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聖女のお仕事
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それから私は司祭に今後の『聖女』の仕事について尋ねた。
「私共としては、ケイトリーン様が仕えていた聖女様の生活をこちらでもお願いしたいと考えています」
「ですが補佐の方達に聞いたところ、聖女様の仕事内容は私がいた国とはずいぶん違うようですが……」
「補佐達には聖女様に従うように伝えておきましょう。令嬢達を『補佐』と言っていますが、実際は聖女とお茶会をしに来ている者達です。当時は令嬢達も幼かったですし。こちらとしては高位貴族令嬢が相手では何も言えませんでした。それに聖女も高齢でしたので祈り以外は……それから聖女様がお眠りになった後は、聖女補佐達を指導する者がおらずただのお茶会になりました」
聖女信仰の強い国だからこと、聖女様には一日でも長く生きていてほしいという思いを優先したのだろう。
令嬢達には思うことはあっても、聖女の体調と高位貴族ということで目を瞑っていた。
そして聖女様が亡くなってからは『高位貴族令嬢』という肩書だけが残り、教皇でもどう接していいのか躊躇してしまったという事か……
教皇なのだから「来なくていい」と言えば済むのかもしれないが、そこは貴族。
多額の寄付で解決してきたに違いない。
寄付してでも令嬢達は『聖女』という肩書が欲しいのだろう……聖女になれば王子の婚約者に一歩近づける。
自己紹介したが、聖女補佐は高位貴族ばかりだった。
魂胆が……これが神に仕える者とは思えない。
令嬢達にとっては聖女信仰より、現実的な王子の婚約者なのか。
「私が聖女として行動するとして、補佐の方達は何処までするのでしょうか? 傍で待機するだけですか? 」
令嬢達の反応は私の知る令嬢達とよく似ている。
掃除は使用人の仕事、平民と関わることは極力避けたい、常に優雅に振る舞っていたい。
そんな令嬢達が私と同じ生活なんてするとは思えない。
「『聖女』が存在する国の聖女の生活を共にすることが、我が国の聖女誕生に近づくかもしれませんから」
教皇の言葉はなんの根拠もないが、本物の聖女が誕生する為には何でも試したいのだろう。
「……分かりました」
教皇が言うのだから私としては以前の生活を送るつもりだが、令嬢達の反応からして嫌な予感しかしない。
そして翌日からの聖女生活が始まる。
補佐達とは初日ということもあり王宮の祈りの場の許可は得られず、午後の教会での祈りから共に行動する。
「まずは大聖堂で祈りを捧げます。私のいた国では補佐の方も祈りを捧げますので皆さもお祈りください」
「聖女様、私達も祈りを捧げるのはよろしくないかと」
何かしら異論が出るだろうと覚悟はしていたが、まさかまず初めの祈りの段階で出るとは予想外だった。
「なぜ、よろしくないのでしょうか? 」
「聖女でない私達が聖女様の真似事をするのは『偽聖女』と呼ばれてしまう可能性があります」
令嬢達が困惑している理由は、本当に『偽聖女』と間違われることを懸念している者と、そうでない者に分けられた。
特にイニアスとゼルーガからは「面倒な事はしたくない」と表情に現れている。
「それは問題ありませんよ。司祭にも許可を得ておりますので。もし補佐をするのが難しいようであれば、辞退していただいて構いません」
私が辞退を仄めかせば、令嬢達は黙り込む。
大聖堂の祈りの場まで移動し、私の背後に五名の補佐も一緒に祈りを始める。
祈りといっても大層なものではなく、今日から聖女として働かせていただきますという自己紹介。
そして私が何者なのか、何処から来たのか、どんな人生を送りどのような生活をしてきたのかを報告。
祈りとして正解なのかは分からないが、国で起きた災害などの報告や改善策をそこで考えていたりした。
祈りの最中は誰にも邪魔されないので考え事するにはとてもいい環境だと思っていた。
私が祈りを終え振り返ると、令嬢達は既に終え待機していた。
「……では、これから大聖堂の掃除を始めます」
「……聖女様、掃除は私達の仕事ではありません」
やはりというか案の定といいますか、掃除を提案すればイニアスだけでなく全員が困惑し拒絶の反応を見せる。
「神に仕える者として、大聖堂の掃除は当然です。今日は大聖堂のみですが、皆さんの王宮への登城の許可が下りた際には王宮の祈りの場の掃除も手伝って頂きます」
「王宮……」
掃除と聞いてすぐに辞退すると思ったが、何故か皆踏みとどまっている。
貴族であれば王宮への登城はある程度の場所であれば申請しなくても許可が下りるだろう。
わざわざ掃除などの行為をしなくても自由に出入り可能。
辞退を躊躇う理由はないのに、令嬢達は何故か『辞退します』とは言わなかった。
「私は以前の聖女とは違いますので、令嬢達には無理に私の補佐を続ける必要はありませんよ」
辞退してもいいですよ、とこちらから提案するも顔を見合わせ誰も口にしない。
もしかして、聖女補佐を簡単に辞退することはできないのだろうか?
面倒な手続きでも必要なのか、それとも家族に『辞めるな』と圧力でも掛けられているのか……
「私は掃除道具を借りてきますので、皆様は一度屋敷に戻りご家族と話し合われてみてはいかがですか? 辞退しても私が抗議することはありません」
選択の余地を与え、私は令嬢達を残し一人で教皇の元へ向かった。
教皇には私と令嬢達の会話を報告したので、明日令嬢達が訪れないかもしれないと伝えておいた。
「そうですか、分かりました。ケイトリーン嬢もなかなかですね」
何故か教皇が喜んでいるように思える。
修道士が「お持ちします」と気を使ってくれたのだが、これから毎日掃除する予定なので「私も一緒に向かいます」と告げる。
掃除道具を持ち、大聖堂に戻れば案の定というか誰もいなかった。
私が促した事なので令嬢達を責めるつもりはない。
私は一人で掃除を始める。
無心に掃除していると鐘の音で漸く周囲が暗くなっていたのを知る。
「掃除って本当に嫌なことを忘れさせてくれるなぁ」
一人呟きながら掃除道具を片付けに行くと、修道士達は私がまだ掃除していたことに驚いていた。
「明日も同じ時間掃除しますので、よろしくお願いします」
「畏まりました」
馬車で王宮へ戻り、聖女一日目は大聖堂の掃除で終わった。
「私共としては、ケイトリーン様が仕えていた聖女様の生活をこちらでもお願いしたいと考えています」
「ですが補佐の方達に聞いたところ、聖女様の仕事内容は私がいた国とはずいぶん違うようですが……」
「補佐達には聖女様に従うように伝えておきましょう。令嬢達を『補佐』と言っていますが、実際は聖女とお茶会をしに来ている者達です。当時は令嬢達も幼かったですし。こちらとしては高位貴族令嬢が相手では何も言えませんでした。それに聖女も高齢でしたので祈り以外は……それから聖女様がお眠りになった後は、聖女補佐達を指導する者がおらずただのお茶会になりました」
聖女信仰の強い国だからこと、聖女様には一日でも長く生きていてほしいという思いを優先したのだろう。
令嬢達には思うことはあっても、聖女の体調と高位貴族ということで目を瞑っていた。
そして聖女様が亡くなってからは『高位貴族令嬢』という肩書だけが残り、教皇でもどう接していいのか躊躇してしまったという事か……
教皇なのだから「来なくていい」と言えば済むのかもしれないが、そこは貴族。
多額の寄付で解決してきたに違いない。
寄付してでも令嬢達は『聖女』という肩書が欲しいのだろう……聖女になれば王子の婚約者に一歩近づける。
自己紹介したが、聖女補佐は高位貴族ばかりだった。
魂胆が……これが神に仕える者とは思えない。
令嬢達にとっては聖女信仰より、現実的な王子の婚約者なのか。
「私が聖女として行動するとして、補佐の方達は何処までするのでしょうか? 傍で待機するだけですか? 」
令嬢達の反応は私の知る令嬢達とよく似ている。
掃除は使用人の仕事、平民と関わることは極力避けたい、常に優雅に振る舞っていたい。
そんな令嬢達が私と同じ生活なんてするとは思えない。
「『聖女』が存在する国の聖女の生活を共にすることが、我が国の聖女誕生に近づくかもしれませんから」
教皇の言葉はなんの根拠もないが、本物の聖女が誕生する為には何でも試したいのだろう。
「……分かりました」
教皇が言うのだから私としては以前の生活を送るつもりだが、令嬢達の反応からして嫌な予感しかしない。
そして翌日からの聖女生活が始まる。
補佐達とは初日ということもあり王宮の祈りの場の許可は得られず、午後の教会での祈りから共に行動する。
「まずは大聖堂で祈りを捧げます。私のいた国では補佐の方も祈りを捧げますので皆さもお祈りください」
「聖女様、私達も祈りを捧げるのはよろしくないかと」
何かしら異論が出るだろうと覚悟はしていたが、まさかまず初めの祈りの段階で出るとは予想外だった。
「なぜ、よろしくないのでしょうか? 」
「聖女でない私達が聖女様の真似事をするのは『偽聖女』と呼ばれてしまう可能性があります」
令嬢達が困惑している理由は、本当に『偽聖女』と間違われることを懸念している者と、そうでない者に分けられた。
特にイニアスとゼルーガからは「面倒な事はしたくない」と表情に現れている。
「それは問題ありませんよ。司祭にも許可を得ておりますので。もし補佐をするのが難しいようであれば、辞退していただいて構いません」
私が辞退を仄めかせば、令嬢達は黙り込む。
大聖堂の祈りの場まで移動し、私の背後に五名の補佐も一緒に祈りを始める。
祈りといっても大層なものではなく、今日から聖女として働かせていただきますという自己紹介。
そして私が何者なのか、何処から来たのか、どんな人生を送りどのような生活をしてきたのかを報告。
祈りとして正解なのかは分からないが、国で起きた災害などの報告や改善策をそこで考えていたりした。
祈りの最中は誰にも邪魔されないので考え事するにはとてもいい環境だと思っていた。
私が祈りを終え振り返ると、令嬢達は既に終え待機していた。
「……では、これから大聖堂の掃除を始めます」
「……聖女様、掃除は私達の仕事ではありません」
やはりというか案の定といいますか、掃除を提案すればイニアスだけでなく全員が困惑し拒絶の反応を見せる。
「神に仕える者として、大聖堂の掃除は当然です。今日は大聖堂のみですが、皆さんの王宮への登城の許可が下りた際には王宮の祈りの場の掃除も手伝って頂きます」
「王宮……」
掃除と聞いてすぐに辞退すると思ったが、何故か皆踏みとどまっている。
貴族であれば王宮への登城はある程度の場所であれば申請しなくても許可が下りるだろう。
わざわざ掃除などの行為をしなくても自由に出入り可能。
辞退を躊躇う理由はないのに、令嬢達は何故か『辞退します』とは言わなかった。
「私は以前の聖女とは違いますので、令嬢達には無理に私の補佐を続ける必要はありませんよ」
辞退してもいいですよ、とこちらから提案するも顔を見合わせ誰も口にしない。
もしかして、聖女補佐を簡単に辞退することはできないのだろうか?
面倒な手続きでも必要なのか、それとも家族に『辞めるな』と圧力でも掛けられているのか……
「私は掃除道具を借りてきますので、皆様は一度屋敷に戻りご家族と話し合われてみてはいかがですか? 辞退しても私が抗議することはありません」
選択の余地を与え、私は令嬢達を残し一人で教皇の元へ向かった。
教皇には私と令嬢達の会話を報告したので、明日令嬢達が訪れないかもしれないと伝えておいた。
「そうですか、分かりました。ケイトリーン嬢もなかなかですね」
何故か教皇が喜んでいるように思える。
修道士が「お持ちします」と気を使ってくれたのだが、これから毎日掃除する予定なので「私も一緒に向かいます」と告げる。
掃除道具を持ち、大聖堂に戻れば案の定というか誰もいなかった。
私が促した事なので令嬢達を責めるつもりはない。
私は一人で掃除を始める。
無心に掃除していると鐘の音で漸く周囲が暗くなっていたのを知る。
「掃除って本当に嫌なことを忘れさせてくれるなぁ」
一人呟きながら掃除道具を片付けに行くと、修道士達は私がまだ掃除していたことに驚いていた。
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