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第三章
知らなくていいこと
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金曜日の夜。
星空はバイトを早めに切り上げて、&barの前に立っていた。
けれど、扉を開けることはできなかった。
理由は、たまたま通りがかった道の向こう側で、蓮志知らない男と並んで歩いているのを見てしまったからだ。
その男性に寄り添い媚びるような姿。
あんな蓮志を見たことがなかった。
自分には見せない顔をあの男には見せている……。
とても苦しかった。
それは星空が知っている蓮志ではなかった。
それを見て、あとを追ってはいけないと思いながらも、足が勝手に動いていた。
ホテル街の路地裏。
男が先に建物に入ると、蓮志は一瞬、振り返るそぶりを見せたが、その男に手を引かれ、中に入って行った。
星空は、その背中に声をかけることができず、ただ立ち尽くした。
それは星のない夜だった。
数日後、&barを訪れると、蓮志は変わらない笑顔で出迎えた。
「いらっしゃい。奥の席どうぞ」
いつもと変わらない蓮志の態度に、胸が痛んだ。
蓮志が目の前にいるのに、どこか遠くに感じた。
何も知らなかった頃に戻れたらと思った。
「あの……蓮志さんが、この前男性とホテルに行ってましたよね?あの人は誰なんですか?」
蓮志の動きが一瞬止まった。けれどすぐいつもの笑顔に戻った。
「そうなんだ、あれはただの仕事だよ。君には関係ないよ」
少しは彼のことを知っていると思っていたのに、急に寂しくなった。
手の届かないところに居るのかもしれない……。
「関係ないわけないです。俺は蓮志さんのことが……」
言葉が出てこなかった。やっぱり深入りするべきではなかったのかもしれない。
でも、急に突き放された気持ちで、とても悲しかった。胸が締め付けられるようだった。
「言い方悪かったよね。でも、人には知らないほうがいいこともあるんだよ。君には僕のことを知って、傷ついてほしくないんだ」
「……俺はそれでも蓮志さんのこと、知りたいです。それはダメなことですか」
蓮志は、星空のグラスにそっと新しいカクテルを注いだ。
その指が、ほんの少し震えていた。
「知ってどうするの?君にはきっと知らないほうがいいことだと思うよ」
「それでも、知りたいです。俺、もう逃げたくないんです。誰かのことを大事に思うってそういうことじゃないんですか……?」
しばらくの沈黙の後、蓮志は小さく微笑んだ。
「優しいんだね……星空くんは」
その微笑みには深い諦めと、どこかで誰かに触れてほしいというかすかな祈りが滲んでいた。
徐々にバーがお客さんで賑わっていき、蓮志は忙しそうにしていて、その後は話すことができなかった。
その時、バーのオーナーの永井洋平(ながいようへい)が話しかけてきた。
洋平と話すのはその日が初めてだった。
「君が星空くんか。蓮志のことだけど、あいつ過去に色々あってな。でも、不器用なだけで、星空くんを傷つけたいわけじゃないんだ。ごめんな」
「いえ、わかってます。蓮志さんがそういうふうに優しい人だってこと、わかってるんで」
その夜は、静かに更けていった。
星空はバイトを早めに切り上げて、&barの前に立っていた。
けれど、扉を開けることはできなかった。
理由は、たまたま通りがかった道の向こう側で、蓮志知らない男と並んで歩いているのを見てしまったからだ。
その男性に寄り添い媚びるような姿。
あんな蓮志を見たことがなかった。
自分には見せない顔をあの男には見せている……。
とても苦しかった。
それは星空が知っている蓮志ではなかった。
それを見て、あとを追ってはいけないと思いながらも、足が勝手に動いていた。
ホテル街の路地裏。
男が先に建物に入ると、蓮志は一瞬、振り返るそぶりを見せたが、その男に手を引かれ、中に入って行った。
星空は、その背中に声をかけることができず、ただ立ち尽くした。
それは星のない夜だった。
数日後、&barを訪れると、蓮志は変わらない笑顔で出迎えた。
「いらっしゃい。奥の席どうぞ」
いつもと変わらない蓮志の態度に、胸が痛んだ。
蓮志が目の前にいるのに、どこか遠くに感じた。
何も知らなかった頃に戻れたらと思った。
「あの……蓮志さんが、この前男性とホテルに行ってましたよね?あの人は誰なんですか?」
蓮志の動きが一瞬止まった。けれどすぐいつもの笑顔に戻った。
「そうなんだ、あれはただの仕事だよ。君には関係ないよ」
少しは彼のことを知っていると思っていたのに、急に寂しくなった。
手の届かないところに居るのかもしれない……。
「関係ないわけないです。俺は蓮志さんのことが……」
言葉が出てこなかった。やっぱり深入りするべきではなかったのかもしれない。
でも、急に突き放された気持ちで、とても悲しかった。胸が締め付けられるようだった。
「言い方悪かったよね。でも、人には知らないほうがいいこともあるんだよ。君には僕のことを知って、傷ついてほしくないんだ」
「……俺はそれでも蓮志さんのこと、知りたいです。それはダメなことですか」
蓮志は、星空のグラスにそっと新しいカクテルを注いだ。
その指が、ほんの少し震えていた。
「知ってどうするの?君にはきっと知らないほうがいいことだと思うよ」
「それでも、知りたいです。俺、もう逃げたくないんです。誰かのことを大事に思うってそういうことじゃないんですか……?」
しばらくの沈黙の後、蓮志は小さく微笑んだ。
「優しいんだね……星空くんは」
その微笑みには深い諦めと、どこかで誰かに触れてほしいというかすかな祈りが滲んでいた。
徐々にバーがお客さんで賑わっていき、蓮志は忙しそうにしていて、その後は話すことができなかった。
その時、バーのオーナーの永井洋平(ながいようへい)が話しかけてきた。
洋平と話すのはその日が初めてだった。
「君が星空くんか。蓮志のことだけど、あいつ過去に色々あってな。でも、不器用なだけで、星空くんを傷つけたいわけじゃないんだ。ごめんな」
「いえ、わかってます。蓮志さんがそういうふうに優しい人だってこと、わかってるんで」
その夜は、静かに更けていった。
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