【完結】全ては王子の手のひらの上

天冨 七緒

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本題

雛菊芽依によるメイリー

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 あれから王子に話しかけるも、婚約者を気にして素っ気ない対応をされる。
 今までは噂に聞き耳を立てていたが花荒しがあって以来、周囲の人達は私に好意的になった。
 女性とも会話する機会が増え、そこで王子の婚約者が異常な程に王子を縛り付けていたことを知る。
 これは噂話ではなく目撃談…誰もあの人が王子の婚約者に相応しいとは思っていない。
 王子が政略的な婚約者を気に掛ける理由は一つしかない。

「レオナルド王子…あの人に近付いているのって私の為なんですよね?」

 嫌いな人に理由なく話しかける人間はいない。

「そんなことはない」

「私なら大丈夫ですから」

 好きな人に無理してほしくない。
 王子は気付いていないかもしれないが、最近疲れた表情になる時がある。

「勘違いしているかもしれないが、令嬢と一緒にいるのは事件の調査ではなく婚約者だからだ」

 私に気を使わせない為の嘘だというのは表情をみれば分かる。
 今だって辛そうな顔をしている。

「婚約者といるのは、苦痛…なんですよね?婚約して以来ずっと苦しめられていると…我が儘で差別意識が強くて次期王妃に向いていないと皆が口にしています。それでも一緒にいるのは、あの人から私を守るためなんですよね?私、そんなこと望んでいませんから。私が楽になる為にレオナルド王子を犠牲にしたくありません」

「…誰に何を聞いたのかは追求しない、だが上部だけしか見えていない人間の言葉を鵜呑みにするな。君は少し立場を弁えるべきだ」

「レオナルド王子っ…どうして…」

 彼が立ち去り一人取り残され今の会話を反芻する。
 「立場」平民は平民らしく貴族に見つからないよう影に隠れていろって事? 王子がそんな事を言うとは思えない。
 誰かが彼に何かを囁いたに違いない。
 王子という立場の人が無下には出来ない相手…そうか…婚約者の彼女は公爵令嬢。
 公爵の中でも権力のある家門だと聞く。

「そう言う事か…」

 平民の私が正しい行動をしたとしても、権力で捩じ伏せられる。
 そして、それは私だけでなく家族にも被害が及ぶはず。
 王子は私に「表だって動くな、目立つ行動をすれば彼女に目を付けられるから行動には気を付けろ」と隠れたメッセージを送ったに違いない。
 王子の真意を受け取り私は目立たぬように普段通り過ごすことにした。

 守り方は人それぞれで、ルイとリオは傍にいる事で王子の婚約者を牽制出来ると考え私を食事に誘う。

「メイリーこれからは食事だけじゃなく、昼休憩は一緒にいた方がいい」

「一緒に?でも二人には生徒会が…」

「あぁ、生徒会室にはあいつは来ないから」

「私一人でも平気だよ?」

「いや、一人にさせてると心配で仕方がねぇんだ」

「…私が生徒会室に行ったら皆の迷惑になるんじゃないかな?」

「迷惑なわけねぇよ」  

 リオは笑いながら私の頭を撫でた。

「本当に…良いの?」

「あぁ」

 リオの提案にルイも異論はなく、私は二人の優しさに甘えることにした。
 いつものように食堂のロフトに上がれば、王子が既にいた。
 二人は当然のように王子と同じ席に座るも、私は先日の件があり戸惑ってしまう。

「メイリーどうした?早く来いよ」

 リオに名前を呼ばれると周囲の視線も集め、余計に目立ってしまったので急いで席に着いた。
 私だけが意識しているのか王子は普通だった。
 周囲を確認すると見える範囲に婚約者の姿がないからだと判断した。
 食事を終えるといつもなら彼らとは別れるのだが、リオとルイに促され生徒会室へ向かう。

「君は何故生徒会室にいるんだ?」

 食堂から今まで無言を貫いていた王子が口を開いたと思えば、私を責めるような言葉で驚いた。
 私としては二人からの提案に頷いただけなんだが、王子は二人から何も聞いていないよう。
 私が困惑し応えに困っているとリオが反論しルイも加勢する。
 三人は王子の婚約者から私を遠ざける為に真剣で、意見がぶつかってしまった。
 これ以上三人の仲を拗れさせたくない。

「ごめんなさい。私もあの方の嫌がらせに一人で耐えられますと伝えたんですが、結局お二人の優しさに甘えてしまいました」

 私が彼ら二人に「甘えた」と言った瞬間、王子の表情が曇ったように見えた。

「いやっ俺が強引ってのもあったが、当然の選択だ。レオナルドっ、自分の婚約者の暴走を止められないのをメイリーに八つ当たりすんなっ」

 リオの言葉で王子は自ら行動出来ない苛立ちから二人に八つ当たりしてしまったらしい。

「相手が話の通じる人間であれば忠告で済むが、今回はそうはいかない。レオナルドも分かっているはずだ」

 ルイの言葉で王子は沈黙してしまった。
 それから皆が生徒会の仕事をしている間、私は王子になんて言葉を掛けるべきか悩んでいた。
 王子が私にキツく当たってしまっていたのは、婚約者を制御できない苛立ちと友人二人は私を傍で守る事が出来るという事。
 王子としての立場上目立って私を守ることが出来ないというのは知っているから、そんなに落ち込まないで…私も王子の前で二人と仲良くし過ぎてしまった事を反省する。

 昼休憩が終わるまで王子は一切言葉を発することはなく、チャイムがなると誰よりも先に部屋を出ていってしまった。

「レオナルド王子っ」

「なんだ」

 声の感じから、苛立っているのを感じる。

「私、生徒会室への入室は控えます。あの方に何をされても平気ですからっ…なので、私の為に動いてくれた二人の事を責めないでほしいんです」

 王子が私を心配してくれているのは伝わるし、二人も王子が相手でも私の為に不仲になる恐れがあるにも関わらず意見する姿に動かされた。
 王子の前で二人の為に動くことが王子を傷付けてしまうと分かっていても、私は二人の為にお願いした。

「…君は、令嬢から何をされたんだ?」

「えっ?以前お話ししましたが…」

「君がよく転ぶ瞬間に令嬢が近い場所にいただけで、直接何かをされたわけではないんだろ?」

「…ぇっ…その…」

 なんだか王子の機嫌が悪い。私に対してそんな態度に示すなんて…

「以前は令嬢は関係ないと話していたのに、今では令嬢を犯人のように話すんだな」

「そ…れは…その…」

 そうか…王子は私が軽率だ言いたいのだろう…

「令嬢は貴族であり公爵家の人間だ。平民の君に対して何かするとは考え難いし、なんの理由もなく行動したとは思えない。君は令嬢にそのような対応をされる心当たりはないのか?」

 学園での彼女の振る舞いを知り現状を見極めることの出来る学生は私の味方でも、爵位しか見えていない人間は私を無条件で犯人に仕立て上げるだろう。
 調査する人間が片寄った見方をされては私に勝ち目がない。
 王子が私に厳しく言うのは、貴族社会は決定的な証拠がなければ平民の味方はしないと分からせたかったに違いない。

「…私には…何も…分かりません…」

「本当にそう思っているのであれば、己の行動を見つめ直すべきだ」

 王子は私が二人を庇ったことに対して怒りをぶつけている。
 冷静になれば分かってくれるだろうが、婚約者の犯罪の証拠がなく焦っているのに二人と仲睦まじく振る舞う私が愛おしいんだが憎くもあるのだろう。
 今はきっと一人になり冷静になりたいんだと思う。
 私は王子の婚約者とは違って、無闇に追いかけたりはしない。
 一人の時間が欲しい時はそれとなく一人にさせてあげる。
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