【完結】全ては王子の手のひらの上

天冨 七緒

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本題

あれから平穏

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 須藤花蓮としては普通に学園生活を送っているが、それが貴族令嬢として正しいのかは分からない。
 失敗しないようにと心がけ目立たないように過ごすも公爵令嬢・王子の婚約者という立場がそうはさせてくれない。
 スカーレット・ファルビアンクスになり数日、注目を浴びる事に慣れたのか周囲が私の変化を受け入れたのか、極端に避けられることはあっても周囲の監視の目は緩んだ気がする。
 
 いつまで私はスカーレット・ファルビアンクスなんだろうか?
 もとに戻ることは出来ないの?
 こんな事、誰にも相談できず日々一人で悩んでいる。
 スカーレットに友人はおらず詮索されることはないけど、その分ずっと一人。
 最近の私の日課は昼食後に温室へ逃げ込み、口実に手入れを許されるようになった。
 新しい花を植えたり種を撒いたりと会話することなく作業に没頭できるので、現実を忘れることができる。

「…ファルビアンクスは、本当に花が好きなんだな…」

「へっ?」

 突然リルコット先生から会話を振られた。
 普段は作業工程の説明のみでその後は休憩時間が終わるまで関わることがない。

「一度作業を頼めば二度目は来ないかと思っていた」

「そう…なんですか?」

「令嬢は、花を眺めることは好きでも手が汚れるのは嫌うからな」

 私はいつの間にか先生に試されていたらしい。

「土を触ってると考えが纏まるというか…落ち着くというか…心が休まる気がします」

「心が休まる…か…」

 温室に通うようになり、初めてリルコットの笑みをみた。
 笑みというか含み笑いだが、受け入れられたのか?
 これで花を傷つける不届き者からは脱却出来たといいな。
 私達の会話は終わり、作業に戻る。
 雑草を抜いたり美しい花を咲かすために脇目を摘む作業に夢中になり、会話がないことに疑問はなかった。

「ふぅ…ぃたっ…」

 温室は一定の温度に保たれているが、作業していると汗をかく。
 流れる汗が目に入り電流が走ったような痛みを伴った。

「どうした?」

「あっ、いえ。大丈夫です」

 余りの痛さに瞼が閉じ、開けることが困難だった。

「…目にゴミでも入ったのか?見せてみろ」

「本当に大丈夫で…」

 両頬を包まれ、上を向かされる。
 痛みに耐えながら瞼を開けると至近距離に先生の顔があった。

「少し上を向いてみろ」

 先生の言葉に逆らえず、言われるがまま上を向く。
 下瞼を引っ張られゴミを確認される。

「あの…もう…大丈夫です」

「何も見当たらないが、念のため顔を洗ってこい。目を擦るなよ」

「はい」

 私は自分の汗が原因だと分かっていながら何も言えず、先生の指示通り顔を洗うためその場を離れた。
 だけどそれで良かった。
 あんな至近距離で男の人の顔を見たのは初めてで緊張…というよりドキドキした。
 だって、あの距離は…もう少しでキスが出来てしまいそうまぅな距離。
 先生を意識したことはなかったが、ドキドキしたのは確かだ。
 心を落ち着かせる為の作業で心が乱され、冷静になる為に顔を水で洗った。
 やはり頭を冷やすのが一番冷静になれるんだと実感。
 そして気持ちいい。

「もうチャイムが鳴る、教室に戻れ」

「はい」

 今では温室から教室までの道のりも迷うことがない。
 午後の授業も無事に過ごせば一日が終わる。
 リルコット先生と話さないと学園では誰とも話さない程スカーレットには友人がいないことを知る。
 人見知りか恥ずかしがりやなのだろう。
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