ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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合宿中は恋のフラグが乱立する!?(5)

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「!?」

 私の頭を挟む形で地面に付けられたルパートの両腕。そして彼の両膝は私の腰を挟む位置に置かれていた。こ、これは……壁ドンならぬ地面ドン!?
 私が下でルパートが上。きゃあぁ。偶然に誰かがここを通りかかったら、今の私達をどう見るのだろう。情事の前だと勘違いするに1万ゴル。

(とか実況してる場合じゃな──い!!)

 真剣な眼差しの男にマウントポジション取られちゃったよ! 嬉しいよりも怖いよ!!
 どうしてエリアスもアルクナイトもルパートも、男達って女に心の準備をさせてくれないの!?
 樹をり倒す時には「たーおれーるぞー」って声かけるじゃない。あれと同じだよ。危険をあらかじめ知らせてよ。
 私のことを「危機感が無い」ってみんな責めるけどさ、アンタらだって不意打ちで仕掛けてくるんじゃん。これをどうやって察知すればいいの。

「ウィー……」

 私の顔すぐ前にルパートの顔が有る。どうしよう、どうしよう。

「俺は……おまえに無関心になられるくらいなら、憎まれたままの方がいい……!」

 ………………え?
 何か予想外の囁きが聞こえたような。

「どんな感情でもいい。おまえの心に残っていたいんだ」

 気のせいじゃない。口説き文句ではなく、これはルパートの懇願だった。

「だから、俺を許さないでくれ」

 ……………………。
 私は拍子抜けした。
 いつも余裕ぶって上から目線の彼が、必死に私へ切実な願いを訴えていた。

「ええと、先輩?」

 さっきまでドキドキしていた私の頭は急激に冷えていた。目の前の泣きそうな顔をした馬鹿野郎のせいだ。

「察するに、私があなたを簡単に許したことで不安になったんですね?」

 ルパートはバツの悪い顔をした。図星か。
 嫌いですらない、無関心。確かに好きな相手に「無い物」として扱われるのはしんどいよね。

「あのですね、あなたは簡単に忘却の彼方かなたへ追いやれるようなキャラじゃないですよ? しつこくてウザいくらいのお節介ですからね」

 苦笑するルパート。

「ごめん……」
「それに、私の尊敬する上司で頼もしい先輩ですからね。無関心でいられる訳がないでしょう?」
「!…………」

 仕事ができるってことは認めているよ。それに……七年間ずっと護ってくれたことも。女の私が出動班で頑張れるのは、ルパートの支えが有るからなんだよね。

「俺のことを……評価してくれるのか?」
「良い部分は。でも嫌な部分に関しては、上司であろうと心の中でウンコ野郎と毒づきますからね?」

 口にはできるだけ出さないようにする。腐っても上司だもの。ボーナス査定に響く。

「それでいい、ありがとう」

 やっとルパートは柔らかく笑った。そして次の瞬間真顔になった。

(今度は何だろう? まだ他に不安点が……)

 私の思考は中断された。急に視界が暗くなったのだ。月が雲に隠されたのかと思ったが違った。
 何も見えなくなるくらい、ルパートの顔が急接近していた。



「先ぱ……」

 今度は言葉が中断された。温かい彼の吐息が鼻先をくすぐった。

「ごめん」

 それだけ言って、ルパートは熱く柔らかい唇を私の唇に重ねた。

「!………………」

 ガン! と、脳に衝撃が走った。
 唇だけじゃない。胸と胸も接触していた。それだけ私達は密着していた。
 彼の心臓が速い鼓動音を私の身体へ伝えた。きっと私の鼓動も同じくらい速くなっていて、彼に動揺を気づかれている。
 私のまぶたは自然と閉じていた。こめかみの辺りにさわさわした物が触れている。ルパートの前髪だろう。

(キス……。私今、先輩とキスしてる…………!)

 怖い。それなのに身体がフワフワ宙を漂っているような感覚だ。でもやっぱり怖い。
 この先どうなるんだろう? 私はどうなっちゃうんだろう? 
 どうして私は拒まず、ルパートにキスを許しているんだろう…………?

 また先に行動を起こしたのはルパートの方だった。彼はバッと飛び起きて私から離れた。

「……………………」

 ルパートまだ地面に寝転んだままの私を数秒間見下ろして、それから舌打ちをした。
 はい? 舌打ち? キスの後に舌打ち?

「……もう女兵士用のテントへ戻った方がいい。すぐそこだから一人で行けるよな?」

 え。

「悪かったな」

 視線を合わせず私へ詫びたルパートは立ち上がり、そしてギルドテントの方角へさっさと立ち去ったのだった。

(は? はあぁぁぁぁぁ!?)

 独りで取り残された私は茫然と、暗闇に吞まれていくルパートの背中を見送った。

(ちょっとぉ! テントまで送ってくれないの? キスした相手だよ!?)

 おまけに舌打ち。……あれですか。キスしてみたものの、何か思った感じと違うとガッカリしちゃいましたか。そういうことですか?

「~~~~~~!!」

 やっぱりアイツは最低野郎だ。乙女の敵だ。
 私はルパートに対して、思いつく限りの悪態を心の中で繰り返し吐いた。怒りをまとわないと、恥ずかしさと惨めさでどうにかなってしまいそうだった。

(大切なファーストキスだったのに。あの馬鹿……)

 泣きそうになるのをこらえて、私もテントへ戻ることにした。


「お帰り!」
「ルパート主任と何か進展が有った!?」

 テントへ戻った私を出迎えてくれたミラとマリナは、鼻息荒く詰め寄ってきた。

「い、いや? ただの業務連絡だったよ……?」

 私は噓を言って誤魔化した。キスされた後にガッカリされたなんて言えない。知られたら泣く。これだったら本当に業務連絡の方がよっぽどマシだった。
 しかし引きった笑顔の私を見た彼女達は誤解したようだ。

「あちゃー、肩透かしを食らっちゃったかぁ。で行ったのに残念だったね」
「へ?」
「ホントよね。こっちはウェルカム状態だってのに、仕事の話は勘弁して欲しいわね……」
「う、ウェルカム!?」
「まー気を落とすなって。また機会は有るよ」

 どうやらミラとマリナの目には、デート気分でウッキウキでルパートの元へ向かった私が、彼にすげなく扱われてガッカリしているように映ったらしい。
 ちょっと待ってよ。プロポーズされて私は戸惑ってるって伝えたじゃん。るんるん気分で来たのはルパートの方だよ? 帰りはアレだったけど。
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