【完結】能力が無くても聖女ですか?

天冨 七緒

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婚約

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 会った事もない第一王子との婚約が決定してから、子爵家に戻ることなく王宮で過ごしている。
 子爵は少しでも長く王宮に滞在し『陞爵』と『第一王子の婚約者を私からマヤリーに変更』させようと躍起になっている。
 次第に私にも迫りだす。

「お前からも国王に『私に王妃は荷が重いです、マヤリー義姉様の方が相応しいです』と進言しなさい」

 私自身も王妃になるつもりは無いので、子爵の言葉通り王様とのお茶会の場で宣言した。

「大丈夫。心配することは無い、その為の王妃教育だ。今からでは早くはないが、遅くもなく充分間に合う。それに王妃を救った『聖女』という肩書もある。誰もそなたを蔑ろになどさせない」

 私達の言葉は王様の自信によって砕かれ、更に追い打ちを……

「身内が側にいると甘えてしまい、王妃教育に支障が出る。子爵よ、聖女はこちらで保護するから安心して領地に戻られよ」

 国王の言葉は『そろそろ王宮を去れ』という意味に聞こえた。
 子爵もそのように受け取ったのか、その日のうちに一人渋々王宮を去った。
 だが往生際悪く別れ際も

「心配だから何かあったら直ぐに連絡しなさい。手紙に両陛下とどんな話をしたのか事細かに報告するんだぞ」

 私が頷くまで肩を強く掴まれた。

「……はい」
 
 子爵の乗る馬車を見送り漸く一人になり安堵するのも束の間、今後の日程が伝えられた。
 付け焼き刃とは言え、王族に謁見するために子爵家で貴族作法を学んだ。
 その最低限の淑女教育の確認を行ってから王妃教育が始まる。

「そうですね……令嬢の立ち姿勢ですが、少し顎を引きましょうか」

 確認の結果、私は基本的な淑女教育から学ぶ事になった。
 説明を受ければ、私が子爵家で学んだものは王宮では全くもって通用しない事を体感する。
 及第点を頂いたお辞儀やカップの持ち方以前に、立ち姿歩く事でさえ、指摘を受ける始末。
 最低限を身に付けてから私の『聖女御披露目』と『第一王子の婚約者発表』のパーティーが行われるらしいのだが、今のところパーティーの日程は未定。
 それ程私は『国を率いる者として』人前に出られる条件を満たしていなかった様子。

 そして月日が経ち、私の聖女発表と婚約披露パーティーが決定する。
 日時が決定すると当日に必要となるドレスや宝石が準備されていく。
 その頃になり本来もっと早く対面するべきの婚約者を紹介された。

「マカリオン。こちらが聖女……王妃を救ってくれた令嬢だ」

 にこやかに微笑む国王から紹介されるも、私の名前を口にしなかった。
 たったそれだけの事だが、国王陛下にとって私は聖女の能力以外興味がない事をより強く感じた。
 目の前にいる彼は私と年齢も変わらない綺麗な男の子。
 シルバーの髪色は太陽の光でキラキラと輝き、グリーン色の瞳は皆が登っていた木を思い出す。

「……ケイトリーン・ミシェリングと申します」

 国王の前で行う貴族の挨拶は、王宮で学び直した礼儀作法の最後の試練のようで緊張を伴う。

「……マカリオン・トランビーノだ。この度、母上を治癒したと聞いた。ありがとうございます」

 昔、孤児院の先生がよく物語を語ってくれた。
 その物語に出てくるような優しい王子が現実に私の目の前に立っている。
 私は初めて見る王子に見惚れ、王子も王妃を治癒した私に感謝している姿で国王は満足している様子。

「んむ、問題なさそうだな」

「何か懸念があったのですか? 」

「あぁ。次の王妃の快気祝いパーティーでマカリオンと聖女との婚約を正式に発表する」

「へっ? 婚……約……ですか? 」

 王子は私との婚約について今初めて聞いた様子。

「問題ないな? 」

 先程まで微笑んでいた王子から笑顔が消えてしまった瞬間を目撃する。
 明らかに王子は困惑しているように見えた。
 『王妃を救った人物への挨拶』くらいとしか聞いていなかったのだろう。
 この様子では国王が私を『聖女』以外で紹介しているとは思えない。
 いつか私が元孤児だと知ったら彼はどんな反応を見せるだろうか……

「マカリオン。王妃の快気祝いパーティーでは、お前が聖女のエスコートするんだ。いいな? 」

「……はい」

 これが親子の会話というものなのだろうか?
 王族の会話は私が理想とするものとは程遠い。

「それで……聖女の能力はその後、戻ったか? 」

 国王は私へ向き『聖女』の能力が戻ったのかを聞く。
 国王にとっては私の存在はそれしか価値がない。

「……いいえ。今では何も感じません」

 王妃の回復の祈りを最後に私の中にあった、あの暖かな光は完全に消え去った。
 今ではかすり傷さえ治療できないのは、きっとそう言うことなんだと思う。

「……そうか……」

 国王は残念そうに微笑むも、私を捨てる・解放することはなく王子と婚約させる意志は変わらない様子。
 これにて私達婚約者の顔合わせは終了した。
 私九歳、王子十歳。
 年齢的には問題なかった……年齢的には……

 それからパーティーまでの時間、数回ではあるが王子とお茶を共にする機会を与えられた。
 互いにぎこちないながら質疑応答を交互に繰り返し、喩え王命の婚約とはいえ受け入れる努力をする。
 既に私の出生を伝えられているのか分からないが私の口から直接伝える事にした。
 自身の婚約者が孤児だと知り嫌な顔をするかと思えば、彼は一切表情を崩さなかった。

「そうなんですね」

 事前に知っていたのかは読み取れないが、彼の反応はそれだけだった。
 王命の婚約は正式発表されるまで極秘扱いなので、王子が私と定期的にお茶をしている事を目撃した者から『あの女は何者だ? 』と噂が広まりだしていた。
 貴族の情報網は侮れないもので、私が最近子爵家に引き取られた孤児である事実が拡散されるのも時間がかからなかった。
 子爵令嬢の私が王子と何度もお茶をしていれば、快く思わない貴族の不興を買うことになる。
 そんな彼らと不意に出会すと、私に分かりやすい悪意を向ける。
 きっと彼らは私が色仕掛けでもして王子に取り入っていると思っているに違いない。
 私と王子が王命による婚約関係だとは想像しておらず、王子との婚約を狙う令嬢だけでなく知りもしない大人からもあからさまな悪意をぶつけられ打ちのめされるようになっていた。

「元孤児が気安く親しく出来る相手ではない」
「お前程度の容姿で王子が絆されるわけが無いだろう」
「子爵も愚かなことを考えたものだ」

 様々な言葉が私の耳に届くようになっていた。
 反論したくとも、パーティーで発表するまでは私がどういう存在なのかは公表してはいけない。
 なので、私は否定も反論も飲み込まなければならなかった。
 そんな毎日を送る私にとって、王子はいつも変わらず穏やかな対応をしてくれお茶している時間だけは唯一悪意を受けなかった。
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