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Chapter-03『BLACK EXECUTER』

第十五章:BLACK ACTION

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 第十五章:BLACK ACTION


 漆黒の装甲を、真っ赤な眼を。三本の鋭いブレードアンテナを煌めかせながら、悠々と歩いてくる鋼鉄の重騎士――――ヴァルキュリア・システム。
 その姿を目の当たりにして、事情を知らぬ遥とアンジェの二人はただただ困惑していただけだったが。しかしこの場でただ一人だけ、何もかもを心得ているセラだけは、Vシステムの姿を目の当たりにした途端……眼を見開いて驚いていた。
「有紀……いきなり実戦なんて、正気なの!?」
 記憶が確かなら、アレはロクにテストもしていなかったはずだ。
 まさにぶっつけ本番も良いところ。流石に相手が超優秀な天才科学者・篠宮有紀とあれど……今度ばかりは、セラは有紀の正気を疑わざるを得なかった。
「シューッ……」
 そうしている内にも、新たに現れた彼を……謎の存在、Vシステムを脅威と認識したグラスホッパー・バンディットは残ったコフィン全員に指示を出し、すぐさまVシステムへと総攻撃を仕掛けさせる。
 バッと扇状の陣形を取るコフィンたちが、各々が構えた自動ライフルをVシステム目掛けて撃ち始める。
 だが――――――。
「…………」
 幾ら撃たれたところで、Vシステムの漆黒の装甲には掠り傷ひとつ付くことはなく。ともすれば一斉射撃を仕掛けたコフィンたちは、怪人にあるまじき露骨な狼狽っぷりを見せていた。
「――――!!」
 そうして射撃部隊が動揺する中、別のコフィンの一団がナイフ片手にVシステムへと飛びかかっていくが。
『戒斗くん、右だ』
「了解」
 その刃が装甲に触れる前に、身体ごと振り向いた彼が構えたガトリング機関砲……MV‐300E2レッドアイ大型機関砲が火を噴き。高速回転する砲身から放たれた二〇×一〇二ミリのバルカン砲弾、対バンディット戦特化の徹甲焼夷弾にコフィンたちは身体を引き裂かれ、そのまま薙ぎ払われてしまった。
『MV‐300、残弾ゼロッス』
『コンバット・オペレーションも問題なく動作中。実に順調だね。戒斗くん、そのまま残りのコフィンとバッタ野郎も始末してしまえ』
「……言われなくても」
 戒斗は有紀の通信に頷きつつ、弾の切れたレッドアイを雑に投げ捨て。すると左太腿の側面にあるハードポイント、そこに吊っていた大きな自動拳銃を左手で抜いた。
 ――――HV‐250スティレット自動拳銃。
 Vシステムの基本装備となる拳銃だ。対バンディット戦に特化した独自規格の九ミリ弾を使うこの拳銃、見た目は頼りないが……しかし拳銃としては破壊的なまでの威力を有している。さっきまで使っていたレッドアイほどではないにしろ、十分にバンディットにも対抗出来るだけのポテンシャルを秘めた強力な装備だ。
 戒斗は左手で銃把を握り締めたそれを抜くと、片腕で構えたスティレットの狙いを定め、歩きながら残りのコフィンたち目掛けて撃ちまくる。
『HV‐250、残弾ゼロ。マグチェンジしてくださいッス』
「分かっている」
 続けざまの連射で、自分の周りに扇状に展開していたライフル持ちのコフィンたちを五体纏めて撃破。そうした頃に弾が切れるから、空弾倉を足元に落とし……右太腿に装備していた予備弾倉を右手で掴み取り、それを銃把の底から叩き込む。
 スライドストップを解除し、後退しきったままホールド・オープンの格好を晒していた拳銃のスライドを再度前進させ、再装填。そのまま戒斗はまた片腕で拳銃を構えると、更にそのまま撃ちまくり……六体のコフィンを一気に撃破してみせた。
『チェック・シックス、後方より三体接近』
「……!!」
 そうして戒斗がライフル持ちのコフィンたちを蹂躙していると、背後からナイフを構えて三体のコフィンが接近してくる。
 戒斗は有紀が警告するよりも早くその気配に気付くと、振り向きざまの連射で二体を撃破してみせた。
 だが――――ラスト一体は間合いが近すぎて、拳銃じゃ間に合わない。
『戒斗さん!』
「……問題ない」
 南の案じる声が通信越しに響く中、戒斗はあくまで冷静に頷き返しつつ。拳銃を一旦左太腿のハードポイントに戻すと、そのまま素手で……徒手格闘での対処を開始する。
「フッ……!」
 コフィンが繰り出してくるナイフでの刺突を、小さく身を捩ることで避け。そのままコフィンの右手首を掴み、関節を極めつつナイフをコフィンの手から弾き飛ばす。
 これで奴は武器を失った。さあ、どう出てくる……!!
「――――!!」
 ナイフを失ったコフィンは、そのまま戒斗に対して殴打での徒手格闘を挑んできた。
「トゥアッ!!」
 だが戒斗はコフィンの格闘に冷静に対処し、ひとつひとつを丁寧に受け流し。隙を見てコフィンの腹にキツいアッパーカットを見舞えば、苦悶の声を漏らしながら後ろへたたらを踏むコフィンに対し……そのまま、トドメと言わんばかりに側頭部へと回し蹴りを喰らわせた。
 強化された脚から繰り出される回し蹴りの威力は、常人の比ではない。
 その蹴りを側頭部へとモロに喰らったコフィンは、ヘルメットを叩き割られながら……錐もみっぽく吹っ飛んでいく。
 吹っ飛んだコフィンはそのまま地面を何度か撥ねれば、そのまま爆発四散してしまった。
「凄い……」
「アレだけの数を、一瞬で倒しちゃった……」
「…………ヴァルキュリア・システム。話には聞いていたけれど……想像以上ね」
 遥とアンジェ、そしてセラ。神姫たち三人は呆然とした顔で戦部戒斗の、ヴァルキュリア・システムの圧倒的な戦いぶりを見守っていた。
『コフィン・タイプ、残敵ゼロッス』
『残るはバッタ野郎だけだ。さあ、やってしまえ』
「……了解」
 そうして彼女たちがうわ言のように呟いている間にも、アレだけ居たコフィン・バンディットは全て戒斗の手で殲滅されていて。残るは大物、バッタ怪人のグラスホッパー・バンディットだけになっていた。
「皆、此処は俺に任せて下がっていろ」
 ラスト一匹になったグラスホッパーに対し、神姫たちはそれぞれ構えを取るが。しかし彼女たちの前に出た戒斗はバッと腕を出し、彼女たちを制する。
「……!!」
「今の声……まさか戒斗、本当にアンタだったの……!?」
「カイト、ひょっとしてカイトなの!?」
 すると、そう呼び掛けてからやっと三人は目の前に立つ漆黒の重騎士、Vシステムの中身が戒斗だと気が付いたようで。遥はクッと眼を見開き無言のまま驚き、セラは困惑気味に。そしてアンジェは泣きそうな声でそう、彼の背中に呼び掛ける。
 戒斗は背にしたアンジェの方に小さく振り向きながら「ああ」とヘルメットに覆われた顔で頷き返し。そして彼女にこう言う。
「待たせて悪かったな。――――もう大丈夫だ、後は俺に任せろ」
「っ……!?」
 戒斗に言われた瞬間、アンジェには重なって見えていた。今こうして彼が見せている、漆黒の鎧に包まれた彼の背中と……そして遠い昔、自分を守ってくれた彼の――――幼かった彼の、とても頼もしかった背中が。アンジェリーヌ・リュミエールにとって、たった一人の大切なヒーローの背中が。
「凄い、凄いよカイト……! 子供の頃に見た君みたい……ううん、それ以上だよ! よおしっ、やっちゃえっ、カイトぉーっ!!」
 昔の彼と、今の彼。二つの背中が一つに重なれば、アンジェはいつの間にか彼に向かって叫んでいた。涙ぐんだ顔で、涙を溜めたアイオライトの瞳で彼を見つめながら。アンジェは心からの声援を、彼に……戦部戒斗に叫んでいた。
「――――かかってこい、俺が相手だ」
 アンジェの声援を聞きながら、戒斗はゆっくりとグラスホッパーに歩み寄り。そうすれば立ち止まって、クイックイッと手招きをして挑発なんかしてみせる。
「シューッ…………!!」
 すると、グラスホッパーは乗ってやると云わんばかりに異形の顔で不敵に笑むと、バンッと音がするぐらいの強烈な脚力で地を蹴って飛び上がり。そのまま空中で身を捩れば、戒斗に向かって鋭い飛び蹴りを繰り出してくる。
「ッ!!」
 それに対し戒斗は逃げも隠れもしないまま、仁王立ちしたまま。バッと顔の前でクロスした両腕で見事に受け止めてみせた。
 クロスした腕とグラスホッパーの足が触れた瞬間、その衝撃は凄まじく。戒斗の足元ではアスファルトの地面がバンッと割れて地割れが起き、そのまま両足が地面に軽く沈み込んでしまう。
 それぐらいの凄まじい衝撃を、彼は真っ正面からモロに喰らっていた。
 だが――――戦部戒斗は、Vシステムは無傷だった。
『システム、損耗率一パーセント。チェック……オールグリーン。オペレーション継続可能ッス』
『ははは! 流石は私が心血を注いだ最強の戦士だ! そのままやってしまえ、戒斗くん!!』
「了解した。アンジェを怖い目に遭わせたツケ、キッチリと払わせる…………!!」
 戒斗は通信越しの有紀に頷き返すと、そのままクロスした腕を振るってグラスホッパーを振り払う。
「シューッ……!?」
 くるりと空中で器用に身を捩って着地したグラスホッパーは、明らかに狼狽した様子だった。
 グラスホッパーの側からしたら、戒斗の乱入はイレギュラーも良いところだったのだろう。しかも相手は神姫ではなく、普通の人間だ。それに圧倒されているとあっては……仮にもバンディットであるグラスホッパーが狼狽するのも仕方のない話だった。
 だが、手加減してやる道理はない。戒斗は無手のまま構えを取ると、グラスホッパーに正対し。そのまま互いにジリジリと間合いを計り合う。
「シューッ!!」
「トゥアッ!!」
 睨み合ったのは、一瞬。
 その一瞬が過ぎれば、互いに踏み込んで徒手格闘戦へと移行する。
 グラスホッパーの正拳突きを振り払い、横薙ぎの殴打を仕掛け。逆にそれが払われると、今度はグラスホッパーの方が鋭い手刀を繰り出してくる。戒斗は敢えてそれを装甲で受け、グラスホッパーの顔面に強烈なストレートを喰らわせる。
 するとグラスホッパーは小さく後ろにたたらを踏むが、ピンチをチャンスに変えろと言わんばかりにリカバリー。くるりと身体を大きく回し、グラスホッパーは自慢の脚で強烈な回し蹴りを繰り出してきた。
「トゥアッ!!」
 戒斗はそれを右腕の甲で受け止め、そのままグラスホッパーの足首を掴むと……まるでハンマーを扱うかのようにグラスホッパーの身体を振るい、片腕でバンッと地面に叩き付けてしまう。
「――――――!?」
 地面に背中を叩き付けられたグラスホッパーは、その衝撃と……あまりに予想外な反撃に戸惑い、喘ぐ。
「まだだ……!!」
 戒斗は叩き付けたグラスホッパーに対し更に追い打ちを仕掛けようとしたが、流石にこれは許されず。ジャックナイフの要領でグラスホッパーは脚力をフルに使って飛び起きると、また戒斗との格闘戦を継続する。
(今だ――――!!)
 そうしてお互い五分五分の戦いを繰り広げる中、戒斗はグラスホッパーに一瞬の隙を……懐に潜り込める一瞬の隙を見出し、すぐさまバッタ怪人の懐へと飛び込む。
「喰らえ!!」
 懐に飛び込んだ戒斗は一瞬の内に左太腿のスティレットを抜くと、グラスホッパーの腹目掛けて残った九ミリ弾を全弾ブチ込んでやる。
「シューッ!?」
 すると、グラスホッパーは腹から激しく火花を散らしながら大きく後ずさって怯む。
 そうして怯ませると、戒斗は弾切れの拳銃を投げ捨て。代わりに左腰の鞘から大きなコンバット・ナイフを逆手持ちで抜刀した。
 ――――KVX‐2コンバット・ナイフ。
 1060炭素鋼を主材とした刀身に、刃先には強靱なタングステンカーバイド。グリップ内部には高周波振動ユニットも仕込まれている、謂わばヴァイブロ・ブレード……別の言い方をすれば高周波ブレード。
 ブゥゥゥン、と不気味な唸り声を上げるその刃は、鋼鉄をも容易く斬り裂く絶大な切れ味を有している。例え相手がバンディットであろうと……何が相手だろうと、この刃は斬り裂いてみせる。
「さあ、来い……!!」
 戒斗はそんなナイフを左手で逆手持ちに構え、体勢を立て直したグラスホッパーと正対した。
「シューッ!!」
 幾つもの手傷を負わされたグラスホッパーは激昂し、鋭い蹴りを戒斗目掛けて放つが……。
「トゥアッ!!」
 それに怯まぬまま、戒斗は合気道の要領でサッとグラスホッパーを受け流すと。そのままバッタ怪人の身体を大きく宙に舞わせ、バンッと背中を地面に叩き付けてやる。
「これで――――チェック・メイトだ!!」
 倒れたグラスホッパーの胸を膝で押さえつつ、戒斗は草色の首元に左手のナイフを深々と突き刺し……そのままグッと捻る。
 そうして戒斗はナイフを抜きざまにバッと振り向いて立ち上がると、そのままグラスホッパーに背を向けて歩き出す。
「シュゥゥゥゥゥゥ――――――ッ!?」
 そんな彼の背中の向こうで……大爆発が巻き起こり。木霊する断末魔の絶叫とともに、グラスホッパー・バンディットがド派手な爆死を遂げていた。
『全敵性目標の撃滅を確認。コンバット・オペレーション終了。……すっげー! 大戦果じゃないッスか、戒斗さーん!!』
『フッ……よくやってくれた、戒斗くん。任務完了、帰還してくれ』
「了解。コンバット・オペレーション、コンプリート」
 大爆発にも振り向かぬまま、陽炎揺れる中をゆっくりと歩きつつ。戒斗は有紀たちの通信へ静かに呟き返す。
「……Vシステム、か。有紀ったら、とんでもない物を作ってくれたわね…………」
「…………凄い、これが本当に」
「やったぁーっ! やったね、カイトぉーっ!!」
 そんなVシステムの圧倒的な戦いぶりを目の当たりにして唖然とするセラと、ジッと彼の姿を見つめる遥。
 二人をよそに、アンジェは戒斗の元に駆け寄っていて。勢いのままに胸に飛び込んで来るアンジェを抱き留めつつ、胸部装甲に頬ずりしてくる彼女を強く抱き締め返しつつ……戒斗はヘルメットの中で小さくひとりごちていた。
「これが、俺の手にした力――――ヴァルキュリア・システム」




(第十五章『BLACK ACTION』了)
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