【完結】恋愛に向いていない女性の記録。婚約者との関係改善を目指して記憶喪失のフリをしたら……婚約解消になった編

天冨 七緒

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過去の私達と今の私達

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「本日は、以前の私達の関係についてお話を伺っても宜しいかしら? 」

 彼がなんて答えるのか興味がある。

「もちろんです。令嬢と私達は高位貴族という事で人目のあるところでは礼儀を重んじておりましたが、二人きりの時はとても相思相愛でした」

 相思相愛? 
 彼の言葉を聞いていると眉間に皺が寄りそうなのを必死に耐える。

「そうなんですか」

「あぁ。俺は令嬢から贈られた衣装や靴を今も大事に使用させてもらっている」

 その言葉でふと思い出した。
 あのパーティーであの人とフランツはダンスをしていた。
 しかも、相手の女性のドレスは私がフランツに贈った衣装と似たような生地だったので、二人が婚約者のように見えた……
 私は私が手配したのを認識していたので、彼らの服装は偶然の一致と深くは考えなかった。

「そう……なのですね」

 その後の彼の話は私の記憶にあるものだが、微妙に誤差を感じる。
 彼は絶妙に嘘と真実を混ぜている。
 
「俺達はとても幸せだった……それなのに令嬢が記憶喪失だなんて……あの日、俺がちゃんと令嬢を送り届けていれば……こんなことには……すまないっ」

 貴方は……幸せでしょうね。
 婚約者に貢がせて、自分は恋人と恋愛中だったんだもの。
 彼の白熱する演技に感心してしまう。
 瞼を抑え俯き泣いているように見えるが「泣いてないだろう? 」と、目元を隠す手を掴みたいのを我慢している。

「そうですか。私は毎回、令息に送られていたのでしょうか? 」

「えっあ……いや、それは……令嬢に……一人で帰りたいと……言われた……事が……」

 記憶喪失の相手なので、「毎回送っていた」と嘘を吐くかと思ったが、大胆な嘘は吐かなかった。
 だが、嘘とは言わないが……あの発言は誤解を生む。
 確かに過去、私が「一人で帰りたい」と言ったことはあるが、それはあの日ではない。
 令息の屋敷に訪問する日に一度、体調を崩したことがある。
 そんな状態で婚約者を一人帰らせたとなれば、侯爵や伯爵から後に責められると考え保身の為に私を「送る」と言ったと今なら彼の行動の意味を理解できる。
 あまりの体調の悪さだったので馬車内で粗相をしてしまうと不安になり、そんな姿を他人に見せたくなかったので「一人で帰ります」と言った。
 それを記憶から引っ張り出したのか偶然かは分からないが、彼は窮地に追いやられると頭の回転が良いようだ。

「……そのようであれば、令息がご自身を責める事はありませんよ」 

「令嬢は変わらず、優しいのですね」

 優しい……それが誉め言葉ではないのを感じる。

「もう、そろそろ時間ですね」

 約束の時間が終わる。

「もう? 令嬢といると時間が過ぎるのがあっという間で、離れるのが辛いです……令嬢……」

 過去、彼からそんな言葉は一度も聞いたことがない。

「なんでしょう? 」

「もう少しだけ……いけませんか? 」

 作られた悲しげな表情を見ても不快になるだけ……

「申し訳ありません、沢山お話を聞いた為に記憶が混乱しております」

「……そうですよね。俺が焦り過ぎてしまいました。では、また今度」

 私に断られるとは思っていなかった様子。
 普段の彼は『訓練がある』と言って、私には延長を希望する言葉さえ奪っていたのに……

「はい、ごきげんよう」

 以前までは彼が馬車に乗るまで見送っていた。
 今は、応接室で終える。
 私の行動に「見送ってくれないのか? 」という表情を見せるも何も言わずに帰って行った。
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