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合宿中は恋のフラグが乱立する!?(4)
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「おまえ髪の毛濡れてるぞ?」
「さっきまでお湯で頭皮を清めていたから」
「涼しい時期なんだからちゃんと乾かさないとな。温かなる風よ、この者を優しく包め」
ルパートが得意の風魔法を使って、私へ向けて柔らかい風を起こした。おお、何だか温かい気もする。
「……さっきのが、嫉妬から出た言葉だったら嬉しいんだけどな」
さっき? ああ、マリナと意気投合の件か。
「まー、おまえの場合それは絶対に無いな!」
ルパートは笑って頭を振った。
「……………………」
私は何も言わなかった。
本当はちょっぴり嫉妬してた。私以外の女性と仲良くするルパートを見て、彼が急に遠い存在になったような、落ち着かない寂しさを感じていた。
今は彼に摘まれている髪の毛がくすぐったい。
でもまだこの気持ちは彼に伝えられない。今はまだ……。
私とルパートは並んで腰かけた。21時過ぎの完全なる夜、人目を遮断する大樹の陰に身を潜めるように。
……身構えなくていい。隣の長髪はいつも一緒に居るルパートお兄ちゃんだ。口が悪くて人の恋人候補を勝手に遠ざけるお邪魔虫で、仕事以外の用事も言いつける俺様野郎で、だけどずっと私を護ってくれていた頼もしいイケメンで……。
(だあっ!)
ルパートの良い要素は思い出しちゃ駄目! 今この瞬間に必要無い!
私は頭を抱えた。わあぉ。ルパートの風魔法のおかげでサラッサラに乾いていた。手櫛だけで整う髪、サロンクオリティ。あの風ってばトリートメント効果も有るんじゃないかしら。
「……何かさ」
ルパートが空で輝く三日月を見ながら口を開いた。
「俺達はほぼ毎日一緒に居たからさ、おまえと離れて行動するって……、何か気分が落ち着かないんだよ」
改めて考えてみると異常だよね。休日も何だかんだで一緒に過ごす日が多かった。そりゃーお互い恋人なんてできる訳がないよ。ハハハ……。
そして自分の鈍さに呆れてしまった。
ルパートがずっと私に惚れていたというのは事実だろう。気の無い相手に毎日付き纏う人間なんて居ない。嫌っていたらバディを解消していただろうし、無関心ならプライベートな時間にまで声はかけない。
とても簡単な答えだったのに、一度振られたことで私は何も見えなくなってしまっていた。ルパートが私の傍に居たのは私を好きだったからなんだ。
(まー、当のルパート本人も恋心に気づいていなかったんだけどね!)
何てお間抜けな二人。貴重な二十代前半を思いっきり無駄に消費してしまったよ。せめてねぇ、もっと早くルパートが気づいて告白してくれていたならなぁ。
そのルパートは月に目線を定めたまま、静かな声で聞いてきた。
「おまえはどうなんだウィー。俺とは別行動だが……馬車の連中と上手くやれているか? 困っていることはないか?」
「うーん……。今のところは特に困ってないですね。一緒の馬車に乗るみんなも、知り合ったミラとマリナも親切にしてくれるので」
「……そうか」
ルパートは寂しそうに笑った。
「おまえ、出動のバディを変えたいとか思ってるか?」
「…………はい?」
おいおい金髪のゲス貴公子、今更それを言うの? 私を解放せず近くに縛り付けていたあなたが。
ここでもし私が、「別の人との方が気が合いそう」とか答えたらどうするのさ。諦めるの? 身を引くの?
(困った人)
でもそれがルパートなんだろうなぁ。意地っ張りで強引で、それなのに私の気持ちが何処を向いているのか、不安になってすぐ確かめようとする。
そんな幼稚で我儘なあなたと上手くやれる人間なんて、七年も一緒に居た私くらいのもんでしょうが。
「私のバディの相手は、今のままルパート先輩がいいです」
「………………え」
「お互いのクセとか解っているから、コンビネーションが取りやすいです。上手くいっているペアを変える必要は無いかと」
ルパートが驚いた顔をして私を見た。
「そうなのか? 俺でいいのか? 俺は……ずっとおまえを振り回してきた男だぞ?」
「ええ。とは言っても、あくまでも仕事上での話ですよ? 恋人になるとかは異次元レベルでの別問題ですからね」
「たとえ仕事の付き合いだとしても……、俺が相棒として傍に居てもいいのか?」
らしくない謙虚な姿勢だ。綺麗なお月様を眺めて心が清められたか。
「先輩が私にした酷いことは、もう蒸し返さないことに決めました」
「どうして?」
「前の周回でですが、私の鬱積した感情は一度しっかり先輩へぶつけたんです。蹴りと共に」
「蹴り……」
「残念ながら蹴りはほとんど避けられましたけどね。溜まってた不満は言えたから……、だからいいんです」
「この時間軸の俺にはぶつけてないぞ?」
「こっちの世界でも、キース先輩に諭されて反省してくれたでしょ? そして私と良い関係を築こうと努力してくれていますよね? ならもう……昔のことはいいんです」
「良くないだろ!」
ルパートが顔を接近させた。近い近い。エリアス並みに近い。距離を取ろうと私は横へ少し傾いた。
「おまえを俺は何年にも渡って傷付けてきたんだ。簡単に許すなよ!!」
うわぁ面倒臭いなぁ。いいって言ってんだから素直に受け止めなさいよ。
「だから? それで責任を取る為に私へプロポーズしたんですか? そんな経由で結婚だなんて、私すっごい惨めじゃないですか」
「違う! そうじゃない、そうじゃないんだ……」
「?………………」
苦しそうにルパートは端正な顔を歪めた。そして更に私へ接近した。逃げる為に身体を余計に傾けた私は……ゴロン、草の上に寝転がってしまった。
「おい!」
ルパートは私を起き上がらせようと手を伸ばしたが、
「……………………」
私に到達する前にその手を止めてしまった。何で? 引っ張り上げてくれないの?
「……………………」
見下ろすだけで放置プレイのルパート。痺れを切らせた私は自力で起き上がろうとした。しかし私が身体を起こす前に、隣のルパートがゆっくり身体を倒してきたのだった。
「さっきまでお湯で頭皮を清めていたから」
「涼しい時期なんだからちゃんと乾かさないとな。温かなる風よ、この者を優しく包め」
ルパートが得意の風魔法を使って、私へ向けて柔らかい風を起こした。おお、何だか温かい気もする。
「……さっきのが、嫉妬から出た言葉だったら嬉しいんだけどな」
さっき? ああ、マリナと意気投合の件か。
「まー、おまえの場合それは絶対に無いな!」
ルパートは笑って頭を振った。
「……………………」
私は何も言わなかった。
本当はちょっぴり嫉妬してた。私以外の女性と仲良くするルパートを見て、彼が急に遠い存在になったような、落ち着かない寂しさを感じていた。
今は彼に摘まれている髪の毛がくすぐったい。
でもまだこの気持ちは彼に伝えられない。今はまだ……。
私とルパートは並んで腰かけた。21時過ぎの完全なる夜、人目を遮断する大樹の陰に身を潜めるように。
……身構えなくていい。隣の長髪はいつも一緒に居るルパートお兄ちゃんだ。口が悪くて人の恋人候補を勝手に遠ざけるお邪魔虫で、仕事以外の用事も言いつける俺様野郎で、だけどずっと私を護ってくれていた頼もしいイケメンで……。
(だあっ!)
ルパートの良い要素は思い出しちゃ駄目! 今この瞬間に必要無い!
私は頭を抱えた。わあぉ。ルパートの風魔法のおかげでサラッサラに乾いていた。手櫛だけで整う髪、サロンクオリティ。あの風ってばトリートメント効果も有るんじゃないかしら。
「……何かさ」
ルパートが空で輝く三日月を見ながら口を開いた。
「俺達はほぼ毎日一緒に居たからさ、おまえと離れて行動するって……、何か気分が落ち着かないんだよ」
改めて考えてみると異常だよね。休日も何だかんだで一緒に過ごす日が多かった。そりゃーお互い恋人なんてできる訳がないよ。ハハハ……。
そして自分の鈍さに呆れてしまった。
ルパートがずっと私に惚れていたというのは事実だろう。気の無い相手に毎日付き纏う人間なんて居ない。嫌っていたらバディを解消していただろうし、無関心ならプライベートな時間にまで声はかけない。
とても簡単な答えだったのに、一度振られたことで私は何も見えなくなってしまっていた。ルパートが私の傍に居たのは私を好きだったからなんだ。
(まー、当のルパート本人も恋心に気づいていなかったんだけどね!)
何てお間抜けな二人。貴重な二十代前半を思いっきり無駄に消費してしまったよ。せめてねぇ、もっと早くルパートが気づいて告白してくれていたならなぁ。
そのルパートは月に目線を定めたまま、静かな声で聞いてきた。
「おまえはどうなんだウィー。俺とは別行動だが……馬車の連中と上手くやれているか? 困っていることはないか?」
「うーん……。今のところは特に困ってないですね。一緒の馬車に乗るみんなも、知り合ったミラとマリナも親切にしてくれるので」
「……そうか」
ルパートは寂しそうに笑った。
「おまえ、出動のバディを変えたいとか思ってるか?」
「…………はい?」
おいおい金髪のゲス貴公子、今更それを言うの? 私を解放せず近くに縛り付けていたあなたが。
ここでもし私が、「別の人との方が気が合いそう」とか答えたらどうするのさ。諦めるの? 身を引くの?
(困った人)
でもそれがルパートなんだろうなぁ。意地っ張りで強引で、それなのに私の気持ちが何処を向いているのか、不安になってすぐ確かめようとする。
そんな幼稚で我儘なあなたと上手くやれる人間なんて、七年も一緒に居た私くらいのもんでしょうが。
「私のバディの相手は、今のままルパート先輩がいいです」
「………………え」
「お互いのクセとか解っているから、コンビネーションが取りやすいです。上手くいっているペアを変える必要は無いかと」
ルパートが驚いた顔をして私を見た。
「そうなのか? 俺でいいのか? 俺は……ずっとおまえを振り回してきた男だぞ?」
「ええ。とは言っても、あくまでも仕事上での話ですよ? 恋人になるとかは異次元レベルでの別問題ですからね」
「たとえ仕事の付き合いだとしても……、俺が相棒として傍に居てもいいのか?」
らしくない謙虚な姿勢だ。綺麗なお月様を眺めて心が清められたか。
「先輩が私にした酷いことは、もう蒸し返さないことに決めました」
「どうして?」
「前の周回でですが、私の鬱積した感情は一度しっかり先輩へぶつけたんです。蹴りと共に」
「蹴り……」
「残念ながら蹴りはほとんど避けられましたけどね。溜まってた不満は言えたから……、だからいいんです」
「この時間軸の俺にはぶつけてないぞ?」
「こっちの世界でも、キース先輩に諭されて反省してくれたでしょ? そして私と良い関係を築こうと努力してくれていますよね? ならもう……昔のことはいいんです」
「良くないだろ!」
ルパートが顔を接近させた。近い近い。エリアス並みに近い。距離を取ろうと私は横へ少し傾いた。
「おまえを俺は何年にも渡って傷付けてきたんだ。簡単に許すなよ!!」
うわぁ面倒臭いなぁ。いいって言ってんだから素直に受け止めなさいよ。
「だから? それで責任を取る為に私へプロポーズしたんですか? そんな経由で結婚だなんて、私すっごい惨めじゃないですか」
「違う! そうじゃない、そうじゃないんだ……」
「?………………」
苦しそうにルパートは端正な顔を歪めた。そして更に私へ接近した。逃げる為に身体を余計に傾けた私は……ゴロン、草の上に寝転がってしまった。
「おい!」
ルパートは私を起き上がらせようと手を伸ばしたが、
「……………………」
私に到達する前にその手を止めてしまった。何で? 引っ張り上げてくれないの?
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