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主人公になった
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男爵についていき、屋敷に着けば男爵夫人を紹介される。
女性に年齢を聞くのは失礼なので見た目で判断するしかないが、三十歳前後と予想できた。
男爵夫妻には子供がおらず、夫人からは過剰なほどに歓迎された。
やはり子供が欲しがったのだろう…
それからは今後のことについて男爵から話があった。
まずは私の安全の確保と両親が発見されるまでは、男爵家に保護される事になった。
両親の捜索の間に一度、私が住んでいた場所を確認したいと男爵に求められたので家を案内すると男爵は驚いていた。目覚めたあの家は一番近い村からもかなり離れていて、万が一熊などに襲われたとしても誰も気付かないだろうと。男爵が「こんな場所に人が住んでいたとは把握していなかった」と呟いているのを聞いてしまい、何故両親があんな場所に住んでいたのか疑問に思った。
もしかしたら両親は家族に結婚を反対され、駆け落ち同然であそこに行き着いたのかもしれない。
誰にも見つからない場所でひっそりと幸せに暮らす二人だったのかもしれない…
まともに会話する前に別れてしまった…
男爵からは「両親の捜索は一ヶ月ほど続けるが、万が一もあるので覚悟しておくように」と伝えられた。
ゲームの内容を知っている私は、両親が生きて帰って来ることはないと心が冷めていた。諦めているつもりはないが、希望も持っていなかった。
捜索から数日が経ち、案の定土砂崩れに巻き込まれた二人の遺体が発見されたと報せを受けた。
「確認できそうか?」と男爵に心配されたが、どこが他人事というか私にはこの世界をまだゲームのようにしか捉えていなかった。
「確認…します」
男爵に案内され、掘り起こされた二人の遺体の確認をした。
男性のほうは初めましてだが、女性の方は今朝会った人に間違いがなかった。
「…ご両親かい?」
「…はぃ」
小さな声で頷いた。
私がもう少し早く思い出していれば二人は助かったのかもしれない。
自分のせいだとは思いたくないが、あの時あぁしていればと考えてしまう。
私はゲームの内容を知っていたのに…
「二人の葬儀は私がするから…何も気にすることはないよ」
男爵はそれだけ言って私から離れていき、私が二人と最後の別れができるように気を配ってくれているのだろう。
男爵は遠くで復旧作業の指示をだしていた。
私は落ち着いて二人との別れをしながら、孤独ではないと人の存在を感じることができた。
男爵の指示なのか復旧作業をする人達の視線を感じる。
私が突発的に二人の後を追うのではないかと心配してか監視…気に掛けてくれていた。
「これからゲームが始まるんだ…」
目の前の死から逃避したくて、ゲームに逃げ込んだ。
ゲームでは二人の死はとても重要なこと。
私が男爵に引き取られて学園に入学しないとストーリーは進まない。
選択したつもりはないが、ゲーム通りに進んでしまっている。
私は男爵の養女になり、エレナ・ワンダーソンに…私の意思とは違いゲーム通りに…
私はこれからワンダーソン男爵をお父様と呼ぶことになった。
両親と呼ぶべき人が亡くなり悲しむべきなんだろうが、来年度の学園に入学に向けて教育を施され、目まぐるしく日々が過ぎていく。
これは男爵なりの気遣いなのかもしれない。
私が悲しみに飲み込まれ両親のもとへ行くことを考えないように、沢山の事で埋めてくれていたのだろう…
私は養女となって男爵が雇った家庭教師を受けていたが、男爵の方は私を受け入れたことで貴族書類や王族にも報告を入れるなど、私の知らないところで動いてくれていた。
私が読んできた小説や漫画では平民が男爵の養子に入ったくらいで王族に報告するということは知らなかったが、貴族になるには王族の許可が必要なのかもしれない。
男爵の提出した貴族証明の書類に不備もなく、学園入学の最低学力基準も満たしたことで入学が許可された。
「エレナ、よく頑張ったな。明日から学園だ」
「はい」
「…一度きりの学園生活、存分に楽しみなさい」
「はい」
お父様の言葉はこれから始まる恋愛ゲームの開始の合図のようで、隣で佇む夫人も全てを包み込むように微笑んでくれる。
女性に年齢を聞くのは失礼なので見た目で判断するしかないが、三十歳前後と予想できた。
男爵夫妻には子供がおらず、夫人からは過剰なほどに歓迎された。
やはり子供が欲しがったのだろう…
それからは今後のことについて男爵から話があった。
まずは私の安全の確保と両親が発見されるまでは、男爵家に保護される事になった。
両親の捜索の間に一度、私が住んでいた場所を確認したいと男爵に求められたので家を案内すると男爵は驚いていた。目覚めたあの家は一番近い村からもかなり離れていて、万が一熊などに襲われたとしても誰も気付かないだろうと。男爵が「こんな場所に人が住んでいたとは把握していなかった」と呟いているのを聞いてしまい、何故両親があんな場所に住んでいたのか疑問に思った。
もしかしたら両親は家族に結婚を反対され、駆け落ち同然であそこに行き着いたのかもしれない。
誰にも見つからない場所でひっそりと幸せに暮らす二人だったのかもしれない…
まともに会話する前に別れてしまった…
男爵からは「両親の捜索は一ヶ月ほど続けるが、万が一もあるので覚悟しておくように」と伝えられた。
ゲームの内容を知っている私は、両親が生きて帰って来ることはないと心が冷めていた。諦めているつもりはないが、希望も持っていなかった。
捜索から数日が経ち、案の定土砂崩れに巻き込まれた二人の遺体が発見されたと報せを受けた。
「確認できそうか?」と男爵に心配されたが、どこが他人事というか私にはこの世界をまだゲームのようにしか捉えていなかった。
「確認…します」
男爵に案内され、掘り起こされた二人の遺体の確認をした。
男性のほうは初めましてだが、女性の方は今朝会った人に間違いがなかった。
「…ご両親かい?」
「…はぃ」
小さな声で頷いた。
私がもう少し早く思い出していれば二人は助かったのかもしれない。
自分のせいだとは思いたくないが、あの時あぁしていればと考えてしまう。
私はゲームの内容を知っていたのに…
「二人の葬儀は私がするから…何も気にすることはないよ」
男爵はそれだけ言って私から離れていき、私が二人と最後の別れができるように気を配ってくれているのだろう。
男爵は遠くで復旧作業の指示をだしていた。
私は落ち着いて二人との別れをしながら、孤独ではないと人の存在を感じることができた。
男爵の指示なのか復旧作業をする人達の視線を感じる。
私が突発的に二人の後を追うのではないかと心配してか監視…気に掛けてくれていた。
「これからゲームが始まるんだ…」
目の前の死から逃避したくて、ゲームに逃げ込んだ。
ゲームでは二人の死はとても重要なこと。
私が男爵に引き取られて学園に入学しないとストーリーは進まない。
選択したつもりはないが、ゲーム通りに進んでしまっている。
私は男爵の養女になり、エレナ・ワンダーソンに…私の意思とは違いゲーム通りに…
私はこれからワンダーソン男爵をお父様と呼ぶことになった。
両親と呼ぶべき人が亡くなり悲しむべきなんだろうが、来年度の学園に入学に向けて教育を施され、目まぐるしく日々が過ぎていく。
これは男爵なりの気遣いなのかもしれない。
私が悲しみに飲み込まれ両親のもとへ行くことを考えないように、沢山の事で埋めてくれていたのだろう…
私は養女となって男爵が雇った家庭教師を受けていたが、男爵の方は私を受け入れたことで貴族書類や王族にも報告を入れるなど、私の知らないところで動いてくれていた。
私が読んできた小説や漫画では平民が男爵の養子に入ったくらいで王族に報告するということは知らなかったが、貴族になるには王族の許可が必要なのかもしれない。
男爵の提出した貴族証明の書類に不備もなく、学園入学の最低学力基準も満たしたことで入学が許可された。
「エレナ、よく頑張ったな。明日から学園だ」
「はい」
「…一度きりの学園生活、存分に楽しみなさい」
「はい」
お父様の言葉はこれから始まる恋愛ゲームの開始の合図のようで、隣で佇む夫人も全てを包み込むように微笑んでくれる。
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