【完結】恋愛に向いていない女性の記録。婚約者との関係改善を目指して記憶喪失のフリをしたら……婚約解消になった編

天冨 七緒

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恋愛小説・上

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「貴方は……どなたかしら? 」

 親の意向により私の婚約は決定した。
 貴族であれば珍しくない政略結婚。
 初めの頃は歩み寄る努力をしたが、いつの間にか諦めてしまった。
 それは、私の婚約者には「想い人がいる」という噂を耳にしたから。
 こんな関係から彼を解放する為に私は婚約者の元へ向かった。
 だが、その道中馬車が大きく揺れ頭を強打。
 そして目覚め時、私はあることを実行した。

「……俺の事……覚えてないのか? 」

「はい」

 お見舞いに来た彼に向かって私は嘘を吐いた。
 本当は覚えていたが、記憶喪失のフリをして婚約解消をする計画を企てた。
 婚約者が記憶喪失となれば面倒事を避けたい貴族は婚約解消を言い出すと考えてのこと。
 政略的に決まった婚約は簡単には解消できない。
 相手に秘めた恋人がいたとしても、不貞の証拠には弱く解消理由になることはない。
 
「貴族の婚約は家と家との繋がり」

 父から何度も聞かされた言葉だ。
 相手の浮気は目を瞑るのが常識。
 恋愛をするな、と言うわけではない。
 恋愛に振り回されるな、という事。  
 そのように言われて育つも相手には最低限の信頼関係は欲しいと思うもの。
 好きになってほしいとは言わない、信頼できる関係性でありたかっただけ。
 けれど、婚約者には想い人がいると社交界で噂になっていた。
 
「想い人……」

 私と婚約しているので公には行動していないようだが、人知れぬ立場が二人を盛り上げている。
 社交界では婚約者の不貞を耳にした令嬢から、腫れ物に触るような扱い受けるようになった。

「哀れで、惨めな私……」

 このまま婚姻するくらいなら婚約解消を選んだ方がましだと思えた。

「婚約解消……ふっ」

 そう決意して婚約者の元へ向かった……
 その道中馬車が故障し、気が付けば婚約者の元へ向かうことなく屋敷のベッドに舞い戻っている。
 私は婚約者との約束の時間に向かうことなく一方的に欠席していたことになった。
 私達の関係は既に破綻しているので、当日私が訪れない事に彼はなんとも思わなかっただろう。
 思うとしたら「欠席するなら事前に連絡しろ」と責め立てているに違いない。
 私が事故に遭おうが体調を崩そうが、婚約者が見舞いに来るとは思えない。
 私達は互いを心配しあえる関係を築くことが出来なかったのだから。
 それなのに……

「約束の時間に訪れないから心配していた。事故に遭っていたとは思わなかった、大丈夫か? 」

 まさか事前連絡なく、彼が我が家を訪れるとは思わなかった。
 私が事故に遭ったと知ったとしても手紙で様子を聞くくらいで、わざわざ訪れるような人ではないと認識している。
 想い人のいる彼は、私を義務的に誘うにしても誘い方がいつも「断ってほしい」前提で予定を尋ねていた。
 なので私の方も気を利かせて、三度に一度くらいの頻度でお会いすることにしていた。
 私ばかり彼に気を使い我慢していると思うと不意に全てを失くしてしまいたくなった。
 そして私は深く考える前に口にしていた。

「貴方は……どなたかしら? 」
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