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5 逃亡と答え合わせ

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 客室に戻ったフローラは、早速逃げ出す準備を始めた。森までの道のりは馬車で数日かかった気がするので、ちょっとした旅になるはずだ。正直、この妊娠中の身体で、そんな大移動が可能なのか不安だが、フローラはそれでも逃げることにした。

 フローラの荷物はほとんどない。レオから贈られたプレゼントは数えきれぬほど沢山あるが、どれも持っていく気にはなれなかった。

(何か持ち出して泥棒扱いされても嫌だし……)

 そんなことを言い出すような人じゃないのは分かっている。そして、プレゼント一つ一つを彼が真剣に選んでくれていたのも知っている。でも、ドレスもアクセサリーも、自分には不相応だ。フローラは黒のローブを羽織っているのがきっと一番お似合いなのだ。

(でも……お花、くらいなら……)

 プロポーズの朝にもらった花束は、美しい陶器の花瓶に生けられている。
 その中から一輪、黄色の大きな花を抜いた。迷わず取り出したその花は、どこか金色の瞳を思わせる、太陽のような花だ。

 レオの金色の瞳が大好きだった。
 金色のあたたかな瞳。そして、甘い笑顔。低い声。サラサラの銀髪。大きな手。温かい手。

 思い出すだけで、胸が苦しくなる。

 レオの呪いを解けてよかった。彼の命を守れてよかった。それだけで、充分だ。だからフローラは身を引くのだ。レオがこれ以上危険な目に合わないように。

「ふっ……うっ……」

 涙がとめどなく流れ、レオとの別れを一人惜しんだ。しかし、レオが私室に戻ってくる前に逃げなければと思い、こっそりと抜け出す。
 そこへどこからか黒猫が飛び出してきた。

『どこに行くんだ?』
「ああ! よかった! クロ様、会いたかった!」

 クロ様は気まぐれに宮殿にやってくるので、このまま会えないかと思っていた。
 
「クロ様、私、ここから逃げ出したいの! 手伝ってくださる?」
『何故だ? あの人間は、魔女を妃にすると公言していたぞ』
「無理よ」
『そうか?』
「魔女は嫌われ者だもの」
『魔物の方が嫌われているけど?』
「そうかしら。似たようなものよ」

 ニヤリと笑い合う。
 そして、フローラは逃亡計画について話した。ワガママだと分かっているが、やはり一人は心細い。クロ様が側に居てくれたら安心だ。

「それで、どこの門からこっそり外に出るつもり」
『王宮に隙間なんかないぞ』
「クロ様だっていつも忍び込んでるくせに!」
『俺は転移魔法が使えるからな』
「!」

 クロ様が『転移魔法』と言った瞬間、フローラの目が輝き、クロ様はしまったという顔になった。

「私を森に転移させて!」

 こうして、クロ様に渋々転移してもらい、フローラは無事森に戻ったのだった。
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