【完結】恋愛に向いていない女性の記録。婚約者との関係改善を目指して記憶喪失のフリをしたら……婚約解消になった編

天冨 七緒

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恋愛小説・下

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 今日は、今人気の劇に向かう。
 彼が観劇に興味があるなんて知らなかったし、女性が好むこの劇が人気だというのを誰に聞いたのか……
 聞きたいことは沢山ある。

「あの……どうして私を誘うのですか?」

「どうしてって婚約者だから」

「婚約者……」

 それは、義務って事?

「過去の俺を思い出せないのなら、新しい思い出を作ろうと思って」

「新しい思い出……ですか? 」

 思い出って、私達にそんなものは何一つない。

「まぁ、今日は珍しい方とご一緒されているのですね」

 突然声を掛けてきたのは、彼の恋仲と噂される令嬢。 
 令嬢は私を値踏みするように全身を確認し「フッ」と笑う。
 私は年齢の割に幼く見えるのに対して、令嬢は私より一つ年下なのだがとても大人っぽい。
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 私が彼の婚約者だと知りながら挑発するように彼の腕に絡みつく。
 
「ねぇ、今度はいつお会いできますか? 」

 目の前で繰り広げられる光景に不快感を覚え、その場から離れたくなる。
 最近では彼の行動に絆され始めていたが、噂は本当だったのだと突きつけられた。

「令嬢とお約束があったのですね、私の事は気にせずどうぞお二人でお話になって」

 二人を残し、私は先に馬車へと向かう。
 少しでも早く二人を視界から外したかった。
 歩きながら「やはり婚約は解消するべきね」と決意。

「待ってくれ」

「キャッ」

 突然腕を引かれ、強引に振り向かされる。
 目の前には彼の姿があったが、先程の令嬢の姿は確認できない。

「私のことは気にせず、先程の令嬢と……」

「誤解している。あの令嬢とは何の関係もないっ」

 関係もないと言うも、あの令嬢は自然に彼の腕に絡みついていたのを思い出す。

「そうなのですか? 」

 彼は強く否定するも私には信用できなかったし、彼の言葉も大して響かない。

「あの令嬢には何度か声を掛けられたが、そういう関係じゃないんだ」

「そうなのですね」

「信じてほしい」

 彼が必死になればなる程、私の心は冷めていく。

「私は記憶喪失ですので貴方様がどのような方と恋仲にあろうと私には何も言えませんので」

「俺は貴方との婚約解消を望んだことなど一度もない」

「そうですか、わかりました」

 もう彼との会話も疲れてしまい笑顔で終わらせた。
 一人屋敷に戻るも彼はその後も私に彼色のドレスや宝石が贈り、社交界では必ずエスコートするようになった。
 彼からの婚約解消を待っていたのに、いつまで経っても私の元へ婚約解消の書類が届くことが無い。
 それからも彼は恋人のように私の婚約者を演じている。
 そんな風に振る舞っていれば、私達の関係性に驚いた令嬢達から質問攻めにあう。
 お茶会などに頻繁に呼ばれ「婚約者と良好な関係を築くにはどうしたらいいのか教えてほしい」とまで言われるようになってしまった。
 ここで私が「婚約者と良好な関係性を築くには~」なんて語りその後婚約解消しましたとなれば、なんと噂されるのか考えたくもない。
 
「婚約解消は私から言い出すしかないのね……」 

 そして次の婚約者との時間、私は婚約解消を提案した。

「どうしてっ、俺は婚約解消なんて……」

 彼がどんな表情を見せようと、私は一切同情などできなかった。

「私が記憶喪失だからです」

「俺は構わない」

「私が構うのです」

「俺がフォローする」

「……どうしてそこまで婚約解消を拒むのですか? 」

「どうしてって、俺は……その……」

「政略的な理由ですか? 」

「違うっ。俺は……その……あなたの事が……」

「私が何です? 」

「だから……その……」

 彼が何を言いたいのか要領を掴めない。
 それに普段無表情の彼の顔が赤らめ始める。

「どうしたんですか? 苦しいんですか? 」

「俺は……貴方に……ひ……ぼ……」

「なんですか? 」

「俺は……だから……一目惚れ……したんですっ」

「……え? 」

 彼は今なんて言った?
 一目惚れ? 
 一目惚れって、一目見て相手に惚れたっていうアレ? 
 彼が私に? 
 そんな事あるわけない。
 婚約してからずっと無表情で笑顔なんて見せてくれた事はなかったし、会話もぶっきら棒だった。
 そんな彼が私に一目惚れ? 
 信じられない……
 だけど顔を真っ赤にさせている彼を見ると、私もなんだか顔が熱い。
 だって……
 初めて彼が婚約者だと紹介された時、私も彼の事を…… 
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