【完結】恋愛に向いていない女性の記録。婚約者との関係改善を目指して記憶喪失のフリをしたら……婚約解消になった編

天冨 七緒

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嘘つき

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 呆然としている間に、フランツとの婚約は解消されてしまった。
 机の上に準備されていた書類は、婚約解消の手続きだった。
 状況を飲み込めない私と違い、フランツは冷静に対応していく。
 タドミール伯爵の方が複雑そうな表情をしていた。

「これで正式に婚約解消となった。他の手続きは後に書類を送らせていただく」

「……畏まりました」

 父と伯爵の表情を見ると、この婚約は伯爵の望みが強かったように感じる。 
 我が家との繋がりが欲しい伯爵に対して、父はそこまで伯爵に拘っていなかったよう……
 婚約した五年前に比べ、我が家は領地が繁栄し新たな事業も軌道に乗り手広く展開している。
 伯爵家については詳しくは分からない。
 父は私の事を愛してくれているが、野心もある。
 婚約解消を選択するという事は、何かしら考えがあるのだろう……

「本日は時間を頂きありがとう」

「いえ……セラフィーナ嬢も、息子の不手際で申し訳ありませんでした……フランツッ」

「……申し訳なかった」

 伯爵は未練がましそうにするも、フランツは表情を変えない。
 私はフランツに伯爵のような姿を求めていた。
 今更私の記憶喪失が嘘だと話しても何も変わらないだろう。
 二人を見送る。

「セラフィーナ、記憶喪失なのに付き合わせて疲れただろう? 休みなさい。彼の事は思い出す必要はないからそのまま忘れてしまいなさい」

 父の言葉に訂正も反論も出来ず、部屋に戻る。
 
「お嬢様? 気分が優れませんか? 」

「少し一人になりたい」

「……はい」

 ヴァローナが部屋を出て行き一人になる。
 隠していた小説を取り出し、もう一度確認する。
 小説では記憶喪失になった令嬢との関係を改善しようと令息が奔走するのに……

「あっ……」

 小説を読み直すと確りと書いてあった。
 
「記憶喪失発言は婚約破棄となりえる提案……」

 私はその事をすっかり忘れていた。
 読み始めた当初、婚約破棄の可能性があると書いてあったから私はやらないと決めていたんだ。
 その事を忘れ、二人の関係が改善される物語に夢中となってしまった……
 
「あんな事、言わなきゃ良かった……」

 私は取り返しのつかない事をしてしまった。
 もう、私がフランツの婚約者に戻る事は無い。
 あれほど胸をときめかせた小説は、今では何の魅力も感じない。
 それよりも、この本は嘘つきだ。
 人生は小説のようにはいかない。

「セラフィーナ、パーティーの招待状が届いている。体調に問題なければ私としては参加してほしいと思っている。どうだ、参加できそうか? 」

 婚約解消が正式となってから多数の手紙が届くようになった。
 令嬢達からは、婚約解消を心配しつつ詳細を聞きたいというのが伺える。
 令息達からは、侯爵令嬢の突然の婚約者不在に我先にと名乗りを挙げる。
 それに今回のパーティーは、侯爵家・嫡男の爵位継承という大事なもの。
 父としては必ず参加させたいのだ。 

「……はい、参加します」

 記憶も体調も問題ない私に拒否権は無い。
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