【完結】全ては王子の手のひらの上

天冨 七緒

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本題

失態だらけ…

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 全力で悲鳴を上げたので、一気に体力を消耗し冷静になる。
 目の前にいたのは先ほど別れたばかりの王子様だった。
 どうして貴方がここにいるの?
 疑問が頭に浮かぶも声にだす体力も残っていなかった。

「…申し訳ない、驚かせるつもりはなかったんだ」

 王子様は苦笑いをしながら謝罪を口にする。

「…ぃぇ…はぁはぁ…すぅ…私の方こそ、大声をあげてしまい申し訳ありません」

 肺にあった酸素を全て出しきっていたので、息を整え大きく息を吸ってからこちらの非を謝罪した。
 化け物でも見たかのように全力で叫ばせていただいたから、今の私は逃げる気力さえない。

「大丈夫か?」

「…はぃ」

「…先程、言っていた「元の体に戻る」とはどういう意味だ?」

「へっあの…それは…だから…それは…その…」

 なんて応えよう…私はスカーレットではなく、スカーレットの体に別人の魂が乗り移ってしまいました。
 ……なんて言っても信じてもらえないだろうし、中世の魔女狩りのように火炙りにされてしまう可能性もある。 
 どうしよう、なんて言えば良いの?

「まだ、体調が戻ってないのか」

 婚約者を心配する王子に申し訳ないと感じながらも、彼の言葉に乗る。

「へっ?体調?…そうっ体調を崩しましてですね、体力がまだ戻っておらず「早くもとに戻さないとなぁ」って」

「そうか…体調が回復するのを願ってる」

「はいぃ、ありがとうございます」

 私は逃げるように…いや逃げた。
 後ろを確認することなくひたすら歩き続け、辿り着いたのは温室。
 映画などで犯人に追いかけられる心境を味わっている。
 安全な場所に逃げ込み、少し離れた場所で扉が開くのかを凝視していた。

「…もう、来ないよね?」

 これで一安心。

「何している?」

「きゃーーー」

 今度は後ろから声をかけられ、本日二度目の叫び声を上げながら前に倒れ込み相手を確認する。

「うるさいっ。突然現れて、人を見るなり大声をあげるとはなんなんだ」

「…すみません」

 目の前の男性は生徒ではなく大人の人…多分庭を担当している用務員さんではなく教師だと思う。
 午前中までの授業では会ってはいないが、身なりからして教師。
 名前も知らない教師は黒髪紫目で整った顔立ちが相まって、凄艶さに息を呑む程美しい。

「ここで何をしている?」

「えっと…花に…癒しを…求め…て…?」

 ここに逃げ込んだ理由を正直に話せず、その場しのぎの嘘を吐くも鋭い眼差しに全てを見透かされていると感じる…

「…見学は構わないが、折ったり切ったりするなよ」

「はぃ」

 これは教師が植物を大事にしているからか、それとも私が信用されていないからか。
 どちらか分からないが、教師は辛辣に感じた。
 教師は植物の手入れに夢中で、私の事には興味もないので落ち着けた。
 私は花に詳しいわけでもないし特別に好きと言うわけでもないが、何も考えず眺める事が出来るので楽だった。
 私は何をするわけでもなく一つの花を眺め続けた。

「…もうすぐチャイムが鳴る。教室に戻りなさい」

「あっはい…先生、また来ても良いですか?」

「…勝手に花に触れるなよ」

「はい」

 教師には信用されていないが、いざという時の逃げ場所が出来たようで少し楽になった。
 私は教室を目指して歩くが、歩いても歩いても辿り着けずチャイムが鳴ってしまうと焦り始め次第に小走りで移動する。
 それでも同じ場所に出てしまい私は急いで温室へ戻る。

「先生っ」

「なっ、まだ居たのか?早く教室に戻れ遅刻する」

 授業をサボると思われたのか、教師は怒気を含んだ声で告げる。

「教…室までの道を教えてくださいっ」

 教師の迫力に負けないよう私も彼に強気に必死に訴えた…

「…何言っているんだ?」

 私の全力の宣言を、信じられないという表情を返される。

「その…道…道が…分からなくて…教室…」

 不安で少し半泣きになりながら教師に助けを求めた。

「…入学して三年が経つんだぞ?」

「…ぅっ…えっと…その…」

 私にとっては初日なんです。
 信じてもらえないと思いますけど…体調を崩した後遺症で記憶が曖昧だと誤魔化す?
 だけど、それが噂となり王子との婚約を解消されたら本物のスカーレットに申し訳ない。
 そんな事を考えていたら言い訳が出来ない。

「…まさか…方向音痴だったのか?まぁいい。温室を出て…」

 出会って一時間もしていないのに、教師からは怒られたり呆られたりと失態だらけだでスカーレットのイメージを私が壊してしまった。
 それでも先生から教えてもらう教室までの道のりを聞き逃さないよう必死で、空に架空の地図を作り指で辿りながら覚えていく。

「…覚えたか?」

「はいっ…多分…はぃ」

 私はいつの間にそんな遠くまで来ていたの?と思う程で、複雑な順路を聞いた。

「仕方ない、教室まで一緒に行ってやる」

「いえっそんな、大丈夫です。子供じゃないんで、一人で辿り着けます。ありがとうございます。行ってきます」

 本当に教師に教室まで送られそうだったので、私は急いで温室を出て教えられた通りに走っていく。
 「廊下は走るな」と怒られそうだが、歩いていたら完全に間に合わないと判断し淑女にあるまじき全速力で教室を目指していく。
 次第に見慣れた光景になり、生徒の姿も少数ではあるが確認できホッとする。
 息を整え教室にはいるとチャイムがなり、ギリギリ間に合い席に着いた。

 午後の授業は無事に進み放課後となる。
 悲しいことに、今の私は授業中だけが安心できる時間だった。
 帰り支度をし、早く家…屋敷に戻りたいと願う。
 この世界に部活というものが存在するのか分からないが、私は居残りなどせずジャメルが待つ馬車を目指す。
 それだけなのに、再び視線を浴びている気がしてならない。
 まだ何かあるの?もしかしたら貴族だけが受ける特別授業や、スカーレットは何らかの委員会などしていたりするの?
 今はなんの情報もないので帰るが、ジャメルに確認しなければと思う。

 周囲の視線から逃げるようにジャメルだけに集中した。
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