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二音 友達ゴッコ(五)
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藍理に対して不快感を匂わせた俺を見て、蓮の声がどんどん弾んでいった。身体を覆うお肉と共に。
「男の人ってみんなすぐ、藍理の外見や態度に騙されちゃうんです。本当はあのコ、今話した通り内面が真っ黒なのに」
「そ、そうなんだ」
「大鳥さんだってあたしの話を聞くまでは、藍理のことイイ女だって思っていませんでした?」
「ハハハ……」
「あのコ、男の人に取り入るの上手いからなー。女のコは藍理の腹黒さに気づいて距離置いたりするんだけど」
まいったな。このまま藍理の悪口を延々と聞かされそうな雰囲気だ。
「そうそう、藍理ったらね、中学時代に一目惚れしたバスケ部の先輩、相手には彼女が居たのに差し入れで猛アピールして略奪したんですよ。なのに飽きてたったの二ヶ月で別れたんです」
「凄いね……」
「異性関係ではあのコ、悪評だらけですよー。高校時代なんてもっと酷くて……」
「あ、飲み物無くなった。ドリンクバーに行ってくるよ」
話の腰を折る為に俺は席を立った。
去り際に蓮の料理の皿を見て驚いた。あれだけ喋っていたというのに、一片も残さず綺麗に平らげていやがった。ボリュームがそれなりに有って、しかも熱いドリアだぞ!? 時間的に完食は不可能だと思えた。噛まずに吞んだのか?
「どこまで話しましたっけ。あ、高校時代からですね」
烏龍茶をカップに注いで戻った俺に、蓮は許可を取らずに話を再開した。
「ビックリなんですけどあのコ、最高で一度に四股していたそうですよ。これ教えてくれたのは、藍理と同じ学校に進学した中学時代の友達です。雰囲気美人のくせに、つるんでいた男子からの組織票でミスコンにもエントリーされたらしいです。ま、流石にグランプリは正統派美少女が獲ったみたいだけど」
もうやめろってば。中座した意味が無いじゃないか。
「相原さんはずっと喋っているけど、喉が渇かないの?」
「マンゴーパフェ食べたので、しばらくは大丈夫です」
「ヒッ」
いつの間にか蓮のシーフードドリアの皿が下げられており、替わりにパフェ用の器が置かれていた。それも空だったのだが。
「俺が席を離れていた間に、デザートが来たの……?」
「はい」
当たり前のように蓮は言ったが、俺が席とドリンクバーを往復した時間は二分足らずだぞ。パフェはいったい何処に消えた!?
「藍理ってば男子だけじゃなくて、担任の先生にもちょっかいを出してたそうですよ。それで内申点を上げてもらったとか」
「そう……」
俺の皿には料理がまだ三分の一ほど残っていた。しかし食欲が減退していた。蓮が蛇の如くパフェを丸吞みしている姿を想像してしまったのと、幼馴染みに向けられる際限の無い悪意に辟易したせいだ。
「性根が腐ってるんですよ、あのコは」
ではおまえはどうなんだと問いたかった。
蓮の思惑通り、俺の中で藍理の評価は著しく下降した。次にまた彼女に会っても、ときめくことはもう無いだろう。だがな、本人の居ない所で悪口を用いて足を引っ張る、おまえのその行動も充分に醜いものなんだぞ?
「堕胎したって話も聞いたな~。ま、これは噂に過ぎないでしょうけど。でもそういう噂を流されるってこと自体、藍理の素行に問題が有るんですよ」
俺は頭を抱えたい気分だった。頼む、もうやめてくれ。本気で反省した態度と意外な礼儀正しさで、一度はおまえのことを見直したのに。
モテない女の妬みと僻みをふんだんに盛り込んだ陰口を延々と聞かされ、俺は本気で蓮のことが嫌いになりそうだった。
「そんなこんなで整形でしょ? 何処まで行くつもりなんですかね~あのコは」
「さぁ」
もはや俺はコイツの話を真剣に聞く気になれなかった。生返事で応じつつ、食事を終えることに専念した。
「ヒロくんは整形のこと知ってるのかなぁ。藍理、言ってないんじゃないかなぁ」
それはヒロと藍理、恋人二人の問題だ。外野が口を挟むことじゃないだろう。
「整形したこと、そもそも藍理のお母さんは知ってるのかなぁ?」
もぐもぐごっくん。ふい~、食べ終わったぞ。そして俺の忍耐は限界に達していた。
「相原さん!」
俺は鋭い声音で毒を吐く丸い物体を制した。
「へっ、は、はいっ!?」
蓮はワタワタしていた。
「……遅くなるから、もう帰ろうよ」
「ええ~、あたしは大丈夫ですよ? オールでも。明日は特に予定無いしぃ。大鳥さんの会社も土曜日曜はお休みでしょ?」
長い髪の先を指に巻き付けながら、蓮は上目遣いでパチパチ瞬いた。
「ちょっとお酒も飲みたいしぃ。あ、これからカラオケでもどうですか?」
「悪いけど俺は暇じゃないから。明日もやりたいことが有るし。先に失礼するよ」
我ながら刺々しい言い方だ。だが構うもんか。女性というだけでこの醜悪な肉饅頭を、一時でもレディとして扱ってやったのがそもそもの間違いだった。奴を調子に乗らせてしまった。
俺はスッと席を立った。
「え、ちょ、そんな……。あ、そうだ、アドレス交換しましょう!」
蓮は携帯電話を取り出そうとしたのだろう、ソファー席の自身の横に置いていた蛍光ピンクのショルダーバッグを開け、勢いづいてバッグの中身をそのまま床にぶちまけた。散らばるメイク用品、財布にポーチ、個別包装されたチョコレートやクッキー。おやつ持参かよ。
慌ててそれらを拾い集める蓮を俺は手助けせず、伝票を持ってレジスターへ向かった。手切れ金としてここは奢ってやる。
頑張った、頑張ったよ俺。よく付き合ったよこんな長い時間。
心の中で自分を褒めつつ、颯爽と支払いを済ませる俺。まだ席でガチャガチャやっている蓮。無視して店外へ出る俺。自動ドアが閉まる瞬間、背後で何か動物の咆哮が聞こえた気がしたが、うん、気のせいだろう。さらば人外魔豚。
「ふう~っ」
伸びをして背中を縮みから解放した。
気持ちが良いな。あれ、つい一時間前にも同じ行動を取ったような。今日の俺はストレスが半端無い。最悪な週末になったよ、まったく。
ああ、のんびりしてはいられない。
「駅前の店で幸いだった」
電車もタクシーも使え、まだ人通りの多い時間帯だ。女を送らなかったと非難を受ける謂れは無い。俺は当然だが蓮を待たずに駅の改札口を通過して、自宅方向へ向かう上り電車のホームに競歩選手並の早足で到達した。
この時の俺はとにかくブヒモスを撒くことのみに意識を集中していて、ヒロを思いやる余裕が残っていなかった。せめて次の日、電話の一本でも入れてヒロの心情をフォローしていれば……。
何もしなかったから。その罪悪感から、俺はこの後に起こる凄惨な事件に自ら深入りする羽目に陥るのである。
「男の人ってみんなすぐ、藍理の外見や態度に騙されちゃうんです。本当はあのコ、今話した通り内面が真っ黒なのに」
「そ、そうなんだ」
「大鳥さんだってあたしの話を聞くまでは、藍理のことイイ女だって思っていませんでした?」
「ハハハ……」
「あのコ、男の人に取り入るの上手いからなー。女のコは藍理の腹黒さに気づいて距離置いたりするんだけど」
まいったな。このまま藍理の悪口を延々と聞かされそうな雰囲気だ。
「そうそう、藍理ったらね、中学時代に一目惚れしたバスケ部の先輩、相手には彼女が居たのに差し入れで猛アピールして略奪したんですよ。なのに飽きてたったの二ヶ月で別れたんです」
「凄いね……」
「異性関係ではあのコ、悪評だらけですよー。高校時代なんてもっと酷くて……」
「あ、飲み物無くなった。ドリンクバーに行ってくるよ」
話の腰を折る為に俺は席を立った。
去り際に蓮の料理の皿を見て驚いた。あれだけ喋っていたというのに、一片も残さず綺麗に平らげていやがった。ボリュームがそれなりに有って、しかも熱いドリアだぞ!? 時間的に完食は不可能だと思えた。噛まずに吞んだのか?
「どこまで話しましたっけ。あ、高校時代からですね」
烏龍茶をカップに注いで戻った俺に、蓮は許可を取らずに話を再開した。
「ビックリなんですけどあのコ、最高で一度に四股していたそうですよ。これ教えてくれたのは、藍理と同じ学校に進学した中学時代の友達です。雰囲気美人のくせに、つるんでいた男子からの組織票でミスコンにもエントリーされたらしいです。ま、流石にグランプリは正統派美少女が獲ったみたいだけど」
もうやめろってば。中座した意味が無いじゃないか。
「相原さんはずっと喋っているけど、喉が渇かないの?」
「マンゴーパフェ食べたので、しばらくは大丈夫です」
「ヒッ」
いつの間にか蓮のシーフードドリアの皿が下げられており、替わりにパフェ用の器が置かれていた。それも空だったのだが。
「俺が席を離れていた間に、デザートが来たの……?」
「はい」
当たり前のように蓮は言ったが、俺が席とドリンクバーを往復した時間は二分足らずだぞ。パフェはいったい何処に消えた!?
「藍理ってば男子だけじゃなくて、担任の先生にもちょっかいを出してたそうですよ。それで内申点を上げてもらったとか」
「そう……」
俺の皿には料理がまだ三分の一ほど残っていた。しかし食欲が減退していた。蓮が蛇の如くパフェを丸吞みしている姿を想像してしまったのと、幼馴染みに向けられる際限の無い悪意に辟易したせいだ。
「性根が腐ってるんですよ、あのコは」
ではおまえはどうなんだと問いたかった。
蓮の思惑通り、俺の中で藍理の評価は著しく下降した。次にまた彼女に会っても、ときめくことはもう無いだろう。だがな、本人の居ない所で悪口を用いて足を引っ張る、おまえのその行動も充分に醜いものなんだぞ?
「堕胎したって話も聞いたな~。ま、これは噂に過ぎないでしょうけど。でもそういう噂を流されるってこと自体、藍理の素行に問題が有るんですよ」
俺は頭を抱えたい気分だった。頼む、もうやめてくれ。本気で反省した態度と意外な礼儀正しさで、一度はおまえのことを見直したのに。
モテない女の妬みと僻みをふんだんに盛り込んだ陰口を延々と聞かされ、俺は本気で蓮のことが嫌いになりそうだった。
「そんなこんなで整形でしょ? 何処まで行くつもりなんですかね~あのコは」
「さぁ」
もはや俺はコイツの話を真剣に聞く気になれなかった。生返事で応じつつ、食事を終えることに専念した。
「ヒロくんは整形のこと知ってるのかなぁ。藍理、言ってないんじゃないかなぁ」
それはヒロと藍理、恋人二人の問題だ。外野が口を挟むことじゃないだろう。
「整形したこと、そもそも藍理のお母さんは知ってるのかなぁ?」
もぐもぐごっくん。ふい~、食べ終わったぞ。そして俺の忍耐は限界に達していた。
「相原さん!」
俺は鋭い声音で毒を吐く丸い物体を制した。
「へっ、は、はいっ!?」
蓮はワタワタしていた。
「……遅くなるから、もう帰ろうよ」
「ええ~、あたしは大丈夫ですよ? オールでも。明日は特に予定無いしぃ。大鳥さんの会社も土曜日曜はお休みでしょ?」
長い髪の先を指に巻き付けながら、蓮は上目遣いでパチパチ瞬いた。
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俺はスッと席を立った。
「え、ちょ、そんな……。あ、そうだ、アドレス交換しましょう!」
蓮は携帯電話を取り出そうとしたのだろう、ソファー席の自身の横に置いていた蛍光ピンクのショルダーバッグを開け、勢いづいてバッグの中身をそのまま床にぶちまけた。散らばるメイク用品、財布にポーチ、個別包装されたチョコレートやクッキー。おやつ持参かよ。
慌ててそれらを拾い集める蓮を俺は手助けせず、伝票を持ってレジスターへ向かった。手切れ金としてここは奢ってやる。
頑張った、頑張ったよ俺。よく付き合ったよこんな長い時間。
心の中で自分を褒めつつ、颯爽と支払いを済ませる俺。まだ席でガチャガチャやっている蓮。無視して店外へ出る俺。自動ドアが閉まる瞬間、背後で何か動物の咆哮が聞こえた気がしたが、うん、気のせいだろう。さらば人外魔豚。
「ふう~っ」
伸びをして背中を縮みから解放した。
気持ちが良いな。あれ、つい一時間前にも同じ行動を取ったような。今日の俺はストレスが半端無い。最悪な週末になったよ、まったく。
ああ、のんびりしてはいられない。
「駅前の店で幸いだった」
電車もタクシーも使え、まだ人通りの多い時間帯だ。女を送らなかったと非難を受ける謂れは無い。俺は当然だが蓮を待たずに駅の改札口を通過して、自宅方向へ向かう上り電車のホームに競歩選手並の早足で到達した。
この時の俺はとにかくブヒモスを撒くことのみに意識を集中していて、ヒロを思いやる余裕が残っていなかった。せめて次の日、電話の一本でも入れてヒロの心情をフォローしていれば……。
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