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転生した瞬間、悪役令嬢だった
ノワール・エデルシュタインの場合 後編
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「……真実を話していただけませんか?」
ステラは、私に『偽物』であることを認め、皆の前でそれを宣言しろと迫っている。
物語では……
リュシーは偽物とは認めず、全員がステラに騙されていると訴える。
パーティー気分でなくなったリュシーは、いらつきながら屋敷に戻る。
「……お待ちしておりました。旦那様と奥様が応接室でお待ちです」
この時点でリュシーは違和感に気付く。
執事がお嬢様と呼ばないこと。
談話室ではなく、応接室であること。
「……君は、私たちの子ではなかった。間違えてしまった、申しわけない。これは、慰謝料。君は、今日から自由だ」
自由……慰謝料……
要するに、手切れ金。
公爵家が間違えて平民を娘だと思い込んでいたなんて、社交界の恥。
本物の娘が現れたので、偽物に用はない。
面倒なので、お前は金を持って出て行け……
ということ。
「お前の名前はリュシーだ。今後、ノワール・エデルシュタインと名乗らないように」
私にノワール・エデルシュタインと強制しておきながら、今後は名乗るなと告げる公爵。
わずかな金貨を渡され、騎士に丁重なエスコートを受け、公爵家から追い出された。
そして、ステラは本物の公爵令嬢。
物語の主人公にふさわしい、王子の婚約者に納まり幸せな人生を送る。
リュシーについては……貴族としての感覚が忘れられず手切れ金も使い切り、再びお金の無心に公爵家を訪れるものの追い返される。
その後、惨めな人生で終える……
それが悪役令嬢の末路。
私はこの後の展開を知っているので、ステラに追究されても無様に大声を上げたり暴れたりしない。
「よろしいんですか? 真実を話しても……」
ステラの言葉を確認する。
「えっ? え……はい……真実を話してください」
私の反応は予想外だったのか、ステラは虚を突かれていた。
この反応からすると、ステラも前世の記憶持ちなのかもしれない。
ここから、私の舞台が始まる。
私は、役者。
観客を物語に引き込め……
「私は、エデルシュタイン公爵に雇われました、役者です」
「……役者? どういうことだ?」
王子は私の欲しい言葉をくれた。
「十五年前、ノワール・エデルシュタイン様が誘拐されました。公爵様は、お嬢様を必死で捜索しました。けれど、見つけることができず、その事実に公爵夫人は追い詰められておられました。その時に、髪と目の色が同じだった私が孤児院から引き取られました」
私の衝撃的な告白に、会場を支配している雰囲気を感じた。
今、私にスポットライトが……いや、視線と期待が集まっている。
「『本当の名前は名乗るな、今日からお前はノワール・エデルシュタインだ』そう、公爵様に指示され、私はノワール・エデルシュタイン公爵令嬢になりました」
「公爵の指示で?」
信じられない事実に王子が再度、確認する。
「はい。公爵様は、私が実の娘でないのを理解した上で私を引き取りました。すべては奥様と、どこかで生きている本物のノワール・エデルシュタイン様のためです」
「そうか……だとしても、君の学園での行動は目に余る。貴族令嬢のフリをするのであれば、あのような演技は過剰だったのではないか?」
ありがとう、王子。
そのことも話したかったの。
「それも、公爵様の指示です」
「公爵の指示? どういうことだ?」
「私が目立つ行動をすることで、皆さんの記憶から『ノワール・エデルシュタイン』を忘れさせないようにすること。そして、私が厚顔無恥・傍若無人な令嬢であればあるほど本物のノワール様が戻った時、すぐに社交界に受け入れられ馴染むことができるだろうというお考えでした」
「……学園での振る舞いは、公爵の指示だと?」
「細かく指示を受けたのではなく、疎まれ・嫌厭され、『決して完璧な令嬢にはなるな』という指示です。現に、学園での私の様子を知っても、公爵様から忠告を受けることは三年間ありませんでした」
娘溺愛の公爵が、私を忠告することはない。
公爵が私を偽物と知ったのは、卒業パーティーの数日前。
王子もステラも、私に気づかれないよう極秘に動いていた。
卒業パーティーで断罪すると計画していた二人に合わせ、公爵も偽物とわかりながら私と数日間過ごしていたに違いない。
「……だとしても……君の行動は……」
原作を読んだ時、私もこの悪役令嬢はやりすぎだと思った。
健気な主人公の対比として、悪役はいるが……
実際、悪役に目をつけられた人たちは可哀想だと思ってしまう。
それとこれとは、話は別。
私の人生がかかってる。
心の中で謝罪します。
「では、お聞きします……そちらの方、よろしいでしょうか?」
私は、周囲を見渡しある令嬢を指名する。
「私……ですか?」
このような状況で、突然指名された令嬢は困惑する。
「はい。子爵家の方ですよね?」
名前は忘れたが、子爵令嬢というのは覚えている。
近くにいて、私の記憶にある爵位の低い相手を指名した。
「あっ、はい。子爵家の、エリス・ベイリーと申します」
「エリス・ベイリー子爵令嬢。お聞きしたいことがあります」
「……はい」
「ある日突然、公爵が現れて『今日から娘を演じてくれ』と頼まれたら……あなたは、断れますか?」
「えっ……私は……」
「『妻が娘がいなくなったことで憔悴している。私の娘になってくれないか』と告げられ断れますか? 相手は、公爵だというのを踏まえてお答えください」
「公爵様から……断るのは……難しいかと……」
「子爵令嬢の方でも、公爵の提案を断るのが難しいと判断しました。私は孤児で……当時は八歳でした。突然現れた貴族の提案に『断る』という選択肢はありませんでした」
公爵からの提案で、私は今まで傍若無人に振る舞っていたのだ……
私の過去の行動を正当化するため、そういう設定にしてみた。
実際、そんな指示は受けていない。
観客に語りかけることで、今まで主人公の味方だった者も私の立場を『考えて』と問いかける。
全員が私の行動を『仕方ないのかも……』とは、ならないだろう。
だが、少数でも『逆らえなかったのかも……』と、思う人が現れれば十分。
「……どうも信じ難い話だ」
鋭い、王子。
すべて、私の作り話ですからね。
でないと、公爵家を追い出された後にどんな未来が待っているのか……
「ですが、これが真実でございます。ステラ様……いえ、ノワール様、真実を話す機会をいただき感謝いたします」
ステラに向き直り、頭を下げる。
「……えっ? いえ……」
思いもよらない私の告白に、ステラは虚を突かれていた。
「ノワール様がお戻りになった際、私は真実を公表せず消える予定でした。学園での私の振る舞いでご迷惑をおかけした皆様には、謝罪は叶わないと覚悟しておりました。ですが、この度ノワール様に真実を話す『許可』をいただき、皆様に謝罪することができました。ありがとうございます」
私は、観客である卒業生に振り向く。
「皆様。公爵様の指示とはいえ、あのような振る舞いをしてしまったことを、心からお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした」
私は全員に向かって頭を下げた。
驚いたことだろう。
学園在学中、人を人とも思わなかった悪役令嬢。
そんな令嬢が、頭を下げて謝罪?
本当はなりすましの孤児だった?
信じられない展開に、困惑のことだろう。
卒業パーティーでの、悪役令嬢の断罪。
私は、真実を認め謝罪した。
これも、断罪?
少し違うかもしれないが、物語通り断罪は行われた。
「それでは、この場にふさわしくない私は失礼いたします」
「待て、君はどこへいく?」
物語では、私を呼び止めることのなかった王子。
このまま、『逃げる』と思い、行先を訪ねたのだろう。
それか、悪役令嬢を追い詰める場面だったので、見せ場を奪ってしまったのを根に持っているのかもしれない。
「私はこれからエーデルシュタイン公爵家へ向かいます」
「公爵家へ?」
偽物と宣言しておきながら公爵家へ訪れ、何するつもりだ?
王子の目が告げている。
「はい。公爵令嬢を演じきった依頼料を頂かなければなりませんから」
「い……依頼料……そ、そうか……」
「はい」
私は後ろめたさなど見せず、自信満々に答える。
公爵の依頼で演じていた。
私たちの関係には、報酬が発生していたとこの場にいる全員に印象づける。
この後、間違いで引き取ってしまった慰謝料としてお金を貰うのだから同じこと。
名目が変わるだけ。
大差ないでしょう。
舞台を降りるまで、私は役者。
パーティー会場を去るまで、私は悪役令嬢・偽物ノワール・エデルシュタインを演じる。
公爵家に到着すると、物語通り執事が待ち構えていた。
応接室に通され、公爵夫妻との最後の会話。
「……君は、今日から自由だ」
手切れ金を頂き、私は受け取る。
事実を受け入れず私が暴れると予想してか、騎士が私の後ろで待機していた。
「ありがとうございます。また、何かあればご依頼ください」
私の言葉に唖然とする夫妻。
万が一、王子が事実確認に来た時の保険。
この場に立ち会った使用人や騎士が私の最後の言葉を報告すれば、卒業パーティーで宣言した内容に真実味が帯びるだろう。
私は、騎士に引きずられることなく、自らの足で出て行った。
これで、私と公爵家との縁が切れた。
そして、私は……
「この程度で、私を追い詰めたと思っているの? 私も甘く見られたものねぇ」
手切れ金で生活しつつ、役者をしている。
公爵令嬢を演じ、何年にも渡って貴族社会を牛耳ってきた。
その経歴から、話題性ですぐに舞台に立つことが叶った。
最初は、話題性。
だけど、継続するには実力が必要。
私は毎日のように舞台に立ち、他の劇団からも誘われている。
前世での稽古が、ようやく日の目を見ることになった。
悪役は、主役に次ぐ重要な役。
それでも、嫌悪されがち。
悪役は、観客から舞台を降りても嫌われる。
食べ物を投げつけられることもある。
だけど、私は主役よりも人気女優に上り詰めた。
今や、空前の悪役ブームとなるほどの人気ぶり。
以前は、悪役の末路は悲惨なものだった。
今や、悪役が非道であればあるほど劇は人気になる。
「あら? あなた、本当に役者だったのね?」
私が舞台に立っていると聞いた貴族が、確認のため何人も訪れる。
多くは、学園で私が侮辱した人間。
彼らは、その仕返しに私の前に現れる。
ここで怯んだら、彼らの思うつぼ。
「はい。わざわざ見に来ていただけたのですか? ありがとうございます」
私は、これまでにないくらい丁寧に対応をしている。
「こんな小汚いところで芝居だなんて……あなたには、お似合いの場所ね。少し、恵んでさしあげましょうか?」
偽物の公爵令嬢と知り、今までの仕返しと言わんばかりに皆、私を呼び付け見下す発言をする。
彼らに対し、私は……
「本当ですか? うちの劇団を支援していただけるのですか?」
「え? そういう意味では……」
「今、オーナーを呼んでまいります。オーナー、オーナー、支援してくださる貴族の方です」
この時のために、毎日発声練習をしているのではないかと思うくらい私は、大きな声でオーナーに声をかける。
『支援してくださる』という言葉に、他の劇団員たちの目が輝いた。
後ろで、令嬢が「そんなつもりでは……」と焦っているが、私は気にせずオーナーを連れてきた。
その後ろには、劇団員もいる。
名誉を重んじる貴族。
大声で支援の申し出と周囲の注目を引いてしまった手前、今さら「支援はいたしません」なんて言いづらい。
「ご支援いただけるのですか? ありがとうございます」
「ありがとうございます」
オーナーと共に私も頭を下げる。
私たちの後方で、劇団員も頭を下げているのを確認。
こうやって、私は多くの貴族からの支援をもぎ取った。
今の私は、前世で叶わなかった演劇一本でやっていけている。
確か……私が役者なのを確認しに来た人の中に、攻略対象の姿もあった。
「本当に……役者なんだな……」
悪役令嬢の私しか知らない彼らは、私の変わりように困惑気味。
疑われているのは、仕方がない。
なにせ、私は別人なのだから。
そんな彼らに微笑みで返す。
彼らとのかかわりは、これが最後。
私と恋愛に発展?
そんなことは、ない。
私が目指すのは、舞台女優。
その頃、本物のノワール・エデルシュタインがどうなったかは……私は知らない。
知りたい方は、本人に聞いて。
ステラは、私に『偽物』であることを認め、皆の前でそれを宣言しろと迫っている。
物語では……
リュシーは偽物とは認めず、全員がステラに騙されていると訴える。
パーティー気分でなくなったリュシーは、いらつきながら屋敷に戻る。
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この時点でリュシーは違和感に気付く。
執事がお嬢様と呼ばないこと。
談話室ではなく、応接室であること。
「……君は、私たちの子ではなかった。間違えてしまった、申しわけない。これは、慰謝料。君は、今日から自由だ」
自由……慰謝料……
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公爵家が間違えて平民を娘だと思い込んでいたなんて、社交界の恥。
本物の娘が現れたので、偽物に用はない。
面倒なので、お前は金を持って出て行け……
ということ。
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わずかな金貨を渡され、騎士に丁重なエスコートを受け、公爵家から追い出された。
そして、ステラは本物の公爵令嬢。
物語の主人公にふさわしい、王子の婚約者に納まり幸せな人生を送る。
リュシーについては……貴族としての感覚が忘れられず手切れ金も使い切り、再びお金の無心に公爵家を訪れるものの追い返される。
その後、惨めな人生で終える……
それが悪役令嬢の末路。
私はこの後の展開を知っているので、ステラに追究されても無様に大声を上げたり暴れたりしない。
「よろしいんですか? 真実を話しても……」
ステラの言葉を確認する。
「えっ? え……はい……真実を話してください」
私の反応は予想外だったのか、ステラは虚を突かれていた。
この反応からすると、ステラも前世の記憶持ちなのかもしれない。
ここから、私の舞台が始まる。
私は、役者。
観客を物語に引き込め……
「私は、エデルシュタイン公爵に雇われました、役者です」
「……役者? どういうことだ?」
王子は私の欲しい言葉をくれた。
「十五年前、ノワール・エデルシュタイン様が誘拐されました。公爵様は、お嬢様を必死で捜索しました。けれど、見つけることができず、その事実に公爵夫人は追い詰められておられました。その時に、髪と目の色が同じだった私が孤児院から引き取られました」
私の衝撃的な告白に、会場を支配している雰囲気を感じた。
今、私にスポットライトが……いや、視線と期待が集まっている。
「『本当の名前は名乗るな、今日からお前はノワール・エデルシュタインだ』そう、公爵様に指示され、私はノワール・エデルシュタイン公爵令嬢になりました」
「公爵の指示で?」
信じられない事実に王子が再度、確認する。
「はい。公爵様は、私が実の娘でないのを理解した上で私を引き取りました。すべては奥様と、どこかで生きている本物のノワール・エデルシュタイン様のためです」
「そうか……だとしても、君の学園での行動は目に余る。貴族令嬢のフリをするのであれば、あのような演技は過剰だったのではないか?」
ありがとう、王子。
そのことも話したかったの。
「それも、公爵様の指示です」
「公爵の指示? どういうことだ?」
「私が目立つ行動をすることで、皆さんの記憶から『ノワール・エデルシュタイン』を忘れさせないようにすること。そして、私が厚顔無恥・傍若無人な令嬢であればあるほど本物のノワール様が戻った時、すぐに社交界に受け入れられ馴染むことができるだろうというお考えでした」
「……学園での振る舞いは、公爵の指示だと?」
「細かく指示を受けたのではなく、疎まれ・嫌厭され、『決して完璧な令嬢にはなるな』という指示です。現に、学園での私の様子を知っても、公爵様から忠告を受けることは三年間ありませんでした」
娘溺愛の公爵が、私を忠告することはない。
公爵が私を偽物と知ったのは、卒業パーティーの数日前。
王子もステラも、私に気づかれないよう極秘に動いていた。
卒業パーティーで断罪すると計画していた二人に合わせ、公爵も偽物とわかりながら私と数日間過ごしていたに違いない。
「……だとしても……君の行動は……」
原作を読んだ時、私もこの悪役令嬢はやりすぎだと思った。
健気な主人公の対比として、悪役はいるが……
実際、悪役に目をつけられた人たちは可哀想だと思ってしまう。
それとこれとは、話は別。
私の人生がかかってる。
心の中で謝罪します。
「では、お聞きします……そちらの方、よろしいでしょうか?」
私は、周囲を見渡しある令嬢を指名する。
「私……ですか?」
このような状況で、突然指名された令嬢は困惑する。
「はい。子爵家の方ですよね?」
名前は忘れたが、子爵令嬢というのは覚えている。
近くにいて、私の記憶にある爵位の低い相手を指名した。
「あっ、はい。子爵家の、エリス・ベイリーと申します」
「エリス・ベイリー子爵令嬢。お聞きしたいことがあります」
「……はい」
「ある日突然、公爵が現れて『今日から娘を演じてくれ』と頼まれたら……あなたは、断れますか?」
「えっ……私は……」
「『妻が娘がいなくなったことで憔悴している。私の娘になってくれないか』と告げられ断れますか? 相手は、公爵だというのを踏まえてお答えください」
「公爵様から……断るのは……難しいかと……」
「子爵令嬢の方でも、公爵の提案を断るのが難しいと判断しました。私は孤児で……当時は八歳でした。突然現れた貴族の提案に『断る』という選択肢はありませんでした」
公爵からの提案で、私は今まで傍若無人に振る舞っていたのだ……
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実際、そんな指示は受けていない。
観客に語りかけることで、今まで主人公の味方だった者も私の立場を『考えて』と問いかける。
全員が私の行動を『仕方ないのかも……』とは、ならないだろう。
だが、少数でも『逆らえなかったのかも……』と、思う人が現れれば十分。
「……どうも信じ難い話だ」
鋭い、王子。
すべて、私の作り話ですからね。
でないと、公爵家を追い出された後にどんな未来が待っているのか……
「ですが、これが真実でございます。ステラ様……いえ、ノワール様、真実を話す機会をいただき感謝いたします」
ステラに向き直り、頭を下げる。
「……えっ? いえ……」
思いもよらない私の告白に、ステラは虚を突かれていた。
「ノワール様がお戻りになった際、私は真実を公表せず消える予定でした。学園での私の振る舞いでご迷惑をおかけした皆様には、謝罪は叶わないと覚悟しておりました。ですが、この度ノワール様に真実を話す『許可』をいただき、皆様に謝罪することができました。ありがとうございます」
私は、観客である卒業生に振り向く。
「皆様。公爵様の指示とはいえ、あのような振る舞いをしてしまったことを、心からお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした」
私は全員に向かって頭を下げた。
驚いたことだろう。
学園在学中、人を人とも思わなかった悪役令嬢。
そんな令嬢が、頭を下げて謝罪?
本当はなりすましの孤児だった?
信じられない展開に、困惑のことだろう。
卒業パーティーでの、悪役令嬢の断罪。
私は、真実を認め謝罪した。
これも、断罪?
少し違うかもしれないが、物語通り断罪は行われた。
「それでは、この場にふさわしくない私は失礼いたします」
「待て、君はどこへいく?」
物語では、私を呼び止めることのなかった王子。
このまま、『逃げる』と思い、行先を訪ねたのだろう。
それか、悪役令嬢を追い詰める場面だったので、見せ場を奪ってしまったのを根に持っているのかもしれない。
「私はこれからエーデルシュタイン公爵家へ向かいます」
「公爵家へ?」
偽物と宣言しておきながら公爵家へ訪れ、何するつもりだ?
王子の目が告げている。
「はい。公爵令嬢を演じきった依頼料を頂かなければなりませんから」
「い……依頼料……そ、そうか……」
「はい」
私は後ろめたさなど見せず、自信満々に答える。
公爵の依頼で演じていた。
私たちの関係には、報酬が発生していたとこの場にいる全員に印象づける。
この後、間違いで引き取ってしまった慰謝料としてお金を貰うのだから同じこと。
名目が変わるだけ。
大差ないでしょう。
舞台を降りるまで、私は役者。
パーティー会場を去るまで、私は悪役令嬢・偽物ノワール・エデルシュタインを演じる。
公爵家に到着すると、物語通り執事が待ち構えていた。
応接室に通され、公爵夫妻との最後の会話。
「……君は、今日から自由だ」
手切れ金を頂き、私は受け取る。
事実を受け入れず私が暴れると予想してか、騎士が私の後ろで待機していた。
「ありがとうございます。また、何かあればご依頼ください」
私の言葉に唖然とする夫妻。
万が一、王子が事実確認に来た時の保険。
この場に立ち会った使用人や騎士が私の最後の言葉を報告すれば、卒業パーティーで宣言した内容に真実味が帯びるだろう。
私は、騎士に引きずられることなく、自らの足で出て行った。
これで、私と公爵家との縁が切れた。
そして、私は……
「この程度で、私を追い詰めたと思っているの? 私も甘く見られたものねぇ」
手切れ金で生活しつつ、役者をしている。
公爵令嬢を演じ、何年にも渡って貴族社会を牛耳ってきた。
その経歴から、話題性ですぐに舞台に立つことが叶った。
最初は、話題性。
だけど、継続するには実力が必要。
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前世での稽古が、ようやく日の目を見ることになった。
悪役は、主役に次ぐ重要な役。
それでも、嫌悪されがち。
悪役は、観客から舞台を降りても嫌われる。
食べ物を投げつけられることもある。
だけど、私は主役よりも人気女優に上り詰めた。
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今や、悪役が非道であればあるほど劇は人気になる。
「あら? あなた、本当に役者だったのね?」
私が舞台に立っていると聞いた貴族が、確認のため何人も訪れる。
多くは、学園で私が侮辱した人間。
彼らは、その仕返しに私の前に現れる。
ここで怯んだら、彼らの思うつぼ。
「はい。わざわざ見に来ていただけたのですか? ありがとうございます」
私は、これまでにないくらい丁寧に対応をしている。
「こんな小汚いところで芝居だなんて……あなたには、お似合いの場所ね。少し、恵んでさしあげましょうか?」
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「え? そういう意味では……」
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後ろで、令嬢が「そんなつもりでは……」と焦っているが、私は気にせずオーナーを連れてきた。
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「ご支援いただけるのですか? ありがとうございます」
「ありがとうございます」
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「本当に……役者なんだな……」
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なにせ、私は別人なのだから。
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