僕の『甘い魔女の報告書』 worth a thousand words.

美黎

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その、箱の中身

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確かに、俺は死にたかった。

しかし見付けてしまった。
その、奇妙な箱を。




確かに「そいつ」の言う通り、その日の俺は昼飯後に地下室へ行った。

地下とは言っても半地下の貯蔵庫だ。
この辺の家なら何処にでもある、子供の頃は隠れ家になる、あれだ。

つい、癖で夕飯のサーモンの燻製がまだ残っていたかどうか、確認しに行ったのだ。
もう、これから死のうというのに。

習慣というものは恐ろしい。


兎に角、いつも下りている筈のその地下にはその日に限って奥にネズミの気配がした。

これまた死のうと思っている割には「食糧庫が荒らされる」と本能的に思った俺は、そのまま奥へ進んだ。

その、ネズミの走った場所を目で追っていく。

すると今迄気が付かなかった、菓子箱の様なものが目に付いた。

所謂、よくある菓子の缶だ。
そう、丁度ノートが入りそうな程の大きめの、缶。あの、クッキー等の詰め合わせがよく入っているやつだ。


「こんなん、あったっけな?」

軽く錆び付いたその缶は古そうな気配がするが、打ち出しの細かい紋様が入っていて菓子の缶にしては中々立派。

しかし俺が思うに、古いものは手の込んだものが多い。これもきっと、昔の贈り物か何かだろう。大事に取ってあっただろう、その箱をもう少しよく見える場所迄持ち出した。



そう、重くないその缶はやはり明るい場所で見ると中々いいものだった。

「昔は金持ちだったのか………?」

この家は、叔父の家だ。

一人気儘に暮らしたかった俺は、近くに親類のいないこの街を選んだ。
変わり者の、叔父の家が空いているから誰か住まないか、という話がタイミングよく舞い込んできたのも、もしかしたら何かの縁だと即引っ越してきた。

そう、環境を変えれば良くなるかと思ったのだ。


この、昔から感じる虚無感。

世界から取り残されている、取り残されたい気持ち。

ひとりでいたい。

誰とも関わりたくない。

しかし、一人では生きられない事を知って、余計に死にたくなった俺は、まずしがらみから逃げた。


そう、それでこの知らぬ土地にやって来たのだ。



誰も俺の事を知らない。

俺も誰の事も知らない。

俺が明日、起きてこなくても誰も、何も、変わらないこの街。

越してきて初めの頃は良かった。
快適だった。
誰も知らない土地でふわふわと暮らすのはとても気持ちが良かったのだ。


だが

気が付いてしまった。

俺は

何処にいても俺

当たり前のことだが、此処まで来てやっと、俺は俺を辞めたかったのだと気が付いたのだ。


だからこの後、森へ行く。

きちんと、死ぬ気でコートを一枚羽織り、出かけるつもりだ。

多分、この雪の中コート一枚で森に一晩居たら余裕で死ねる。



チラリとあの報告書の事を思い出して、「死んだらどうしてくれる」とも「死ねなかったらどうしてくれる」とも考えた。

あの、おかしな「報告書」。

菓子の缶を開けるとそこに入っていた、古い、紙束。


そこには書いてあった。

何処かで見た様な、いや、見慣れた文字で

「魔女の森の報告書」

と綴られている、その古い紙束。

それに、書いてあった。

「死にたい奴しか見つけられない」と。

それがこの紙束の事なのか
それとも魔女の事なのか。


いやしかしどちらでもいいのだ。

俺は考えてはならない。

その魔女が持つ「甘いもの」に興味があるなどとは考えてはならないのだ。



しかしこれ書いた奴馬鹿じゃないか?
そんなん言われたら気になるに決まってるじゃないか。アホか。死ねんわ。

いやいや、俺はきちんと死んでくる。


ちゃんと薄手のコートを選んだぞ。

さて行くか。



頁をめくってもまだ、続きは見えなかった。
そんなもの、無いのかも知れない。

だが、同じ紙で綴られたその報告書はまだ残された白い頁がずっと、続いていたのである。




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