ブルームーン-青、君に染まる-

藍沢ルイ

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第七章

交差する孤独たち

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あの日から、星空はたびたび&barを訪れるようになった。
星空は、元々バーに来るようなタイプではなかった。
けれど、静かな空間と蓮志のことが頭から離れなかった。
自然と足が向いてしまう。

「いらっしゃい、七瀬くん」

いつもの優しい声。
そして、初めて呼ばれた自分の名前に胸が高鳴った。
それに気づかれないように必死に平然を装った。

「今日は、どうする?」

「蓮志さんのおすすめでお願いします」

「わかった、ちょっと待っててね」

包み込まれるような綺麗な手でシェイカーを振る姿は、美しく吸い込まれるようだった。

「どうぞ、口に合うといいんだけど」

目の前に置かれたのは、バイオレットフィズというカクテルだった。

「ありがとうございます」

口に含むと花の香りとレモンの爽やかな酸味が広がり、とても心地よい口当たりだった。

少しの沈黙のあと、僕は口を開いた。

「あの、蓮志さん、この前のことはすみませんでした」

「もういいよ」

やっぱり少し冷たく突き放された気がした。

「それとやっぱり蓮志さんのこと、もっと知りたいです」

「でも、この前あそこに居たってことは見てたでしょ?幻滅したんじゃない?」

「そんなことないです。それよりももっと蓮志さんのことが知りたい。もっと蓮志さんの言葉で蓮志さんのことを知りたいです」

「……なんで、君は僕の中に入ってこようとするの。僕は君みたいに綺麗な人間じゃない」

普段感情を出さない彼が、珍しく感情的に見えた。

僕は、思わず蓮志の手に自分の手を重ねた。痛くてもその心に触れたい。
この人を離してはいけないと思った。



「蓮志ー!」

2人の沈黙を割くように、勢いよく扉が開かれた。

その瞬間、重なった手2人の手は静かに解かれた。

「瑠夏ちゃん、いらっしゃい」

蓮志はいつもの柔和な笑顔で出迎えた。
まるでさっきのことはなかったかのように。

「こちらは?」

見るからに、高そうなブランドを身にまとっていかにもそういうタイプだった。少し僕は身構えてしまう。

「こちらは、七瀬星空くん」

「七瀬星空です、はじめまして」

「こちらは、和泉瑠夏(いずみるか)ちゃん。常連さんだよ。」

「星空って言うんだ~、私、湘南大学2年なんだけど、もしかしてタメだったりする?」

いかにも、鼻にかかる猫のような声で、酔ってしまいそうなほど甘い香りがした。

「……ああ、まあそうだね」

「ていうか、2人ってそういう関係?手重ねてたでしょ?」

僕に小さく耳打ちをしてくる。

その声と甘い声にクラクラしそうだった。でもモテる女子ってこうなんだなと、どこかで客観的に思っていた。

「おーい、聞いてる?」

「そんなことないよ」

「困らせてるでしょ、やめてあげなよ。せっかく来たんだから、何か飲んでいきなよ」

「しょうがないなあ、じゃぁ、カシスソーダで」

「わかった、カシスソーダね」

しばらくの沈黙の後、綺麗な真紅色のカクテルが注がれる。
一つ一つの所作が丁寧で、やっぱり見惚れてしまう。

「お待たせしました」

「ありがとう」

瑠夏は、小気味よくカクテルを口に運んだ。

「ていうか、聞いてよー、全然好きな人に振り向いてもらえないんだよねー」

瑠夏が蓮志を見ながらそう話した。僕にはわかる、そういう目だった。

「もしかして、その好きな人に気になる人ができたのかも」

「蓮志はさー、どう思う?それでも積極的に行動した方がいいのかなー?」

「そうだね、好きなら行動してみてもいいんじゃないかな」

蓮志は、いつもの穏やかな声で、グラスを拭きながら、そう答えた。

「そっかー、ありがとう!じゃぁ積極的に行動してみようかな」

話してるうちに、時間は過ぎていきグラスもからになったところで、僕はバーを出た。



その頃、凪のアルバイト先のカフェには、聞き慣れた声が聞こえた。

「もう上がり?」

いつもの海里の声だった。

「うん」

「じゃぁ外で待つわ」

「……おまたせ」

「ん」

手渡されたコーヒーは暖かかった。
いつも海里はそうやって自分の心に気づいてくれる。
海里の心の暖かさを表してるようだった。

「ありがと」

「無理には聞かないけど、なんかあった?」

「わからない、ただ星空が離れていくような気がして」

「……そっか、でも星空結構変わったよな、出会った時はいまにも消えそうで、ただひたすら星空の笑った顔が見たかった、でももうそれは俺じゃなくても良いのかなとは思った」

「うん、俺も」

「なあ凪、間違ってるかもしれないけど、もしかして星空のこと、好きだったりする?」

「そう、なのかな……」

その時、凪の顔から一筋の微かな光が流れた。

海里は、それに気づかないふりをして空を見上げた。

それは、凪がこんなに星空のことを思ってたのは、気づきたくなかったからなのかもしれない。

「……ごめん、帰ろっか」

「ああ」

2人の影が少し重なる。

「何があっても、俺はいつでも凪のそばにいるから」

「うん、ありがと」


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