6 / 75
婚約が……
軽く横になるつもりが、眠ってしまっていた。
「お目覚めですか? 」
「うん」
「何か欲しいものはありませんか? 」
「頭にこぶが出来ているみたいなの、冷やすものを」
「畏まりました」
普段のようにヴァローナに指示を出す。
彼女は私が幼い頃から一緒にいる。
なので、記憶喪失という設定を完全に忘れていた。
「お嬢様、こちらをどうぞ」
「ありがとう」
濡れたタオルを受け取り、こぶに当てる。
「なんだか普段のお嬢様に戻ったみたいですね」
「え? あっ」
忘れていた。
私は記憶喪失を演じてしまったんだ。
「徐々に思い出しますよ、きっと」
「その事なんだけどね……」
「そうだっ。今、お客様がお見えですよ。誰だと思います? 」
「えっ? 誰だろう……そんな事よりね……」
「フランツ様がいらっしゃってるそうです。伯爵と共に」
「フランツ様が伯爵と共に? 」
何故二人が我が家に?
そんな報せは受けていない。
「あっ、フランツ様というのはお嬢様の婚約者です。お嬢様は十歳の頃に婚約なさったのですよ」
ヴァローナは私が記憶喪失というのを信じ、相手の事を教えてくれた。
だけど、私は知っている。
何故なら私は記憶喪失ではないから。
「えっと、何故いらっしゃったのかしら? 」
「旦那様が手紙を送ったのを見ました」
父が伯爵とフランツに手紙を送り、我が家に訪れるなんて……
嫌な予感がしてならない。
「……お父様が……私も同席した方がいいんじゃないかしら? 」
「そうですね。お嬢様が目覚めたことを報告し、同席が必要か確認してまいります」
ヴァローナは父の元へ向かう。
待っている間、不安で仕方がない。
「お嬢様」
戻って来たヴァローナ。
「お父様はなんて? 」
「旦那様は『体調に問題ないようでしたら同席するように』とのことです」
「問題ないわ」
「では、準備いたしましょう」
本当はすぐにでも応接室に向かいたいところだが、寝起きの姿をフランツに見られたくなかった。
準備している間、どんな話をしているのか気になって仕方がない。
「整いました。体調に変化はありませんか? 」
「ないわ」
「それでは応接室へ、私が案内いたします」
前を歩くヴァローナに続いて応接室に向かう。
「こちらが応接室です」
ヴァローナに扉を開かれ室内を確認する。
報告の通り、フランツと伯爵の姿があった。
「セラフィーナ、大丈夫なのか? 」
父が立ち上がり私に声を掛ければ、二人も立ち上がる。
「はい」
父が座るソファに近付く。
「では、こちらに座りなさい」
「はい」
父と私が座るのを確認し、二人も座る。
机の上には数枚の書類があることに気が付く。
「目覚めたばかりで困惑すると思うが、セラフィーナ。こちらタドミール伯爵と婚約者のフランツ様だ」
「はい」
「セラフィーナ嬢は本当に記憶が? 」
タドミール伯爵は既に父から話を聞いたのか、私が記憶喪失なのか確認する。
「あぁ。タドミール伯爵家からの帰りに事故に遭い記憶に障害がみられる」
父だけでなくフランツとタドミール伯爵にも知られてしまい『記憶喪失は嘘でした』と言える雰囲気ではなくなってしまった。
せめて、目覚めたら記憶が戻りました言わないと……
「お父……」
「それで、何故娘を送らなかった? 君が送っていればセラフィーナはこんなことにならなかったと思わないか? どう責任を取るつもりなんだ? 」
最悪の展開を迎えていた。
父は私の記憶喪失はフランツに問題があると責めていた。
私の嘘でこんなことに。
早く記憶喪失ということを訂正しないと、取り返しのつかない事に……
「返答によっては婚約を考え直さないといけない。タドミール伯爵はどうお考えだ? 」
「申し訳ありません。息子の判断が甘かったようで……令嬢の怪我は我が家の責任です。婚約については……我が家としては継続を希望しますが……侯爵にお任せしたいと思います」
悪い方向へ向かっているとしか思えない展開。
早く言わないと……
「お父様っ」
「フランツ様、君の気持ちも聞いておこう」
訂正しようとお父様に声を掛けるも、私の言葉に被さり続けられない。
今度こそっと父を呼ぶと、フランツの気持ちを聞けると思い黙ってしまった。
「令嬢の怪我は俺に責任があると思っています。婚約解消されても仕方がありません」
「フランツッ」
伯爵の慌てる様子に対して、フランツは冷静だった。
責任感のあるフランツは私の怪我の原因は自分だと口にする。
私の嘘のせいでフランツが責められるとは、考えが及ばなかった。
「……お父……」
「セラフィーナ、どうする? 」
嘘を吐きましたというタイミングが漸く訪れたと思ったのだが、いざその場になると言葉が出ない。
彼は本当に婚約解消となっても構わないのだろうか……
「……今の……状態の私では……婚約継続は……難しい……のではありませんか? 」
私は何を言っているんだろう……
もし彼の口から婚約解消なんて言われたら……
大丈夫、彼はそんな事言わない。
私達には絆がある。
絶対に……大丈夫……
「俺は、令嬢との婚約解消を受け入れます」
……終わった。
「お目覚めですか? 」
「うん」
「何か欲しいものはありませんか? 」
「頭にこぶが出来ているみたいなの、冷やすものを」
「畏まりました」
普段のようにヴァローナに指示を出す。
彼女は私が幼い頃から一緒にいる。
なので、記憶喪失という設定を完全に忘れていた。
「お嬢様、こちらをどうぞ」
「ありがとう」
濡れたタオルを受け取り、こぶに当てる。
「なんだか普段のお嬢様に戻ったみたいですね」
「え? あっ」
忘れていた。
私は記憶喪失を演じてしまったんだ。
「徐々に思い出しますよ、きっと」
「その事なんだけどね……」
「そうだっ。今、お客様がお見えですよ。誰だと思います? 」
「えっ? 誰だろう……そんな事よりね……」
「フランツ様がいらっしゃってるそうです。伯爵と共に」
「フランツ様が伯爵と共に? 」
何故二人が我が家に?
そんな報せは受けていない。
「あっ、フランツ様というのはお嬢様の婚約者です。お嬢様は十歳の頃に婚約なさったのですよ」
ヴァローナは私が記憶喪失というのを信じ、相手の事を教えてくれた。
だけど、私は知っている。
何故なら私は記憶喪失ではないから。
「えっと、何故いらっしゃったのかしら? 」
「旦那様が手紙を送ったのを見ました」
父が伯爵とフランツに手紙を送り、我が家に訪れるなんて……
嫌な予感がしてならない。
「……お父様が……私も同席した方がいいんじゃないかしら? 」
「そうですね。お嬢様が目覚めたことを報告し、同席が必要か確認してまいります」
ヴァローナは父の元へ向かう。
待っている間、不安で仕方がない。
「お嬢様」
戻って来たヴァローナ。
「お父様はなんて? 」
「旦那様は『体調に問題ないようでしたら同席するように』とのことです」
「問題ないわ」
「では、準備いたしましょう」
本当はすぐにでも応接室に向かいたいところだが、寝起きの姿をフランツに見られたくなかった。
準備している間、どんな話をしているのか気になって仕方がない。
「整いました。体調に変化はありませんか? 」
「ないわ」
「それでは応接室へ、私が案内いたします」
前を歩くヴァローナに続いて応接室に向かう。
「こちらが応接室です」
ヴァローナに扉を開かれ室内を確認する。
報告の通り、フランツと伯爵の姿があった。
「セラフィーナ、大丈夫なのか? 」
父が立ち上がり私に声を掛ければ、二人も立ち上がる。
「はい」
父が座るソファに近付く。
「では、こちらに座りなさい」
「はい」
父と私が座るのを確認し、二人も座る。
机の上には数枚の書類があることに気が付く。
「目覚めたばかりで困惑すると思うが、セラフィーナ。こちらタドミール伯爵と婚約者のフランツ様だ」
「はい」
「セラフィーナ嬢は本当に記憶が? 」
タドミール伯爵は既に父から話を聞いたのか、私が記憶喪失なのか確認する。
「あぁ。タドミール伯爵家からの帰りに事故に遭い記憶に障害がみられる」
父だけでなくフランツとタドミール伯爵にも知られてしまい『記憶喪失は嘘でした』と言える雰囲気ではなくなってしまった。
せめて、目覚めたら記憶が戻りました言わないと……
「お父……」
「それで、何故娘を送らなかった? 君が送っていればセラフィーナはこんなことにならなかったと思わないか? どう責任を取るつもりなんだ? 」
最悪の展開を迎えていた。
父は私の記憶喪失はフランツに問題があると責めていた。
私の嘘でこんなことに。
早く記憶喪失ということを訂正しないと、取り返しのつかない事に……
「返答によっては婚約を考え直さないといけない。タドミール伯爵はどうお考えだ? 」
「申し訳ありません。息子の判断が甘かったようで……令嬢の怪我は我が家の責任です。婚約については……我が家としては継続を希望しますが……侯爵にお任せしたいと思います」
悪い方向へ向かっているとしか思えない展開。
早く言わないと……
「お父様っ」
「フランツ様、君の気持ちも聞いておこう」
訂正しようとお父様に声を掛けるも、私の言葉に被さり続けられない。
今度こそっと父を呼ぶと、フランツの気持ちを聞けると思い黙ってしまった。
「令嬢の怪我は俺に責任があると思っています。婚約解消されても仕方がありません」
「フランツッ」
伯爵の慌てる様子に対して、フランツは冷静だった。
責任感のあるフランツは私の怪我の原因は自分だと口にする。
私の嘘のせいでフランツが責められるとは、考えが及ばなかった。
「……お父……」
「セラフィーナ、どうする? 」
嘘を吐きましたというタイミングが漸く訪れたと思ったのだが、いざその場になると言葉が出ない。
彼は本当に婚約解消となっても構わないのだろうか……
「……今の……状態の私では……婚約継続は……難しい……のではありませんか? 」
私は何を言っているんだろう……
もし彼の口から婚約解消なんて言われたら……
大丈夫、彼はそんな事言わない。
私達には絆がある。
絶対に……大丈夫……
「俺は、令嬢との婚約解消を受け入れます」
……終わった。
あなたにおすすめの小説
殿下の婚約者は、記憶喪失です。
有沢真尋
恋愛
王太子の婚約者である公爵令嬢アメリアは、いつも微笑みの影に疲労を蓄えているように見えた。
王太子リチャードは、アメリアがその献身を止めたら烈火の如く怒り狂うのは想像に難くない。自分の行動にアメリアが口を出すのも絶対に許さない。たとえば結婚前に派手な女遊びはやめて欲しい、という願いでさえも。
たとえ王太子妃になれるとしても、幸せとは無縁そうに見えたアメリア。
彼女は高熱にうなされた後、すべてを忘れてしまっていた。
※ざまあ要素はありません。
※表紙はかんたん表紙メーカーさま
夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。
MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。
記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。
旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。
屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。
旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。
記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ?
それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…?
小説家になろう様に掲載済みです。
婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました
Rohdea
恋愛
誰かが、自分を呼ぶ声で目が覚めた。
必死に“私”を呼んでいたのは見知らぬ男性だった。
──目を覚まして気付く。
私は誰なの? ここはどこ。 あなたは誰?
“私”は馬車に轢かれそうになり頭を打って気絶し、起きたら記憶喪失になっていた。
こうして私……リリアはこれまでの記憶を失くしてしまった。
だけど、なぜか目覚めた時に傍らで私を必死に呼んでいた男性──ロベルトが私の元に毎日のようにやって来る。
彼はただの幼馴染らしいのに、なんで!?
そんな彼に私はどんどん惹かれていくのだけど……
どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~
クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。
同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。
ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した…
誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。