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二章 ハーレムルート

アレッサンドロ ギノフォード

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フィンコックの身体の原因が分からないまま連休に入った。
私は取り急ぎ魔法省に勤める父に手紙を出し、フィンコックの症状を詳しく書き記した。
何か手掛かりがあれば良いのだが。

馬車に乗り去っていくフィンコックを見送るサンチェスターを私は校舎から眺めていた。
個人的に生徒を見送ることも出来ない立場の私。
公爵家次男…伯爵家嫡男…侯爵家次男…。
私は彼に婚約を申し込める立場ではないな。
魔法省勤めになれば…。

連休が始まり数日して、ある情報が社交界に駆け巡った。
社交界は面倒であっても貴族のうちは参加しなければならない。
私も参加し、ある程度挨拶をして帰るつもりだった。
だが、ある一角から大きなざわめきが起きた。

シャルマン フィンコック と ライアン サンチェスター 婚約

王子としか婚約したくないと騒いでいたあのシャルマン フィンコックが伯爵家と婚約?
その日のパーティーはその話題で持ちきりとなり、多くの当主が目をギラ付かせているのを目撃した。
婚約者筆頭候補であった公爵家が辞退したとなれば、婚約が決まっていない高位貴族は待ってましたと言わんばかりに動き出すだろう。
フィンコック家が一度婚約を打診していたのは多くの貴族の耳に入っている。
当時はすぐに承諾されるであろうと思っていたが、王子の婚約は決まることがなかった。
その為自分達も王子の婚約者になれる可能性があるのではといくつかの家門が令息を婚約者を決めずに学園に入学させていた。
何処がでシャルマン自身の性格を考慮し、王族が婚約を避けているのではと囁かれていたからだ。
学園では他貴族の目があり誰も王子に近づくことが出来なかったらしいが、抜け道はある。
唯一近づけるのがペアの相手だ。
なので、ペア決定権のある私に裏で金を積む者が多くいた。
私は侯爵家であったので大抵の者は直ぐに追い払うことが出来た。
私以上となると公爵家だが、王子と同年代の公爵家はフィンコック家だけだった。
そのフィンコック家はそういった事を申し出ることは無かった。
無かったが本人からペアの交代を何度も抗議された。
誰にしてほしいという直接的な依頼はないが、そこは「察しろ」という事なのだろうと、頭を悩ませていた。

だが、ここに来て張本人のシャルマン フィンコックが婚約したのだ。
相手は辺境の伯爵。
王都にいても社交界等を騒がしくさせたに違いない、自ら辺境に行ってくれるなんて多くの家門が喜んでいた。

私は…そんな彼に…生徒に良からぬ感情を抱くとは…。
これで良かった…。
これで…良かったんだ…。

私は会場を後にし、一人馬車の中で…を流した。
大人になり初めてかもしれない。

学園に戻り、始業式等の打ち合わせ等をしていると再び貴族達を騒がせる情報が舞い込んだ。

レイモンド フィンリー アディノール と ローレンド オルセー 婚約

まさかのタイミングだった。
てっきり学園を卒業後に決定するものだと思い込んでいた。
何故この時期に?
フィンコックの婚約に動揺したのか?
王子は認めたくなかったようだが、フィンコックを意識していたのは事実だ。

…まさかな。

始業式が始まる直前まで、二組の婚約話で持ちきりだった。
私でさえ動揺する内容に生徒達はあわてふためいていた。

王子の婚約…。

始業式も例年通り、滞りなく終わる予定だった。
全生徒の獣人検査は時間がかかるだけで、本当にやる意味があるのか。
誰も反応しないのだから削っても良いだろうに…。

不要な産物。

こんなことで見つかるはず無いと何処かで思っていた…見つかってほしくないとも…。
Aクラスから始まりB…C…Dと来た時、無意識にフィンコックを確認してしまった。
王子の婚約者をどんな目で見るのか…。
フィンコックは真っ直ぐに姿勢を正し凛としていた。
その姿を見ただけで、王子への未練がないことを知った。
やっとフィンコックのFクラスまで来た。

「シャルマン フィンコック…集中なさい。」

壇上に上がっても尚、サンチェスターばかりのフィンコックにイラついてしまった。
シュンとする姿が可愛いと思うなんて…。
二人は婚約し、浮かれてしまうのは仕方がないのに、私は…大人げないな。
私はもう、この気持ちを無視できないのだろうか…。

フィンコックの手を取り、針を刺す。
血液を魔道具に垂らすと、他の生徒とは違う反応のように見えた。

気の所為か?

フィンコック自身も目の焦点かあっていないように見え、魔道具に手をかざした瞬間瞼を閉じ私の前から沈んでいった。「フィンコック」と私が呼び手を伸ばすも間に合わなかった。

「シャルッ」

私が呼んだのと同時に、遠くから叫び声が会場内に響いた。
私は状況が飲み込めなかった。
フィンコックは体調が悪かったのか?
倒れたフィンコックを抱き起こせば、魘され魔力が乱れていた。
この状態は魔力枯渇症状に似ている。
急いで運ぼうとすればサンチェスターが隣にいた。
Aクラスの指定された席から急いで駆け寄ったのだろう。
なにも分からないが婚約者の側にいたいという思いがひしひしと伝わり遠ざけさせることは出来なかった。
式の壇上にいれば注目から逃れられないので…サンチェスターにフィンコックを運ぶのを任せた。
報告を浮けた学園長は獣人に詳しい学者達を急遽呼び寄せた。
研究家達ではなく学者だったことに安心する。
学者達に検査時の状況やフィンコックの症状を報告している最中に動きがあった。

「先生っ」

フィンコックに付いていた、婚約者のサンチェスターが大きな声で私を呼んだ。
急いでフィンコックが眠っているベッドに近づけば、フィンコックの耳が変化していた。

信じられない。

集められた人間は皆、言葉を失った。。
それはシャルマン フィンコックが獣人となった瞬間だった。

百年ぶりの獣人。

待ち望み過ぎて、期待することに疲れ義務で検査を行っていた。
誰も獣人が復活するなんて思っていなかった。
私達の進化の過程で消えていったモノ…僅かな遺伝子も残っていないだろうと決めつけていた。

私は目の前の現実を目撃しても理解できなかった。

なんの掛け合わせもなく偶然・奇跡的に生まれ獣人。
百年ぶりの獣人は特徴からして「猫」だった。
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