【完結】能力が無くても聖女ですか?

天冨 七緒

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新たな国

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 正確な状況は分からないが、ここにいる彼らは聖女を求め何らかの儀式を行ったのではないかと察する。
 そして私が『聖女』として呼ばれたらしい……もう私は聖女に戻りたくない。
 私は私の為に『聖女ではない』と告げる。
 彼らに私の言葉が届き始めると時間が停止する。
 次第に脳が軌道し始めると彼らはあからさまにがっかりした表情に変わる。

「聖女様の……世話……係……ですか? 」

 召喚したと思われる男の人が再度確認する。

「はい」

 私は自分が聖女だと思ったことはないし、あの能力もあの時だけ……それ以降は全くない。
 あちらの国のように、能力がないのに期待されるのはもう嫌だ。

「では……召喚は……失敗……」

 一人が呟いた言葉で『聖女』召喚は失敗したのだと理解すると、場の雰囲気が一気に沈み込む。
 私の責任ではないのに私が悪いような気がしてくる。
 この場を離れたいのに出口が分からず周囲の様子を窺うしかない。

「どうしますか? 」
「もう一度召喚儀式おこないますか? 」
「いや、続けて二回は難しい……」

 彼らの話し合いも丸聞こえでいたたまれない。

「今回の召喚儀式はこれにて終了する。そちらの令嬢は聖女の世話係だったと聞く」

 纏まらない話し合いの中、一人の人物の発言で状況が動いたが折角存在が消えていた私に再び視線が集まってしまった。

「はい……」

「どのような聖女に仕えていたのか、少し話を聞かせてもらえないか? 」

 聖女の世話係と告げてしまっている以上「分かりません」は通用せず了承するしかなかった。

「……私の答えられる範囲であれば……」

「それで十分だ」

 彼の発言でこの重苦しい空気から解放されるも、私は別室へと促される。
 逃げるという選択肢はなく、彼らに素直に従いながら付いて行く。
 通された部屋は全く同じではないが、あの国の国王に呼び出された時の執務室と雰囲気がよく似ている。

「聖女様……の世話係と言ったな。そなた名は何という? 」

「ケ……イトリーンです」

 あの場を制御し今もこの場を支配している目の前の男性は、きっとこの国の王なのだろう。
 年齢は私の知っている国王と年齢が近いように感じる。
 
「私は、ロイヤル・ギルべネル。ギルべネル王国の国王だ」

 自己紹介を終えると国王は優しく微笑む。
 あちらの国では国王に名乗ってもらったかさえあやふやだったのを今、思い出した。

「国王……陛下……」

 もう王族の人とは関わらない・関わりたくないと思っていたのに、再び関わってしまった。

「ケイトリーン嬢。聖女様はどんな人物だった? 」

「聖女……様は……ある日突然能力を授かり、原因不明の病に苦しんでいた王妃様を救いました。ですが、その時能力を使い切ってしまって……」

 聖女……様。
 この国の人は聖女を信仰しているよう。
 あの国では聖女としか言われなかった。

「使い切ったとはどういうことだ? 」

 私の言葉に国王は驚いている。
 聖女が能力を使い切ってしまったという事実は聞いたことがないのだろう。
 私も聖女の話は何冊か読んだことはあるが、聖女が能力を使い切ったという話は聞いたことがない。
 絵本の中の聖女達は生まれた時から能力保持者や、ある日突然能力が開花。
 そして国民と国の為に力を使い結界を張り守り続ける……能力はあったが消滅してしまった、という話は聞いた事がない。

「王妃様の病は深刻で、聖女……様が祈りを終えると倒れていまい、一週間程眠り続け目覚めた時には能力が消失していました。それ以降能力を発揮することは無く、毎日教会に祈りを捧げていましたが能力が戻ることは……」

「そうなのか……その……ケイトリーン嬢がいた国は安定しているのか? 」

「安定……していたと思います。戦争はなかったですし……食糧不足などはありましたが、そこまで深刻ではなかったと把握しています」

 これと言って目立った問題は報告されていない。
 だからと言って、近隣国同士で互いに様子を窺っている状態で、作物や経済に関しても順調という事ではない。
 天候不順が続けば作物は取れなくなり他領地から買い取るか国からの支援で賄っているので貧困層も存在している。
 ただ、彼らによる暴動はなく『落ち着いている』というだけ。

「聖女のおかげだな」

「……そうなんでしょうか? 」

 どの国も大差ないと思うのだが、それは聖女のおかげなのだろうか?

「あぁ。我が国は天候不順に食糧難が続き各領地からの嘆願書が後を絶たない。それだけでなく聖女不在という事が他国にも知れ渡り海賊などの標的となり、今では攻撃が相次いでいる状態なんだ」

「聖女不在で海賊まで? 」

 聖女と海賊が関係しているなんて、あちらの国では聞いたことが無い。

「海賊は迷信深く、聖女が存在する国には立ち寄らないそうだ」

「……そうなんですね。知りませんでした」

 聖女教育でも王妃教育でも、『聖女の存在が海賊を遠ざけている』なんて記述は無かった。

「聖女が存在する国は襲われないから知らなくても当然のことだ」

「では、えっと……こちらの国は……」

「我が国にも聖女は存在した。だが後継者が現れる前に亡くなられて、既に三年だな。その噂を聞きつけた海賊に一度襲来されてから、この国は標的になってしまった。今では聖女の補佐をしていた数名が教会に通い次世代の聖女に相応しいか見極めていたのだが、値する者は現れていない」

「聖女の資格を判定する物でもあるのですか? 」

 私は突然の能力により『聖女』にされてしまったが、本来は判定する儀式か何かが存在するのだろうか?

「我が国では国民の全ての者が、十歳を迎えた翌月の第三木曜日に王都にある大聖堂を訪れ祈りの場で祈りを捧げる。その時聖女であれば、何らかの反応があると言われている。先代の聖女が誕生したのは七十年ほど前で、私が生れる前の話なので文献と語り継がれるのを把握しているだけだ。その時は祈りを捧げていると前日の夜からの激しい雨が止み、聖女に降り注ぐよう光が差し込んだそうだ。そしてその後、聖女に反応するといわれる水晶に手を翳すと光り輝いた」

 この国の人達が聖女を信仰しているのが伝わる。

「確認の為、再度聞くのだがケイトリーン嬢は聖女様の世話係だったのだな? 」

「はい」

「念の為、第三木曜日に大聖堂まで訪れていただけないだろうか? 」

「……私は聖女ではありませんが……」

 私は能力を使い果たした。
 教会で祈りを捧げたところで何かが起きるとは思えない。
 なのに、確認を行うのは僅かな希望にすがっているのだろうか? 
 私としてはもう誰かをがっかりさせることも自分が傷つくこともしたくない。

「それでも、召喚の儀で訪れたのだ。素質があるのかもしれない」

「素質は……(あってほしくない)」

「我が国の者は全員行っている儀式だと思ってほしい。その日もケイトリーン嬢だけでなく、十歳となった者全てが受ける」

 私が特別に受けるのではなく、十歳となった人達全員……そのうちの一人ということであれば……

「分かりました」

「では、ケイトリーン嬢はその間王城で過ごしてほしい。こちらの事情で一方的に呼び付けて悪いのだが、元の国に返す方法はないんだ。聖女様でなくてもケイトリーン嬢には我が国で支障なく過ごしてもらいたいと思っている」

「……はい。お気遣いありがとうございます」

 もともとあちらの国を出てから行く場所なんてなかったので、数日の間だけでも生活できるのはありがたい。
 私は『聖女』の為に準備されていた部屋に案内された。

「数日はここでお過ごしください」

「ありがとうございます」

 案内してくれた人物は『数日は』と口にする。
 きっと『聖女ではない』と断定した後は、この部屋を追い出されるという事だろう。

「それまでに今後を考えなくちゃ」
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