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三章 幸運の猫
45.八の月の連絡船-1
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ルルティアが目を覚ますとアミルの膝を枕にして寝かされていた。
一体化が解けて髪の色やウロコも元に戻っており、服もちゃんと着ていた。
アミルは上着を脱いだまま丸めて横に置いており、その理由について深く考えると恥ずかしくて仕方なくなるのでルルティアは頭をふって考えないようにした。
「帰るか」
舟の上からアミルが手を差し出すのでその手を取ってピョンと飛び乗ると、舟の揺れでよろけて抱きついてしまった。
上半身裸の身体に抱きついてしまって動けないで固まっていると、アミルがゆっくり身体を離してから舟に座らせてくれた。
マラマ島に戻るまで二人はずっと黙ったままだった。
月が黒い海をキラキラと照らしている。
(もうすぐ次の満月だ……)
ルルティアは胸を襲う予感に気付かないふりをした。
舟から降りる時にアミルはまたルルティアの手を取った。
地面に降りたルルティアが手を引っこめようとすると、アミルがその手をグッと握った。
「ルー。身体の調子は?」
「えっと、大丈夫……」
「そうか」
アミルはそう言って手を離すと、ルルティアの先に立って家の方に向かって歩き出した。
膨らみかけた月が背後からアミルを照らしていたので、アミルがどんな顔をしていたのかはわからなかった。
ルルティアは家までの道のりを歩きながら、アミルの裸の背中をじっと見つめていた。
*****
パウさまを海に還す儀式も無事終えてから、アミルはまたレナに話をしに家まで来てくれた。
アミルの話を聞いた後に、パウさまを偲んでみんなで色んな思い出話をした。
ルルティアがパウさまに怒られた失敗談を話しみんなで笑ってから、ヌイやレナがパウさまは自分たちにも厳しくも為になる話をたくさんしてくれたのだと語った。
アミルはそれらを聞いてうらやましそうにしていた。
「俺には小さな頃から一緒に過ごした知りあいなんていないからさ」
そう言ってアミルは少しさびしそうに微笑んだ。
アミルと顔を合わせても、あの日のことはどちらも話さない。
ルルティア自身はあの時自分の気持ちをはっきりと自覚したけれど、アミルの気持ちを確かめることができないでいた。
番だ、運命の相手だ、と言ったところでそこに気持ちがあるのかなんてわからない。
嫌われているとまでは思わないけれど、あの日の別れ際のアミルのそっけない態度からすると嫌がられてしまったのかもしれない。
いよいよ八の月の満月の日が近づいて、もうすぐ連絡船が来てしまう。
(うん、あんまり悩むのは自分らしくない)
ルルティアはお昼ごはんを持っていくのを口実に、アミルの宿を訪ねることにした。
「これ、上手にできたから一緒に食べようと思って持ってきたの」
「お、うまそう。ありがと、ルー」
いつも昼まで寝ているアミルを起こし、一緒にお昼を食べないかと誘う。
アミルの借りている部屋はベッドが一つあるだけの簡素な部屋だったので、海まで行って砂浜で並んで食べることにした。
「うん、うまい」
アミルが隣でルルティアの作ったものを美味しそうにほおばっている。
アミルは笑顔でお礼を言ってくれているけれど、ほんの少し、そう、ほんの拳ひとつ分くらい、今までよりも座る位置が遠くなっている気がした。
最近のアミルはルルティアに変なことを言ってからかってきたりもしない。
(避けられてるのかな……)
ルルティアは落ち込みそうになる気持ちを奮い立たせて思い切って尋ねてみた。
「アミルは次の連絡船でウトビアに帰ってしまうの?」
アミルの顔をまっすぐ見られなくて、膝の上に乗ってきたバズの背中をなでながらルルティアは下を向く。
アミルはしばらく黙って考え込んでいた。
「元々、そのつもりで来たんだよな。でも別に帰る家があるわけじゃないし、ずっと土地から土地に流れて生きてきたからな」
「次はどこに行くか決まっているの?」
「何も。ただ俺を狙っていたヤツがいるし、アレが蛇のヤツらの手下かもしれないと思うとこのままウトビアには戻るのも考えものだな」
「どこか別の国に行く?」
ルルティアはわずかに声を震わせながらバズをギュッと抱きしめる。
「そうするにしても一度ウトビアに渡らなくちゃならないんだよな」
どうしようかな、とアミルが考えこむ。
「……ずっとここにいたら?」
軽く何気ない調子で言うつもりだったけれど、思ったよりも深刻な声になってしまった。
アミルはルルティアの言葉を聞いて楽しそうに言った。
「ここで漁師でもやるか? それもいいかもな」
「そうしなよ! ずっとお店で歌ってたって良いし、アミルならきっと喜ばれるよ!」
ルルティアがパッと顔を上げると、アミルはその勢いに驚いたようで少し目を丸くした後に目を細めて笑った。
その後にフッと真剣な顔をすると遠い目をして海の向こうをにらんだ。
「でもその前にやらなきゃいけない事がある」
「? アミル……?」
アミルはルルティアの方に顔を向けると柔らかく微笑んだ。
ルルティアはその優しい顔にドキンと胸が高鳴る。
アミルはその手を伸ばすと、指先でルルティアの頬をゆっくりとなでた。
一体化が解けて髪の色やウロコも元に戻っており、服もちゃんと着ていた。
アミルは上着を脱いだまま丸めて横に置いており、その理由について深く考えると恥ずかしくて仕方なくなるのでルルティアは頭をふって考えないようにした。
「帰るか」
舟の上からアミルが手を差し出すのでその手を取ってピョンと飛び乗ると、舟の揺れでよろけて抱きついてしまった。
上半身裸の身体に抱きついてしまって動けないで固まっていると、アミルがゆっくり身体を離してから舟に座らせてくれた。
マラマ島に戻るまで二人はずっと黙ったままだった。
月が黒い海をキラキラと照らしている。
(もうすぐ次の満月だ……)
ルルティアは胸を襲う予感に気付かないふりをした。
舟から降りる時にアミルはまたルルティアの手を取った。
地面に降りたルルティアが手を引っこめようとすると、アミルがその手をグッと握った。
「ルー。身体の調子は?」
「えっと、大丈夫……」
「そうか」
アミルはそう言って手を離すと、ルルティアの先に立って家の方に向かって歩き出した。
膨らみかけた月が背後からアミルを照らしていたので、アミルがどんな顔をしていたのかはわからなかった。
ルルティアは家までの道のりを歩きながら、アミルの裸の背中をじっと見つめていた。
*****
パウさまを海に還す儀式も無事終えてから、アミルはまたレナに話をしに家まで来てくれた。
アミルの話を聞いた後に、パウさまを偲んでみんなで色んな思い出話をした。
ルルティアがパウさまに怒られた失敗談を話しみんなで笑ってから、ヌイやレナがパウさまは自分たちにも厳しくも為になる話をたくさんしてくれたのだと語った。
アミルはそれらを聞いてうらやましそうにしていた。
「俺には小さな頃から一緒に過ごした知りあいなんていないからさ」
そう言ってアミルは少しさびしそうに微笑んだ。
アミルと顔を合わせても、あの日のことはどちらも話さない。
ルルティア自身はあの時自分の気持ちをはっきりと自覚したけれど、アミルの気持ちを確かめることができないでいた。
番だ、運命の相手だ、と言ったところでそこに気持ちがあるのかなんてわからない。
嫌われているとまでは思わないけれど、あの日の別れ際のアミルのそっけない態度からすると嫌がられてしまったのかもしれない。
いよいよ八の月の満月の日が近づいて、もうすぐ連絡船が来てしまう。
(うん、あんまり悩むのは自分らしくない)
ルルティアはお昼ごはんを持っていくのを口実に、アミルの宿を訪ねることにした。
「これ、上手にできたから一緒に食べようと思って持ってきたの」
「お、うまそう。ありがと、ルー」
いつも昼まで寝ているアミルを起こし、一緒にお昼を食べないかと誘う。
アミルの借りている部屋はベッドが一つあるだけの簡素な部屋だったので、海まで行って砂浜で並んで食べることにした。
「うん、うまい」
アミルが隣でルルティアの作ったものを美味しそうにほおばっている。
アミルは笑顔でお礼を言ってくれているけれど、ほんの少し、そう、ほんの拳ひとつ分くらい、今までよりも座る位置が遠くなっている気がした。
最近のアミルはルルティアに変なことを言ってからかってきたりもしない。
(避けられてるのかな……)
ルルティアは落ち込みそうになる気持ちを奮い立たせて思い切って尋ねてみた。
「アミルは次の連絡船でウトビアに帰ってしまうの?」
アミルの顔をまっすぐ見られなくて、膝の上に乗ってきたバズの背中をなでながらルルティアは下を向く。
アミルはしばらく黙って考え込んでいた。
「元々、そのつもりで来たんだよな。でも別に帰る家があるわけじゃないし、ずっと土地から土地に流れて生きてきたからな」
「次はどこに行くか決まっているの?」
「何も。ただ俺を狙っていたヤツがいるし、アレが蛇のヤツらの手下かもしれないと思うとこのままウトビアには戻るのも考えものだな」
「どこか別の国に行く?」
ルルティアはわずかに声を震わせながらバズをギュッと抱きしめる。
「そうするにしても一度ウトビアに渡らなくちゃならないんだよな」
どうしようかな、とアミルが考えこむ。
「……ずっとここにいたら?」
軽く何気ない調子で言うつもりだったけれど、思ったよりも深刻な声になってしまった。
アミルはルルティアの言葉を聞いて楽しそうに言った。
「ここで漁師でもやるか? それもいいかもな」
「そうしなよ! ずっとお店で歌ってたって良いし、アミルならきっと喜ばれるよ!」
ルルティアがパッと顔を上げると、アミルはその勢いに驚いたようで少し目を丸くした後に目を細めて笑った。
その後にフッと真剣な顔をすると遠い目をして海の向こうをにらんだ。
「でもその前にやらなきゃいけない事がある」
「? アミル……?」
アミルはルルティアの方に顔を向けると柔らかく微笑んだ。
ルルティアはその優しい顔にドキンと胸が高鳴る。
アミルはその手を伸ばすと、指先でルルティアの頬をゆっくりとなでた。
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