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二章 ハーレムルート
アレッサンドロ ギノフォード
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フィンコックとの訓練三回目。
今日はペアであるサンチェスターも同席していた。
「おやっ、今日はサンチェスターも一緒ですか?」
嬉しそうなフィンコックと、私に敵対心を向けるサンチェスター。
態度には出していないつもりでしたが、私の事を警戒しているところをみるとペアの勘と言うところですかね。
フィンコックには昨日と同じことを訓練させた。
離れた位置に私とサンチェスターがいる。
すぐに風魔法が張られたのが分かる。
サンチェスターはAクラスでも優秀な方であるが私程ではない。
魔力量や体力的なものを総合すれば互角かもしれないが、魔法に関しては負けるつもりはない。
そんな彼の風魔法を感知するのは容易い。
「シャルはいつもあんな顔で訓練してるんですか?」
彼は自分以外にフィンコックの不防備な姿を見られたくないようだった。
若いというか、それだけフィンコックに夢中だということが伝わる。
ここで私が、「えぇ、彼は集中すると自分のことが疎かになるようで私も邪な感情に流されないようにしていますよ。ペアとしては心配ですか?」など、挑発するような発言をすれば、今すぐにでも訓練を止めさせ連れ出すのが目に見えていた。
「えぇ、そうですね。」
「…くっ…」
意地悪をしているわけではないんですけどね。
「フィンコックは真面目に一生懸命魔法と向き合っています、そのようなことを言ってしまえば集中出来なくなる恐れがありますので我慢してくださいね。」
「……はぃ…」
悔しそうにするも、フィンコックを思う彼は納得するしかなかった。
本当は誰にも見せたくない、俺だけの表情だという独占欲が見える。
今すぐにでも訓練をやめさせたいがフィンコックの一生懸命な姿をみてしまえば「止めろ」なんて言えない、そんな葛藤だ。
「フィンコックには伝えませんでしたが、彼の魔力量はFクラスの平均よりかなり低いです。一人で訓練させるのは危険な程、魔法を行う際は必ず周囲に誰かいることを確認してから行うように伝えた方がいいでしょう」
ペアの彼…フィンコックを本気で心配している彼だから真実を伝えた。
万が一が起こる可能性があるから…。
「アイツそんなに無いんですか?」
「サンチェスターが考えているより遥かに少ないです…君からすると無いに等しいでしょうね。」
魔法担任の私が伝える真実に困惑の表情が見える。
サンチェスターはペアとして牽制の為に私のところに来たのだろうが、思いもよらない事実に言葉を失ってしまった。
「魔力は使えば多少増えるんですがフィンコックの場合魔力量は変わらない、下手をすると減少しているようにも感じます。身体に何らかの原因がある可能性も考えられます。なので今後フィンコックは放課後定期的にここで魔法の訓練を行いつつ原因を探っていきますので、あまり恐い顔で私を睨まないでくださいね」
「……はい」
私は…卑怯だな。
フィンコックの身体を心配しているのは事実だが教師と言う立場を利用し、フィンコックと少しでも関わりたいと…思ってる。
「わぁっ出来たっ。」
こちらでは殺伐としていたのに全く気にしてない笑顔でこちらに振り向く。
笑顔には少し疲れも見えた。
「今日は早いですね、それを持続出来ますか?」
このまま続けるべきか少々悩んだが、近くにいれば大丈夫だろうと続行した。
だが、五分も経たないうちにフィンコックは倒れた。
「シャル」
「フィンコック」
フィンコックに駆け寄るのが遅れた…。
彼が倒れたのは私の所為だ。
フィンコックはサンチェスターの腕の中にいる。
「今日はもう十分ですね、休みましょう。」
「…は…ぃ」
力無く返事をする姿が心苦しい。
「少し確認したいことがあります…今からフィンコックの部屋に行っても良いですか?」
「…ぁぃ」
フィンコックの状態をみて異常だとすぐに理解したのはサンチェスターも同じだった。
サンチェスターの腕の中で安心したような表情のフィンコック。
フィンコックの部屋のロックをサンチェスター解除した。
ペアの相性が良くても、まさかあのフィンコックが登録を許していたのには驚いた。
二人の関係の深さを思い知らされ握りしめる拳に力が入った。
ベッドに座らせ隣にサンチェスターも座るように促した。
「フィンコックに私の魔力を流します、それを受け取り私に返して欲しいんです。難しいとは思うんですか、フィンコックは拒絶しないようにしてくれたら私の魔力が流れていくはずです。」
魔力交換は魔力回路に異常が有ったり、魔力枯渇で命の危険がある場合の者に行う。
他人の魔力を受け入れるのは相性があり、すんなり受け入れられれば問題ないが拒絶反応が出た時かなりの痛みを伴う。
家族の場合は、魔力の質が似ているため拒絶は少ない。
夫婦の場合は魔力が相反過ぎるので、拒絶される可能性が高い。
ごく稀に運命のように出会った二人は拒絶が無いこともある。
昔はそれを「番」と呼んでいた。
「番」という言葉が生まれた時、恋人や仲の良い婚約者達がこぞって魔力交換をし始めた。
自分達も運命に結ばれた二人だと信じて。
更には「番」の夫婦を目指して魔力の素質が正反対な者同士を引き合わせると言う実験も行なわれた。
実験結果では、番だと身体が判断すると心とは別にお互い身体を求めてしまう事がわかった。
例え、恋人・婚約者・夫婦であっても「番」と出会ってしまうと番を優先してしまうという結果だ。
この実験で数組を別れさせてしまい、実験は衰退していった。
婚約者や恋人が自分達は「番」なのでは?と知りたい者が密かに行う事はある。
恋人同士のイベントのようなものだ。
ただ昔と違い、魔力の相反するもの同士であるという前提を理解しているので拒絶反応が出てもそれが原因で別れると言うことはない。
無理して拒絶反応が無かったと触れ回る恋人たちはいたが、誰も指摘はしないし追求もない。
二人だけの秘密である。
婚約解消だったり別れたりした時事実が判明する。
それを今から行う。
拒絶反応が出ると思うが、耐えてもらわないとフィンコックの身体の異常は判明しない。
「他人の魔力に驚くかもしれないので、隣でサンチェスターはフィンコックを支えていて欲しい。」
私の言葉への反応からして、フィンコックは魔力交換の際には拒絶反応が起こるということを知らないように見えた。
隣のサンチェスターは認識しているのだろう。
フィンコックがいつ倒れても平気なように気を張っていた。
私はフィンコックに手を差し出し、魔力を流し込んだ。
手首に有るものが目に入ったが、今は気付かないふりをした。
「…んっぁっんっはっんっはぁっんはぁんっんっ」
フィンコックは荒い呼吸となり、汗を流し始めた。
魔力の流れに痛みを伴っているようには見えなかった。
「あっんんっあっんんんんっあっあんっはっはぁん…ふっふぅふぅふぅ」
魔力を拒絶というより…。
感じているのか?
「大丈夫ですか?」
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
拒絶は無くともフィンコックには反応があった。
この反応が何を意味するのか。
フィンコックは既に体力を消耗しサンチェスターに凭れていた。
「わかりました、フィンコック大分疲れたでしょう。洗浄魔法掛けますので今日はもう、休みましょう。」
洗浄魔法を掛けサンチェスターに促されるようにフィンコックは眠ってしまった。
完全に眠ったのを確認し、私とサンチェスターはソファに移動し風魔法で壁をつくり警戒した。
魔力交換でわかった事。
それは病気ではないが、何らかの原因でフィンコックの魔力は増幅するどころか、減少している。
今後どうなるのか分からないが注意深く様子を見るように、体調への変化があればすぐに私に報告をと告げればサンチェスターも納得していた。
フィンコックのような症状は初めてで、私自身困惑を隠せなかった。
その後の話でフィンコックの訓練は、週二で私達の監視付きで行うこととした。
フィンコックと手を合わせた時、手首の痣を確認したがペアの行為に口出しは我慢した。
フィンコックを大事にしているサンチェスターが酷いことをしているとは思いたくないが、フィンコックの趣味とも考えないよう見て見ぬふりをした。
手首の痣に首の噛み痕、そして魔力を流した時の喘ぎ声に誘う視線。
これで誘惑するつもりはなかった、なんて言い訳通るわけがない。
私がフィンコックと同学年であれば、ペアを所望したかもしれない。
侯爵家という権力や私が魔力の高さを理由にフィンコックがペアになるよう質問用紙に書いていただろう。
今の学生を窘める資格はないな。
今日はペアであるサンチェスターも同席していた。
「おやっ、今日はサンチェスターも一緒ですか?」
嬉しそうなフィンコックと、私に敵対心を向けるサンチェスター。
態度には出していないつもりでしたが、私の事を警戒しているところをみるとペアの勘と言うところですかね。
フィンコックには昨日と同じことを訓練させた。
離れた位置に私とサンチェスターがいる。
すぐに風魔法が張られたのが分かる。
サンチェスターはAクラスでも優秀な方であるが私程ではない。
魔力量や体力的なものを総合すれば互角かもしれないが、魔法に関しては負けるつもりはない。
そんな彼の風魔法を感知するのは容易い。
「シャルはいつもあんな顔で訓練してるんですか?」
彼は自分以外にフィンコックの不防備な姿を見られたくないようだった。
若いというか、それだけフィンコックに夢中だということが伝わる。
ここで私が、「えぇ、彼は集中すると自分のことが疎かになるようで私も邪な感情に流されないようにしていますよ。ペアとしては心配ですか?」など、挑発するような発言をすれば、今すぐにでも訓練を止めさせ連れ出すのが目に見えていた。
「えぇ、そうですね。」
「…くっ…」
意地悪をしているわけではないんですけどね。
「フィンコックは真面目に一生懸命魔法と向き合っています、そのようなことを言ってしまえば集中出来なくなる恐れがありますので我慢してくださいね。」
「……はぃ…」
悔しそうにするも、フィンコックを思う彼は納得するしかなかった。
本当は誰にも見せたくない、俺だけの表情だという独占欲が見える。
今すぐにでも訓練をやめさせたいがフィンコックの一生懸命な姿をみてしまえば「止めろ」なんて言えない、そんな葛藤だ。
「フィンコックには伝えませんでしたが、彼の魔力量はFクラスの平均よりかなり低いです。一人で訓練させるのは危険な程、魔法を行う際は必ず周囲に誰かいることを確認してから行うように伝えた方がいいでしょう」
ペアの彼…フィンコックを本気で心配している彼だから真実を伝えた。
万が一が起こる可能性があるから…。
「アイツそんなに無いんですか?」
「サンチェスターが考えているより遥かに少ないです…君からすると無いに等しいでしょうね。」
魔法担任の私が伝える真実に困惑の表情が見える。
サンチェスターはペアとして牽制の為に私のところに来たのだろうが、思いもよらない事実に言葉を失ってしまった。
「魔力は使えば多少増えるんですがフィンコックの場合魔力量は変わらない、下手をすると減少しているようにも感じます。身体に何らかの原因がある可能性も考えられます。なので今後フィンコックは放課後定期的にここで魔法の訓練を行いつつ原因を探っていきますので、あまり恐い顔で私を睨まないでくださいね」
「……はい」
私は…卑怯だな。
フィンコックの身体を心配しているのは事実だが教師と言う立場を利用し、フィンコックと少しでも関わりたいと…思ってる。
「わぁっ出来たっ。」
こちらでは殺伐としていたのに全く気にしてない笑顔でこちらに振り向く。
笑顔には少し疲れも見えた。
「今日は早いですね、それを持続出来ますか?」
このまま続けるべきか少々悩んだが、近くにいれば大丈夫だろうと続行した。
だが、五分も経たないうちにフィンコックは倒れた。
「シャル」
「フィンコック」
フィンコックに駆け寄るのが遅れた…。
彼が倒れたのは私の所為だ。
フィンコックはサンチェスターの腕の中にいる。
「今日はもう十分ですね、休みましょう。」
「…は…ぃ」
力無く返事をする姿が心苦しい。
「少し確認したいことがあります…今からフィンコックの部屋に行っても良いですか?」
「…ぁぃ」
フィンコックの状態をみて異常だとすぐに理解したのはサンチェスターも同じだった。
サンチェスターの腕の中で安心したような表情のフィンコック。
フィンコックの部屋のロックをサンチェスター解除した。
ペアの相性が良くても、まさかあのフィンコックが登録を許していたのには驚いた。
二人の関係の深さを思い知らされ握りしめる拳に力が入った。
ベッドに座らせ隣にサンチェスターも座るように促した。
「フィンコックに私の魔力を流します、それを受け取り私に返して欲しいんです。難しいとは思うんですか、フィンコックは拒絶しないようにしてくれたら私の魔力が流れていくはずです。」
魔力交換は魔力回路に異常が有ったり、魔力枯渇で命の危険がある場合の者に行う。
他人の魔力を受け入れるのは相性があり、すんなり受け入れられれば問題ないが拒絶反応が出た時かなりの痛みを伴う。
家族の場合は、魔力の質が似ているため拒絶は少ない。
夫婦の場合は魔力が相反過ぎるので、拒絶される可能性が高い。
ごく稀に運命のように出会った二人は拒絶が無いこともある。
昔はそれを「番」と呼んでいた。
「番」という言葉が生まれた時、恋人や仲の良い婚約者達がこぞって魔力交換をし始めた。
自分達も運命に結ばれた二人だと信じて。
更には「番」の夫婦を目指して魔力の素質が正反対な者同士を引き合わせると言う実験も行なわれた。
実験結果では、番だと身体が判断すると心とは別にお互い身体を求めてしまう事がわかった。
例え、恋人・婚約者・夫婦であっても「番」と出会ってしまうと番を優先してしまうという結果だ。
この実験で数組を別れさせてしまい、実験は衰退していった。
婚約者や恋人が自分達は「番」なのでは?と知りたい者が密かに行う事はある。
恋人同士のイベントのようなものだ。
ただ昔と違い、魔力の相反するもの同士であるという前提を理解しているので拒絶反応が出てもそれが原因で別れると言うことはない。
無理して拒絶反応が無かったと触れ回る恋人たちはいたが、誰も指摘はしないし追求もない。
二人だけの秘密である。
婚約解消だったり別れたりした時事実が判明する。
それを今から行う。
拒絶反応が出ると思うが、耐えてもらわないとフィンコックの身体の異常は判明しない。
「他人の魔力に驚くかもしれないので、隣でサンチェスターはフィンコックを支えていて欲しい。」
私の言葉への反応からして、フィンコックは魔力交換の際には拒絶反応が起こるということを知らないように見えた。
隣のサンチェスターは認識しているのだろう。
フィンコックがいつ倒れても平気なように気を張っていた。
私はフィンコックに手を差し出し、魔力を流し込んだ。
手首に有るものが目に入ったが、今は気付かないふりをした。
「…んっぁっんっはっんっはぁっんはぁんっんっ」
フィンコックは荒い呼吸となり、汗を流し始めた。
魔力の流れに痛みを伴っているようには見えなかった。
「あっんんっあっんんんんっあっあんっはっはぁん…ふっふぅふぅふぅ」
魔力を拒絶というより…。
感じているのか?
「大丈夫ですか?」
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
拒絶は無くともフィンコックには反応があった。
この反応が何を意味するのか。
フィンコックは既に体力を消耗しサンチェスターに凭れていた。
「わかりました、フィンコック大分疲れたでしょう。洗浄魔法掛けますので今日はもう、休みましょう。」
洗浄魔法を掛けサンチェスターに促されるようにフィンコックは眠ってしまった。
完全に眠ったのを確認し、私とサンチェスターはソファに移動し風魔法で壁をつくり警戒した。
魔力交換でわかった事。
それは病気ではないが、何らかの原因でフィンコックの魔力は増幅するどころか、減少している。
今後どうなるのか分からないが注意深く様子を見るように、体調への変化があればすぐに私に報告をと告げればサンチェスターも納得していた。
フィンコックのような症状は初めてで、私自身困惑を隠せなかった。
その後の話でフィンコックの訓練は、週二で私達の監視付きで行うこととした。
フィンコックと手を合わせた時、手首の痣を確認したがペアの行為に口出しは我慢した。
フィンコックを大事にしているサンチェスターが酷いことをしているとは思いたくないが、フィンコックの趣味とも考えないよう見て見ぬふりをした。
手首の痣に首の噛み痕、そして魔力を流した時の喘ぎ声に誘う視線。
これで誘惑するつもりはなかった、なんて言い訳通るわけがない。
私がフィンコックと同学年であれば、ペアを所望したかもしれない。
侯爵家という権力や私が魔力の高さを理由にフィンコックがペアになるよう質問用紙に書いていただろう。
今の学生を窘める資格はないな。
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