お兄ちゃんだと思うのは仕方が無いよな。僕がそう接してきたんだから。キミに恋をすることが怖かった。でもキミと関わっていたくて、兄と言うポジションに収まっていたんだ。ルパートと一緒。……だからキミのせいじゃないんだ」
「でも……、私いろいろと図々しかったです」
「いいんだよ。僕がキミに甘えて欲しかったんだから」
キースはイスごとずれて私のすぐ隣へ来た。
「ロックウィーナ、そんなに早く答えを出さないでくれ。それとも1パーセントの可能性も無いくらい、僕には男としての魅力が無い?」
そんなことは決して無い、キースは素敵だ! 私は思わず力いっぱい頭を左右に振ってしまった。キースに「ぷ」と軽く笑われてしまった。
「ならさ、もう少し時間をかけて僕を見てよ」
「で、でも、私はエリアスさんにルパート先輩、アルにまでプロポーズらしきものをされているんです。ハッキリしない態度で複数の男の人をキープするなんて、まんまビッチちゃんじゃないですか」
また「ぷ」と笑われた。
「じゃあ彼らにもお断りを入れるの?」
「はい。今みたいに落ち着いて話せる時に」
「それじゃあ全員を振ってしまうことになるよね? いいの?」
「うう……」
こんなモテ期はもう二度と来ないだろう。
「本音を言うと凄く勿体無いと思います! たぶん後で激しく後悔すると思います!」
「ぶはっ」
今度は確実に噴き出して笑われた。
「だったら開き直りなよ」
「でも……煮え切らない態度でいるのは卑怯です。ズルイです。迷って答えが出せないのなら、相手を解放するべきだと思うんです」
相手の恋心を知っていながら、付かず離れずの距離を取るのは残酷な行為だ。かつてルパートにやられて私は苦しんだ。あれをキースや他の人にやりたくない。ルパートにも。
1
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。
あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。
木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。
本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。
しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。
特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。
せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。
そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。
幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。
こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。
※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる