【完結】恋愛に向いていない女性の記録。婚約者との関係改善を目指して記憶喪失のフリをしたら……婚約解消になった編

天冨 七緒

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 彼と婚約したことは忘れたい記憶ではあるが、残念なことに忘れたことはない。
 私の婚約破棄となりえる提案をしたんだ、彼はきっと喜んでいるに違いない……
 なのに……
 彼はとても悲しそうな表情を見せた。
 見たこともない、悲しそうな表情……

「……俺の事……覚えてないのか? 」

「はい」

 これで私達の婚約は解消になる……

「俺は君の婚約者で……あの日は……式の為にドレスや宝石を打ち合わせするはずだったんだ」

「まぁっ」

 存在を消していた使用人は彼の言葉に嬉しそうな反応を見せるが、私は複雑だった。
 式のドレスに宝石? 何の話? 
 事前の連絡で彼とそんな約束をした覚えはない。
 私達は婚約者として会ったとしても、ほとんど会話らしい会話をしたのは数える程。
 そんな私達が婚姻の為に具体的な会話などあるわけがない。
 それなのにドレスや宝石なんて……彼は何を言っているのだろう?
 今まで誕生日の贈り物でさえ、形が残る物は頂いたことがない。
 大抵は、お菓子や花など消えてしまう物。
 なので、私も同じようにいずれ捨ててしまえるものを贈っていた。

「……申し訳ないのですが、記憶になくて……」

 これは記憶喪失のフリでもなく、本当に彼が何を言っているのか分からない。

「俺達は……結婚式の後には新婚旅行にも行こうと話していたんだ。詳しくは今度と……」

「……へ? そうなんですか? 」

 そんな話、したこともなければ聞いたこともない。
 彼は私を社交界で噂されている恋人と間違えているのではないか?
 私が頭を強打したように、彼もここへ来る途中馬車が大きく揺れ頭を強打したに違いない。
 道路整備が間に合っていないのだろう。

「俺の事……本当に忘れてしまったのか? 」
 
「はい」

 記憶喪失のフリをした日から、人知れぬ恋人がいる婚約者がありもしない嘘を並べ頻繁に会いに来る。
 私が何も覚えていないと思って、彼の嘘は止まらない。

「あの……私、覚えていないのですが私達の関係って……」

「婚約者だ。私達の始まりは政略的な婚約だったが、今では……恋人だ」

「恋人? 」

 私の記憶が戻れば嘘だと分かるものなのに、何故そんな嘘を彼が吐くのか理解できない。
 我が家との繋がりはそんなに大事なのだろうか?
 彼の家が傾きかけているなんて話は聞かない。
 我が家との繋がりが切れたところで大した痛手とはならないだろう。
 
「私と婚約解消すれば、噂の恋人と婚約できるというのにどうして私のところに通うのだろう? 」

 婚約解消というのは社交界では女の私が笑いものにされるだけで、男性がすぐに新たな人と婚約しても囁かれのは一時。
 傷物とついて回るのは女性側のみ……
 それでも私は彼との関係を終わらせたかったというのに、この状況はなんだ?

「今日は町に行こう」

 それから彼は私を色んな場所へと誘う。
 何処へ行くにも彼は私をエスコートする。
 偶然私達を目撃した貴族は大層驚いていた。
 社交界でも私と婚約者の関係は良好とは言われたことがないので、驚くのは当然と言える。
 私達の噂が流れてしまえば、新たな婚約者を迎える時に困るのは彼の方なのに……
 それすらも分からないのか?

「彼の目的は何? 」

 いくら考えても答えが出ないので、直接聞くことにしようと思う。
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