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死にたくない

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怖い…死にたくない…こんな中途半端なところで終わりたくない…お願い…誰か助けて…

私は頭を抱えて地面に伏せ、目を閉じ必死に願った。

「グギャァンガガガウギャア゛」

耳をつんざくような魔獣の断末魔。

食べられると直感し体が強ばるも、想像していた痛みをいくら待っても感じなかった。ゆっくり瞼を開け、周囲を確認すると目の前には何もない。私の目の前だけ土地が拓けている。
魔獣がいくつかのテントを薙ぎ倒し、通ってきた道が残っているものの問題の魔獣が見当たらない。私が目を閉じている瞬間にヒーローが颯爽と現れ、魔獣を倒し更に跡形もなく消し去ったのかと想像するも、どこか自身を納得させることができなかった。
なぜなら闘ったであろう人物も見当たらなければ音も気配も感じなかった。皆が私と同じように唖然とし、立ち尽くしている。

「大丈夫か?」

テントの合間から現れたのは、何人もの騎士を先導したクリストフ王子だった。

「…はい」

王子の手を借りながら立ち上がるも、足に力が入らない。

「もう、魔獣はいない。泣かなくて大丈夫だ」

泣いて?
あまりの恐怖に自分が泣いていることにも気付かなかった。腕と腰に手を回され、王子に支えられ導かれるまま足を動かし続ける。痺れているのか、足が思い通りに動かず引きずられることもあった。

「この馬車に乗り男爵家に戻れ、護衛は彼らに任せてくれ。私の信頼のおける騎士だ」

疑うわけではないが、王族の護衛騎士を見渡してしまう。
彼らの意志の強そうな表情から、いざという時私を置いて逃げるような騎士には見えなかったので、何も言わずに頷いた。

王子に言われるがまま馬車に乗り込み、自身の震える体を抱き締めた。

「ワンダーソン令嬢、生きていてよかった」

王子は微笑み扉を閉め、二回叩くと馬車は動き出す。
窓から王子を見つめると、頷く姿にフラッシュバックし一気に頭の中にゲームの映像が流れ込んできた。

狩猟大会が終わろうとした時、一匹の魔獣が貴族達の集まる安全地帯まで近づいていた。森に入っていた騎士が魔獣の存在に気付き引き返すも間に合わず、ヒロインの聖女の血に誘われた魔獣に襲われ命の危機を感じた時、ヒロインの体が発光し聖女の力が覚醒する。
聖女の祈りは天から光の雷を降らせ、魔獣が光に包まれると粒子となり浄化される。

私はゲーム通りに、聖女の力を覚醒させたのだと理解した。

男爵家に戻ると、お父様はまだ帰ってきていなかった。
狩猟大会では男性と女性は基本別行動のため、朝一緒に会場に向かう時が最後それからは会っていない。私だけが先に帰ってきたことで、屋敷内は混乱が漂うも皆冷静に振る舞ってくれる。私の姿を見て、お湯の準備やら行動し気遣ってくれる。

私がお風呂に入っている間、男爵も無事に帰って来たと知らせを受けた。
男爵に今日の事を聞きたかったが、「色々あっただろうから、すぐ休みなさい。明日事情を聴く」と断られた。
狩猟に参加していないが、魔獣に追いかけられたことで体力だけでなく精神も削られベットに横になると直ぐに眠ってしまった。
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