九音の鬼 ~それは禁じられた鬼ゴッコ~

水無月礼人

文字の大きさ
13 / 64

二音  友達ゴッコ(五)

しおりを挟む
 藍理に対して不快感を匂わせた俺を見て、蓮の声がどんどん弾んでいった。身体を覆うお肉と共に。

「男の人ってみんなすぐ、藍理の外見や態度に騙されちゃうんです。本当はあのコ、今話した通り内面が真っ黒なのに」
「そ、そうなんだ」
「大鳥さんだってあたしの話を聞くまでは、藍理のことイイ女だって思っていませんでした?」
「ハハハ……」
「あのコ、男の人に取り入るの上手いからなー。女のコは藍理の腹黒さに気づいて距離置いたりするんだけど」

 まいったな。このまま藍理の悪口を延々と聞かされそうな雰囲気だ。

「そうそう、藍理ったらね、中学時代に一目惚れしたバスケ部の先輩、相手には彼女が居たのに差し入れで猛アピールして略奪したんですよ。なのに飽きてたったの二ヶ月で別れたんです」
「凄いね……」
「異性関係ではあのコ、悪評だらけですよー。高校時代なんてもっと酷くて……」
「あ、飲み物無くなった。ドリンクバーに行ってくるよ」

 話の腰を折る為に俺は席を立った。
 去り際に蓮の料理の皿を見て驚いた。あれだけ喋っていたというのに、一片も残さず綺麗に平らげていやがった。ボリュームがそれなりに有って、しかも熱いドリアだぞ!? 時間的に完食は不可能だと思えた。噛まずに吞んだのか?

「どこまで話しましたっけ。あ、高校時代からですね」

 烏龍茶をカップにそそいで戻った俺に、蓮は許可を取らずに話を再開した。

「ビックリなんですけどあのコ、最高で一度に四股していたそうですよ。これ教えてくれたのは、藍理と同じ学校に進学した中学時代の友達です。雰囲気美人のくせに、つるんでいた男子からの組織票でミスコンにもエントリーされたらしいです。ま、流石にグランプリは正統派美少女が獲ったみたいだけど」

 もうやめろってば。中座した意味が無いじゃないか。

「相原さんはずっと喋っているけど、喉が渇かないの?」
「マンゴーパフェ食べたので、しばらくは大丈夫です」
「ヒッ」

 いつの間にか蓮のシーフードドリアの皿が下げられており、替わりにパフェ用の器が置かれていた。それも空だったのだが。

「俺が席を離れていた間に、デザートが来たの……?」
「はい」

 当たり前のように蓮は言ったが、俺が席とドリンクバーを往復した時間は二分足らずだぞ。パフェはいったい何処に消えた!?

「藍理ってば男子だけじゃなくて、担任の先生にもちょっかいを出してたそうですよ。それで内申点を上げてもらったとか」
「そう……」

 俺の皿には料理がまだ三分の一ほど残っていた。しかし食欲が減退していた。蓮が蛇の如くパフェを丸吞みしている姿を想像してしまったのと、幼馴染みに向けられる際限の無い悪意に辟易へきえきしたせいだ。

「性根が腐ってるんですよ、あのコは」

 ではおまえはどうなんだと問いたかった。
 蓮の思惑通り、俺の中で藍理の評価は著しく下降した。次にまた彼女に会っても、ときめくことはもう無いだろう。だがな、本人の居ない所で悪口を用いて足を引っ張る、おまえのその行動も充分に醜いものなんだぞ?

堕胎だたいしたって話も聞いたな~。ま、これは噂に過ぎないでしょうけど。でもそういう噂を流されるってこと自体、藍理の素行に問題が有るんですよ」

 俺は頭を抱えたい気分だった。頼む、もうやめてくれ。本気で反省した態度と意外な礼儀正しさで、一度はおまえのことを見直したのに。
 モテない女の妬みとひがみをふんだんに盛り込んだ陰口を延々と聞かされ、俺は本気で蓮のことが嫌いになりそうだった。

「そんなこんなで整形でしょ? 何処まで行くつもりなんですかね~あのコは」
「さぁ」

 もはや俺はコイツの話を真剣に聞く気になれなかった。生返事で応じつつ、食事を終えることに専念した。

「ヒロくんは整形のこと知ってるのかなぁ。藍理、言ってないんじゃないかなぁ」

 それはヒロと藍理、恋人二人の問題だ。外野が口を挟むことじゃないだろう。

「整形したこと、そもそも藍理のお母さんは知ってるのかなぁ?」

 もぐもぐごっくん。ふい~、食べ終わったぞ。そして俺の忍耐は限界に達していた。

「相原さん!」

 俺は鋭い声音こわねで毒を吐く丸い物体を制した。

「へっ、は、はいっ!?」

 蓮はワタワタしていた。

「……遅くなるから、もう帰ろうよ」
「ええ~、あたしは大丈夫ですよ? オールでも。明日は特に予定無いしぃ。大鳥さんの会社も土曜日曜はお休みでしょ?」

 長い髪の先を指に巻き付けながら、蓮は上目遣いでパチパチまたたいた。

「ちょっとお酒も飲みたいしぃ。あ、これからカラオケでもどうですか?」
「悪いけど俺は暇じゃないから。明日もやりたいことが有るし。先に失礼するよ」

 我ながら刺々とげとげしい言い方だ。だが構うもんか。女性というだけでこの醜悪な肉饅頭を、一時でもレディとして扱ってやったのがそもそもの間違いだった。奴を調子に乗らせてしまった。
 俺はスッと席を立った。

「え、ちょ、そんな……。あ、そうだ、アドレス交換しましょう!」

 蓮は携帯電話を取り出そうとしたのだろう、ソファー席の自身の横に置いていた蛍光ピンクのショルダーバッグを開け、勢いづいてバッグの中身をそのまま床にぶちまけた。散らばるメイク用品、財布にポーチ、個別包装されたチョコレートやクッキー。おやつ持参かよ。
 慌ててそれらを拾い集める蓮を俺は手助けせず、伝票を持ってレジスターへ向かった。手切れ金としてここはおごってやる。

 頑張った、頑張ったよ俺。よく付き合ったよこんな長い時間。
 心の中で自分を褒めつつ、颯爽さっそうと支払いを済ませる俺。まだ席でガチャガチャやっている蓮。無視して店外へ出る俺。自動ドアが閉まる瞬間、背後で何か動物の咆哮ほうこうが聞こえた気がしたが、うん、気のせいだろう。さらば人外魔豚じんがいまとん

「ふう~っ」

 伸びをして背中を縮みから解放した。
 気持ちが良いな。あれ、つい一時間前にも同じ行動を取ったような。今日の俺はストレスが半端無い。最悪な週末になったよ、まったく。
 ああ、のんびりしてはいられない。

「駅前の店で幸いだった」

 電車もタクシーも使え、まだ人通りの多い時間帯だ。女を送らなかったと非難を受けるいわれは無い。俺は当然だが蓮を待たずに駅の改札口を通過して、自宅方向へ向かう上り電車のホームに競歩選手並の早足で到達した。
 この時の俺はとにかくブヒモスをくことのみに意識を集中していて、ヒロを思いやる余裕が残っていなかった。せめて次の日、電話の一本でも入れてヒロの心情をフォローしていれば……。

 何もしなかったから。その罪悪感から、俺はこの後に起こる凄惨な事件に自ら深入りする羽目におちいるのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

1分で読める怖い話短編集

しょくぱん
ホラー
一分で読める怖い話を定期的に投稿しています。 感想などをいただけると嬉しいです。 応援よろしくお願いします。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

処理中です...