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六章 愛の歌
89.新たな巫女-2
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ルルティアのお腹に新しい命が宿った時、その子が新しい魚の精霊の愛し子、アクアさまの巫女だとすぐにわかった。
アクアさまはルルティアのお腹の周りに愛おしげにすりより、また溶けるように潜り込んでは共に眠り、産まれてくる瞬間を今か今かと待っているようだった。
産婆から預けられた腕の中の小さな我が子の身体をアミルが慎重に確かめる。
アミルの指先が腰のあたりで止まり、そこにウロコがあるのを見つけた。
「あった! ん? でもこれは……黒い、ウロコ?」
「あ、ねぇ、アクアさまが黒くなってる。こんなこと初めて」
ルルティアを癒し終えたアクアさまの光がおさまると、明るい青色をしていたアクアさまの身体が暗い夜の海のように深く濃い青色に変わっていた。
赤ん坊の上をふよふよと泳いでいたアクアさまは、アミルの方まで近づくとヒレを使ってするりとその頬をなでた。
それはなんだかとても懐かしい感覚だった。
「……バズ?」
アクアさまはもう一度アミルの頰をするりとなでると、赤ん坊の上に戻ってその身体の中にふっと溶けて消えた。
「あ、ルー! アクアさまが!!」
「ふふ、アミル、大丈夫。アクアさまはこの子が大きくなるまでこの子の中でしばらく眠るの。私の時もそうだった。バズもそうじゃなかった?」
そういえばアミルがバズと初めて会ったのは五歳の時だった。
「この子がもう少し大きくなったらまた会えるよ。いっぱい精霊のことを教えてあげようね」
「あぁ。あぁ、そうだな。色んなことを教えてあげよう」
夢中になって話していると産後の処置がまだあるからと赤ん坊を取り上げられ、アミルは病室から追い出されてしまった。
外にはウラウとヌイの他に、いつの間にかかけつけていたアリイとレナも居て口々に祝いの言葉をかける。
「アミルも姉さまもおめでとう!」
「ありがとう、レナ」
「しっかりするんだぞ」
「アリイさま、はい」
アリイに肩を勢いよくバシンと叩かれ、痛い、と笑ったアミルの声は少し震えていた。
姉ナビーラを喪った時、アミルは自分がこの世界で一人きりになってしまったのだと思った。
それなのに、いつの間にか周りにはこんなに自分を思ってくれる人がいる。
アミルはルルティアに与えられた幸せをかみしめていた。
*****
次の日アミルが病院に向かう途中、ルルティアの出産を知った人々から祝いの品が次々と渡された。
アミルが病室に着く頃にはルルティアの大好きな花や食べ物を腕いっぱいに抱える羽目になっていた。
そんなアミルの姿を見てルルティアがベッドの上からあきれた声で言い放つ。
「こんなにたくさんどうするの?」
「ん、俺が持って帰るよ」
「もう」
アミルはもらった物を一箇所にまとめて置くと、ルルティアの側に座りふんわりと抱きしめた。
「ありがとう、ルルティア。お疲れさま」
「うん」
すると傍の小さなベッドの中から、ふぇぇ、ふぇぇ、と元気な泣き声が聞こえてきた。
「ね、抱いてあげて」
「え?」
俺が? とアミルが目で尋ねると、ルルティアが小さくうなずく。
アミルはまだふにゃふにゃの我が子をそっと抱きあげた。
「柔らかい。なぁ、ルー、ルー、どうすれば良い?」
戸惑うアミルにルルティアが笑いながら抱き方を教える。
ルルティアの指示通りに赤ん坊をしっかりと抱きなおすと、アミルは小さな声で子守唄を口ずさんだ。
「ルーと同じ顔をしている」
「あら、どんな?」
「俺の歌が好きって顔」
「ふふ、それはきっとあなたのことが大好きって顔よ」
赤ん坊は、くわぁ、と声にならないあくびをして眠ってしまった。
その様子が少しバズに似ていてアミルはくすりと笑った。
「寝ちゃった」
腕の中の我が子を見下ろすアミルの目が少し潤んで見えて、ルルティアはアミルの目尻に浮かぶ涙に優しくキスを落とした。
「待って、ルー。いま動けないんだからそういうのはやめてくれ」
アミルが本気で戸惑っているのを見て、ルルティアは目を丸くしてから笑い出した。
ルルティアの笑い声が響き、その笑い声に驚いて目を覚ました赤ん坊がアミルの腕の中でふにゃあと泣き声をあげた。
「ほら、ルーが大きな声を出すから起きちゃったじゃないか!」
「ふふ、ごめんね」
アミルが困った声をあげると、赤ん坊の泣き声とルルティアの笑い声が重なった。
よく晴れたアイラナの穏やかな昼下がり、部屋の中にはいつまでもにぎやかな声が広がっていた。
アクアさまはルルティアのお腹の周りに愛おしげにすりより、また溶けるように潜り込んでは共に眠り、産まれてくる瞬間を今か今かと待っているようだった。
産婆から預けられた腕の中の小さな我が子の身体をアミルが慎重に確かめる。
アミルの指先が腰のあたりで止まり、そこにウロコがあるのを見つけた。
「あった! ん? でもこれは……黒い、ウロコ?」
「あ、ねぇ、アクアさまが黒くなってる。こんなこと初めて」
ルルティアを癒し終えたアクアさまの光がおさまると、明るい青色をしていたアクアさまの身体が暗い夜の海のように深く濃い青色に変わっていた。
赤ん坊の上をふよふよと泳いでいたアクアさまは、アミルの方まで近づくとヒレを使ってするりとその頬をなでた。
それはなんだかとても懐かしい感覚だった。
「……バズ?」
アクアさまはもう一度アミルの頰をするりとなでると、赤ん坊の上に戻ってその身体の中にふっと溶けて消えた。
「あ、ルー! アクアさまが!!」
「ふふ、アミル、大丈夫。アクアさまはこの子が大きくなるまでこの子の中でしばらく眠るの。私の時もそうだった。バズもそうじゃなかった?」
そういえばアミルがバズと初めて会ったのは五歳の時だった。
「この子がもう少し大きくなったらまた会えるよ。いっぱい精霊のことを教えてあげようね」
「あぁ。あぁ、そうだな。色んなことを教えてあげよう」
夢中になって話していると産後の処置がまだあるからと赤ん坊を取り上げられ、アミルは病室から追い出されてしまった。
外にはウラウとヌイの他に、いつの間にかかけつけていたアリイとレナも居て口々に祝いの言葉をかける。
「アミルも姉さまもおめでとう!」
「ありがとう、レナ」
「しっかりするんだぞ」
「アリイさま、はい」
アリイに肩を勢いよくバシンと叩かれ、痛い、と笑ったアミルの声は少し震えていた。
姉ナビーラを喪った時、アミルは自分がこの世界で一人きりになってしまったのだと思った。
それなのに、いつの間にか周りにはこんなに自分を思ってくれる人がいる。
アミルはルルティアに与えられた幸せをかみしめていた。
*****
次の日アミルが病院に向かう途中、ルルティアの出産を知った人々から祝いの品が次々と渡された。
アミルが病室に着く頃にはルルティアの大好きな花や食べ物を腕いっぱいに抱える羽目になっていた。
そんなアミルの姿を見てルルティアがベッドの上からあきれた声で言い放つ。
「こんなにたくさんどうするの?」
「ん、俺が持って帰るよ」
「もう」
アミルはもらった物を一箇所にまとめて置くと、ルルティアの側に座りふんわりと抱きしめた。
「ありがとう、ルルティア。お疲れさま」
「うん」
すると傍の小さなベッドの中から、ふぇぇ、ふぇぇ、と元気な泣き声が聞こえてきた。
「ね、抱いてあげて」
「え?」
俺が? とアミルが目で尋ねると、ルルティアが小さくうなずく。
アミルはまだふにゃふにゃの我が子をそっと抱きあげた。
「柔らかい。なぁ、ルー、ルー、どうすれば良い?」
戸惑うアミルにルルティアが笑いながら抱き方を教える。
ルルティアの指示通りに赤ん坊をしっかりと抱きなおすと、アミルは小さな声で子守唄を口ずさんだ。
「ルーと同じ顔をしている」
「あら、どんな?」
「俺の歌が好きって顔」
「ふふ、それはきっとあなたのことが大好きって顔よ」
赤ん坊は、くわぁ、と声にならないあくびをして眠ってしまった。
その様子が少しバズに似ていてアミルはくすりと笑った。
「寝ちゃった」
腕の中の我が子を見下ろすアミルの目が少し潤んで見えて、ルルティアはアミルの目尻に浮かぶ涙に優しくキスを落とした。
「待って、ルー。いま動けないんだからそういうのはやめてくれ」
アミルが本気で戸惑っているのを見て、ルルティアは目を丸くしてから笑い出した。
ルルティアの笑い声が響き、その笑い声に驚いて目を覚ました赤ん坊がアミルの腕の中でふにゃあと泣き声をあげた。
「ほら、ルーが大きな声を出すから起きちゃったじゃないか!」
「ふふ、ごめんね」
アミルが困った声をあげると、赤ん坊の泣き声とルルティアの笑い声が重なった。
よく晴れたアイラナの穏やかな昼下がり、部屋の中にはいつまでもにぎやかな声が広がっていた。
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