【完結】恋愛に向いていない女性の記録。婚約者との関係改善を目指して記憶喪失のフリをしたら……婚約解消になった編

天冨 七緒

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婚約が……

 軽く横になるつもりが、眠ってしまっていた。

「お目覚めですか? 」

「うん」

「何か欲しいものはありませんか? 」

「頭にこぶが出来ているみたいなの、冷やすものを」

「畏まりました」

 普段のようにヴァローナに指示を出す。
 彼女は私が幼い頃から一緒にいる。
 なので、記憶喪失という設定を完全に忘れていた。

「お嬢様、こちらをどうぞ」

「ありがとう」

 濡れたタオルを受け取り、こぶに当てる。
 
「なんだか普段のお嬢様に戻ったみたいですね」

「え? あっ」

 忘れていた。
 私は記憶喪失を演じてしまったんだ。

「徐々に思い出しますよ、きっと」

「その事なんだけどね……」

「そうだっ。今、お客様がお見えですよ。誰だと思います? 」

「えっ? 誰だろう……そんな事よりね……」

「フランツ様がいらっしゃってるそうです。伯爵と共に」

「フランツ様が伯爵と共に? 」

 何故二人が我が家に?
 そんな報せは受けていない。

「あっ、フランツ様というのはお嬢様の婚約者です。お嬢様は十歳の頃に婚約なさったのですよ」

 ヴァローナは私が記憶喪失というのを信じ、相手の事を教えてくれた。
 だけど、私は知っている。
 何故なら私は記憶喪失ではないから。
 
「えっと、何故いらっしゃったのかしら? 」

「旦那様が手紙を送ったのを見ました」

 父が伯爵とフランツに手紙を送り、我が家に訪れるなんて……
 嫌な予感がしてならない。

「……お父様が……私も同席した方がいいんじゃないかしら? 」

「そうですね。お嬢様が目覚めたことを報告し、同席が必要か確認してまいります」

 ヴァローナは父の元へ向かう。
 待っている間、不安で仕方がない。

「お嬢様」

 戻って来たヴァローナ。

「お父様はなんて? 」

「旦那様は『体調に問題ないようでしたら同席するように』とのことです」

「問題ないわ」

「では、準備いたしましょう」

 本当はすぐにでも応接室に向かいたいところだが、寝起きの姿をフランツに見られたくなかった。
 準備している間、どんな話をしているのか気になって仕方がない。

「整いました。体調に変化はありませんか? 」

「ないわ」

「それでは応接室へ、私が案内いたします」

 前を歩くヴァローナに続いて応接室に向かう。
 
「こちらが応接室です」

 ヴァローナに扉を開かれ室内を確認する。
 報告の通り、フランツと伯爵の姿があった。
 
「セラフィーナ、大丈夫なのか? 」

 父が立ち上がり私に声を掛ければ、二人も立ち上がる。

「はい」

 父が座るソファに近付く。

「では、こちらに座りなさい」

「はい」

 父と私が座るのを確認し、二人も座る。
 机の上には数枚の書類があることに気が付く。

「目覚めたばかりで困惑すると思うが、セラフィーナ。こちらタドミール伯爵と婚約者のフランツ様だ」

「はい」

「セラフィーナ嬢は本当に記憶が? 」

 タドミール伯爵は既に父から話を聞いたのか、私が記憶喪失なのか確認する。

「あぁ。タドミール伯爵家からの帰りに事故に遭い記憶に障害がみられる」

 父だけでなくフランツとタドミール伯爵にも知られてしまい『記憶喪失は嘘でした』と言える雰囲気ではなくなってしまった。
 せめて、目覚めたら記憶が戻りました言わないと……

「お父……」

「それで、何故娘を送らなかった? 君が送っていればセラフィーナはこんなことにならなかったと思わないか? どう責任を取るつもりなんだ? 」

 最悪の展開を迎えていた。
 父は私の記憶喪失はフランツに問題があると責めていた。
 私の嘘でこんなことに。
 早く記憶喪失ということを訂正しないと、取り返しのつかない事に……

「返答によっては婚約を考え直さないといけない。タドミール伯爵はどうお考えだ? 」

「申し訳ありません。息子の判断が甘かったようで……令嬢の怪我は我が家の責任です。婚約については……我が家としては継続を希望しますが……侯爵にお任せしたいと思います」

 悪い方向へ向かっているとしか思えない展開。
 早く言わないと……

「お父様っ」

「フランツ様、君の気持ちも聞いておこう」

 訂正しようとお父様に声を掛けるも、私の言葉に被さり続けられない。
 今度こそっと父を呼ぶと、フランツの気持ちを聞けると思い黙ってしまった。

「令嬢の怪我は俺に責任があると思っています。婚約解消されても仕方がありません」

「フランツッ」

 伯爵の慌てる様子に対して、フランツは冷静だった。
 責任感のあるフランツは私の怪我の原因は自分だと口にする。
 私の嘘のせいでフランツが責められるとは、考えが及ばなかった。

「……お父……」

「セラフィーナ、どうする? 」

 嘘を吐きましたというタイミングが漸く訪れたと思ったのだが、いざその場になると言葉が出ない。
 彼は本当に婚約解消となっても構わないのだろうか……

「……今の……状態の私では……婚約継続は……難しい……のではありませんか? 」

 私は何を言っているんだろう……
 もし彼の口から婚約解消なんて言われたら……
 大丈夫、彼はそんな事言わない。
 私達には絆がある。
 絶対に……大丈夫……

「俺は、令嬢との婚約解消を受け入れます」

 ……終わった。
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