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二音 友達ゴッコ(四)
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「あの日、弟は友達と二人で自転車に乗って廃工場近くを走っていました。そうしたら上級生女子らしき集団が、立ち入り禁止されている工場地に入って行く姿が見えて、興味が湧いて後を追ったそうなんです」
蓮の顔が曇った。
「そこで弟は上級生の女子……、藍理達が九音の鬼をしているのを見たんです。でもとても遊んでいるようじゃなかったって……」
俺は唾を呑み込んだ。
「それは異様な光景でした。泣け叫ぶ梓ちゃんを、鬼の形相で追いかけ回す女子達。弟と弟の友達は、直感的に見てはいけないものを見たと思ったそうです。禁止された場所に入った後ろめたさも有って、その日のことは誰にも話さないよう約束したそうです。でもそれから梓ちゃんが学校に来なくなって、彼女のご両親が学校に怒鳴り込んで大騒ぎになって……。弟はあたしにだけ打ち明けたんです。お姉ちゃん、僕見たんだけどどうしようって」
小学三年生の男子が抱え込むには、重過ぎる秘密だったのだろう。怯えた瞳で恰幅の良い姉に縋る弟。情景が脳裏に浮かんだ。
「でもね、聞いたあたしもどうしたらいいか判らなくて。結局、何もしなかったんです」
蓮は唇を噛んだ。
「親や先生に言うべきだったのかもしれない。でも告げ口したって、藍理のグループに睨まれるのが怖かったんです。藍理の親は我が子の言い分を信じていたし。藍理の親と仲が良いウチの親も。何かね、余計なこと言えない空気っていうか……いや、あたしがヘタレなだけですけど」
「ずっと誰にも言わないままだったの?」
「はい……。今日の今日まで」
黙し続けることもつらかっただろう。怪談を語った際にトランス状態になった蓮は、長年のストレスから解放された姿だったのか。
「学校側はどういう対処をしたの?」
「それがですね、うやむやのまま終わっちゃったんですよ。廃工場を含む危険な場所で子供を遊ばせないようにって、一枚プリントが配られただけで保護者説明会すら無し。それというのも、最初は訴えてやるって息巻いていた梓ちゃんのご両親が、急に勢いを無くして、ぱったり学校に来なくなったから」
「へ、どうして?」
「判らないんです。しかもその後すぐに梓ちゃんのご両親は離婚して、梓ちゃんはお母さんと一緒に遠くへ引っ越しちゃった。大人の誰かが家に残ったお父さんに理由を聞いたらしいけど、何も聞かないでくれって言われたらしいです」
娘や学校の対応についいて、夫婦間での方針が定まらなかったのだろうか?
「藍理達は大ハシャギでしたよ。ほらね私達が正しかったでしょ? 梓ちゃんが引っ越したのはきっと、噓を吐いたことが親や先生にバレて居づらくなって逃げたのよ、そう言いふらしてました」
「クラスみんなの反応は?」
蓮は再び唇を噛んだ。
「それが……、時間と共に藍理達の主張が信じられていったんです。梓ちゃんはもう居ないし、あたしは直接見た訳じゃないし、弟をあたしの学年の問題に巻き込みたくなかったから……。つまり、藍理達に反論する人間が誰も居なかったんです。だから」
「相原さんは、違うと今でも思っているんだね?」
蓮がキッと俺を見据えた。
「はい。だって、あたしの弟が噓吐いたって何の得にもならないじゃないですか。それにね、この事件から藍理は九音の鬼を異常に嫌うようになったんです。下級生達がこっそり遊んでいたのを見た時や、九音の鬼に絡んだ話を聞いた時とか、すっごく引き攣った顔になるの。それって、やましい気持ちが有るからでしょう?」
俺はヒロの部屋での藍理を思い出していた。
「確かに、さっきの園部さんの様子を見ると何か有ると思えるね」
「あたしもさっきの藍理には驚きました。あそこまで取り乱すのは初めてだったから。あたし、イイ女ぶってる藍理にムカついて、ちょっと嫌がらせをしたくなって、それで藍理が苦手な九音の鬼の話をしたんです。でも、あんな風になるなんて思ってなくて。やり過ぎちゃった……ですよね」
これは本心だろう。泣き叫ぶ藍理に謝罪する姿も、今の肩を落とす姿も、反省の演技をしているようには見えなかった。蓮としては軽い皮肉のつもりだったものに、藍理が過剰に反応してしまったのだ。
「藍理は、どうしてあんなに……」
小学生時代、梓の両親に詰問されても受け流した藍理。気の強い女のはずだが。
「……さっきは、ヒロの前だったから?」
俺が導いた結論に蓮も同意した。
「そうだ、そうですよね、彼氏の前だったから。自分が過去にやったこと、ヒロくんに知られたくなかったんだ」
「それだけ園部さんはヒロのことが好きだってことだな」
「そういうことなんですよね。それなのに何で藍理、大鳥さんにまで色目を使うかなぁ?」
「へぁっ!?」
コイツ牽制球を投げてきやがったぞ。
「そんなことはないと思うけど」
「鈍いですよ。藍理の大鳥さんを見る目つき、とてもねっとりしてたもん」
そりゃおまえだろうよ。マンモスでも仕留めそうな勢いで俺に迫ってきたくせに。
話題を逸らせよう。
「……梓さん、可哀想に。仲良しグループじゃなかったの?」
「傍目にはそう見えましたよ。でも、実際は友達ゴッコをしていただけだったんですね」
「友達ゴッコ……」
「はい。藍理のグループは全員それぞれ、勉強だったりスポーツだったり自分の得意分野を持ってたんです。でも梓ちゃんは全てにおいて彼女達を上回ってた。あたしみたいなのは最初から勝負にならないから、素直に梓ちゃんは凄いなって思えたけど、そこそこ競り合って負けてた藍理達は面白くなかったと思いますよ」
「そっか……。だからといって、園部さん達のしたことは許されることじゃないけど」
相手に怪我を負わせて人気の無い場所に放置。大事になってつい逃げてしまったのかもしれないが、その後も噓を吐き続けて被害者を貶めたことは弁護しようが無い。小学五年生、もう物の分別がついている年頃だろうに。
「でしょう!?」
蓮の目が輝いた。
「藍理って、本当にヤな女なんですよ!」
蓮の顔が曇った。
「そこで弟は上級生の女子……、藍理達が九音の鬼をしているのを見たんです。でもとても遊んでいるようじゃなかったって……」
俺は唾を呑み込んだ。
「それは異様な光景でした。泣け叫ぶ梓ちゃんを、鬼の形相で追いかけ回す女子達。弟と弟の友達は、直感的に見てはいけないものを見たと思ったそうです。禁止された場所に入った後ろめたさも有って、その日のことは誰にも話さないよう約束したそうです。でもそれから梓ちゃんが学校に来なくなって、彼女のご両親が学校に怒鳴り込んで大騒ぎになって……。弟はあたしにだけ打ち明けたんです。お姉ちゃん、僕見たんだけどどうしようって」
小学三年生の男子が抱え込むには、重過ぎる秘密だったのだろう。怯えた瞳で恰幅の良い姉に縋る弟。情景が脳裏に浮かんだ。
「でもね、聞いたあたしもどうしたらいいか判らなくて。結局、何もしなかったんです」
蓮は唇を噛んだ。
「親や先生に言うべきだったのかもしれない。でも告げ口したって、藍理のグループに睨まれるのが怖かったんです。藍理の親は我が子の言い分を信じていたし。藍理の親と仲が良いウチの親も。何かね、余計なこと言えない空気っていうか……いや、あたしがヘタレなだけですけど」
「ずっと誰にも言わないままだったの?」
「はい……。今日の今日まで」
黙し続けることもつらかっただろう。怪談を語った際にトランス状態になった蓮は、長年のストレスから解放された姿だったのか。
「学校側はどういう対処をしたの?」
「それがですね、うやむやのまま終わっちゃったんですよ。廃工場を含む危険な場所で子供を遊ばせないようにって、一枚プリントが配られただけで保護者説明会すら無し。それというのも、最初は訴えてやるって息巻いていた梓ちゃんのご両親が、急に勢いを無くして、ぱったり学校に来なくなったから」
「へ、どうして?」
「判らないんです。しかもその後すぐに梓ちゃんのご両親は離婚して、梓ちゃんはお母さんと一緒に遠くへ引っ越しちゃった。大人の誰かが家に残ったお父さんに理由を聞いたらしいけど、何も聞かないでくれって言われたらしいです」
娘や学校の対応についいて、夫婦間での方針が定まらなかったのだろうか?
「藍理達は大ハシャギでしたよ。ほらね私達が正しかったでしょ? 梓ちゃんが引っ越したのはきっと、噓を吐いたことが親や先生にバレて居づらくなって逃げたのよ、そう言いふらしてました」
「クラスみんなの反応は?」
蓮は再び唇を噛んだ。
「それが……、時間と共に藍理達の主張が信じられていったんです。梓ちゃんはもう居ないし、あたしは直接見た訳じゃないし、弟をあたしの学年の問題に巻き込みたくなかったから……。つまり、藍理達に反論する人間が誰も居なかったんです。だから」
「相原さんは、違うと今でも思っているんだね?」
蓮がキッと俺を見据えた。
「はい。だって、あたしの弟が噓吐いたって何の得にもならないじゃないですか。それにね、この事件から藍理は九音の鬼を異常に嫌うようになったんです。下級生達がこっそり遊んでいたのを見た時や、九音の鬼に絡んだ話を聞いた時とか、すっごく引き攣った顔になるの。それって、やましい気持ちが有るからでしょう?」
俺はヒロの部屋での藍理を思い出していた。
「確かに、さっきの園部さんの様子を見ると何か有ると思えるね」
「あたしもさっきの藍理には驚きました。あそこまで取り乱すのは初めてだったから。あたし、イイ女ぶってる藍理にムカついて、ちょっと嫌がらせをしたくなって、それで藍理が苦手な九音の鬼の話をしたんです。でも、あんな風になるなんて思ってなくて。やり過ぎちゃった……ですよね」
これは本心だろう。泣き叫ぶ藍理に謝罪する姿も、今の肩を落とす姿も、反省の演技をしているようには見えなかった。蓮としては軽い皮肉のつもりだったものに、藍理が過剰に反応してしまったのだ。
「藍理は、どうしてあんなに……」
小学生時代、梓の両親に詰問されても受け流した藍理。気の強い女のはずだが。
「……さっきは、ヒロの前だったから?」
俺が導いた結論に蓮も同意した。
「そうだ、そうですよね、彼氏の前だったから。自分が過去にやったこと、ヒロくんに知られたくなかったんだ」
「それだけ園部さんはヒロのことが好きだってことだな」
「そういうことなんですよね。それなのに何で藍理、大鳥さんにまで色目を使うかなぁ?」
「へぁっ!?」
コイツ牽制球を投げてきやがったぞ。
「そんなことはないと思うけど」
「鈍いですよ。藍理の大鳥さんを見る目つき、とてもねっとりしてたもん」
そりゃおまえだろうよ。マンモスでも仕留めそうな勢いで俺に迫ってきたくせに。
話題を逸らせよう。
「……梓さん、可哀想に。仲良しグループじゃなかったの?」
「傍目にはそう見えましたよ。でも、実際は友達ゴッコをしていただけだったんですね」
「友達ゴッコ……」
「はい。藍理のグループは全員それぞれ、勉強だったりスポーツだったり自分の得意分野を持ってたんです。でも梓ちゃんは全てにおいて彼女達を上回ってた。あたしみたいなのは最初から勝負にならないから、素直に梓ちゃんは凄いなって思えたけど、そこそこ競り合って負けてた藍理達は面白くなかったと思いますよ」
「そっか……。だからといって、園部さん達のしたことは許されることじゃないけど」
相手に怪我を負わせて人気の無い場所に放置。大事になってつい逃げてしまったのかもしれないが、その後も噓を吐き続けて被害者を貶めたことは弁護しようが無い。小学五年生、もう物の分別がついている年頃だろうに。
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蓮の目が輝いた。
「藍理って、本当にヤな女なんですよ!」
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