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一章 できそこないの魔女と俺様令息
6.白い魔女と黒い魔女-1
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ソフィアの日課は、黒の礼拝堂で朝晩の礼拝と掃除を行うことであった。
そして数日おきにルーパスに呼び出されその身に呪いを移し、余った時間は聖官から課せられた仕事にあてる。
休みらしい休みもなく、ただひとりで過ごす。
そんな生活をソフィアはもう十年以上も続けていた。
「さて、と」
今日も朝の礼拝を終えてから、黒の礼拝堂の掃除を始める。
国の公式行事が行われる白の礼拝堂と違い、黒の礼拝堂はソフィアの日々の礼拝とルーパスが訪れる時にしか使われない。
そのため誰にも気にかけられることがなく、黒の礼拝堂の手入れはほとんどソフィアひとりの役目だった。
(みなに忘れられているなんてまるで私みたい)
バン! と上から大きい音がして天井を見上げると、風が強く吹いてはめ込みのステンドグラスの窓がガタガタと音を立てる。
「風が」
ステンドグラスが外れて落ちてしまう前に、聖官に修理の依頼をしなければならない。
広い礼拝堂の世話はひとりでは手が回らないところも多く、黒の礼拝堂はその所々が朽ちていた。
人々に忘れられひっそりと朽ちていく黒の礼拝堂の様子は、陰嫁となって誰からも忘れられてしまうソフィアの未来の姿に重なって見える。
せめて少しでも綺麗になるよう、心を込めて掃除をすることしかできなかった。
掃除を終え黒の礼拝堂を出ると、扉の取手の部分に細い金の紐が結んであるのに気づく。
「あ……」
ソフィアはそれを素早く解いて服の中に隠した。
それはメモリアと決めた魔女についての勉強会の合図だった。
資料室に行けない時は紐を結んだままそこに残すよう言われている。
(誰かと会う約束をするなんて初めて……)
昼食を手短にすませ、誰にも見つからないように小走りで古い資料室に向かう。
いつものように気づかれることなく、資料室まで到着できてホッと息を吐いた。
人から気づかれにくくて良かったと思うことなど初めてだ。
資料室の扉を開けると、中にはメモリアが一人で待っていた。
「メモリアさん、お待たせしました」
「いえ、問題ありません」
メモリアは資料室の奥の机へとソフィアを案内する。
メモリアが自分を忘れていなかったことにひそかに安堵しながらあとをついていく。
(今日はレオルド様はいないのね)
こっそり周りを見回したが、どうやらレオルドはいないようだ。
あの赤い目で見つめられるとそわそわと落ち着かない気持ちになるので、少しだけいないことに安堵してしまう。
しかし、この表情の変わらない美しい人形のようなメモリアとふたりきりで過ごすのも、少しばかり息が詰まりそうだ。
(これではレオルド様にいて欲しいのかいて欲しくないのか、よくわからないわね)
自分の気持ちもよくわからないまま、案内に従って資料室の奥に置かれた机の前に座った。
机の上には先日レオルドが本棚から取り出した古ぼけた本が置かれている。
「白の礼拝堂に仕える聖女は祝福を与え、黒の礼拝堂に仕える魔女は呪いを与える。世の中ではそのように言われています」
「はい」
「今は黒の礼拝堂に仕える魔女はソフィア様おひとりですね」
聖女も魔女も昔はもっと多かったらしいが、数の多い聖女でさえ今は三十人もいないはずだ。
年かさの聖女はもう祝福の祈祷を行わないので、祝福の祈祷を行う聖女となるともっと少ない。
「ソフィア様は聖女と魔女についてどれくらいご存知ですか?」
「学園で習ったことくらいしか……。かつてアロガンシア王国が攻め入られた時に聖女と魔女が王家と協力して敵を退け、その功を讃えて礼拝堂を建てた、と」
それはアロガンシア王国の物語としてだれもが最初に習うことだった。
しかしソフィアは、それ以上のことについて特に教えられたことはない。
「なるほど。では最初からお話しましょう。古来、魔女と聖女は同じものでした」
「え!」
「元々、聖女というものはおらず、その力によって白い魔女や黒い魔女と呼ばれていたそうです。今日はそのことをお話します」
メモリアが低い落ち着いた声で話し始め、少しハスキーなその声はソフィアの耳に心地よく響いた。
そして数日おきにルーパスに呼び出されその身に呪いを移し、余った時間は聖官から課せられた仕事にあてる。
休みらしい休みもなく、ただひとりで過ごす。
そんな生活をソフィアはもう十年以上も続けていた。
「さて、と」
今日も朝の礼拝を終えてから、黒の礼拝堂の掃除を始める。
国の公式行事が行われる白の礼拝堂と違い、黒の礼拝堂はソフィアの日々の礼拝とルーパスが訪れる時にしか使われない。
そのため誰にも気にかけられることがなく、黒の礼拝堂の手入れはほとんどソフィアひとりの役目だった。
(みなに忘れられているなんてまるで私みたい)
バン! と上から大きい音がして天井を見上げると、風が強く吹いてはめ込みのステンドグラスの窓がガタガタと音を立てる。
「風が」
ステンドグラスが外れて落ちてしまう前に、聖官に修理の依頼をしなければならない。
広い礼拝堂の世話はひとりでは手が回らないところも多く、黒の礼拝堂はその所々が朽ちていた。
人々に忘れられひっそりと朽ちていく黒の礼拝堂の様子は、陰嫁となって誰からも忘れられてしまうソフィアの未来の姿に重なって見える。
せめて少しでも綺麗になるよう、心を込めて掃除をすることしかできなかった。
掃除を終え黒の礼拝堂を出ると、扉の取手の部分に細い金の紐が結んであるのに気づく。
「あ……」
ソフィアはそれを素早く解いて服の中に隠した。
それはメモリアと決めた魔女についての勉強会の合図だった。
資料室に行けない時は紐を結んだままそこに残すよう言われている。
(誰かと会う約束をするなんて初めて……)
昼食を手短にすませ、誰にも見つからないように小走りで古い資料室に向かう。
いつものように気づかれることなく、資料室まで到着できてホッと息を吐いた。
人から気づかれにくくて良かったと思うことなど初めてだ。
資料室の扉を開けると、中にはメモリアが一人で待っていた。
「メモリアさん、お待たせしました」
「いえ、問題ありません」
メモリアは資料室の奥の机へとソフィアを案内する。
メモリアが自分を忘れていなかったことにひそかに安堵しながらあとをついていく。
(今日はレオルド様はいないのね)
こっそり周りを見回したが、どうやらレオルドはいないようだ。
あの赤い目で見つめられるとそわそわと落ち着かない気持ちになるので、少しだけいないことに安堵してしまう。
しかし、この表情の変わらない美しい人形のようなメモリアとふたりきりで過ごすのも、少しばかり息が詰まりそうだ。
(これではレオルド様にいて欲しいのかいて欲しくないのか、よくわからないわね)
自分の気持ちもよくわからないまま、案内に従って資料室の奥に置かれた机の前に座った。
机の上には先日レオルドが本棚から取り出した古ぼけた本が置かれている。
「白の礼拝堂に仕える聖女は祝福を与え、黒の礼拝堂に仕える魔女は呪いを与える。世の中ではそのように言われています」
「はい」
「今は黒の礼拝堂に仕える魔女はソフィア様おひとりですね」
聖女も魔女も昔はもっと多かったらしいが、数の多い聖女でさえ今は三十人もいないはずだ。
年かさの聖女はもう祝福の祈祷を行わないので、祝福の祈祷を行う聖女となるともっと少ない。
「ソフィア様は聖女と魔女についてどれくらいご存知ですか?」
「学園で習ったことくらいしか……。かつてアロガンシア王国が攻め入られた時に聖女と魔女が王家と協力して敵を退け、その功を讃えて礼拝堂を建てた、と」
それはアロガンシア王国の物語としてだれもが最初に習うことだった。
しかしソフィアは、それ以上のことについて特に教えられたことはない。
「なるほど。では最初からお話しましょう。古来、魔女と聖女は同じものでした」
「え!」
「元々、聖女というものはおらず、その力によって白い魔女や黒い魔女と呼ばれていたそうです。今日はそのことをお話します」
メモリアが低い落ち着いた声で話し始め、少しハスキーなその声はソフィアの耳に心地よく響いた。
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