最推しの乙女ゲー攻略対象に転生したら腹黒系人誑かしになり国を掌握した

景義

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少年期

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 王城の豪華絢爛な一室に佇む少年は、周囲に誰もいないことを確認してから鍵をかけ、カーテンを閉めた。

 大きな姿見の前に立って、少年は映っている自分の顔をじっと見つめる。

 金髪はサラサラと揺れ、碧眼は水面のように澄んでいた。少女と見紛う白い肌に、ほんのり赤らんだ頬。右目下の泣き黒子が、幼いながらもどこか蠱惑的な魅惑を演出していた。疑うべくもない美少年である。

(——これが私じゃなけりゃあ最高なんだけど)

 取り乱したい気持ちをグッとこらえ、少年は口を真横に結んだ。なぜ誰も見ていないのに取り乱すことを避けるのか。その理由は簡単だった。

(まさか最推しに生まれ変わるなんて、超ド級の解釈違いだ!)

 そう、たとえ誰も居なかろうが、推しの姿で取り乱すなど解釈違いだからである。

(しかしやはり推し、幼少期から顔がいい)

 少年は鏡の前で優雅に笑う。これこそが推し——すなわちレーヴェの代表的な笑顔。7歳と幼いながらも、その王族たる風格はひしひしと感じ取れる。レーヴェ・フリードリヒ・フォン・イェージ=ハウプトマンという仰々しい名前を背負う、この国の第二王子の正しき姿である。

(でもなんで私が推しなのか。他人としてこのご尊顔を眺めたかった)

 誰かに苛立ちをぶつけたいが、そんな野蛮なことをレーヴェはしないのだ。レーヴェは笑顔でありながら内心キレ散らかすという丁寧な二面性を誰もいない場所で披露した。

(あっでもこの顔やっぱ良い。ただでさえ推しの幼少期で垂涎ものなのにさせたいポーズも自由自在とかヤバすぎる)

 鏡の前で好き勝手にポーズを取りたい。しかし推しがそんなナルシスト全開なことをするだろうか。そんなことを悩みながら、レーヴェは直立不動のまま立ち尽くしていた。


 そもそもレーヴェとは乙女ゲーム『君の便りに微笑んで -The first tidings of the blossoms-』の攻略対象の名前である。

 あまり有名とは言えないゲームだが、熱心なファンを多数抱える、いわゆるスルメゲーである。前世にあたる喪女がセリフを覚えてしまうほどにやり込んだゲームだった。

 なぜゲームの世界に生まれ変わってしまったのかは、てんで分からない。そもそも死んだことはハッキリ自覚していても、どうやって死んだのかは記憶していないほど曖昧なのだ。物心ついた頃から喪女の前世と意識を共有して生きてきた。その時点で解釈違い感満載だが、過去を悔いても出来ることなどない。

 せっかく推しになったのだ。こうなったら、絶対にこれ以上解釈違いなど起こしてたまるものか。

 レーヴェの、レーヴェによる、レーヴェのための、渾身の解釈一致運動を始めてやろうではないか。

 脳裏に思い描くのは、レーヴェの数々のイベントやスチルだ。

 レーヴェは乙女ゲームとしてありがちではあるが、やはり重い過去を背負っている。これからの人生、先行き真っ暗だ。しかしその道をただ避けて歩くような情けないことなどしない。

 ただただ解釈一致という、レーヴェにとっては全てと言っていいことにより、ここで人生の方針全てを決定した。

 頑張れ前世喪女現最推し。君の推しの解釈一致は君にかかっている。


(にしても、レーヴェである以上男……なんだよな)

 第二次成長期前の姿のため、まだはっきりとは性別の差が見えてはこない。だからまだ女から男に生まれ変わったことの違和感は大きくない。しかし明白なのは下半身である。

(推しのちんちんがついてるじゃん……これどうしよう。私はこれから推しのちんちんと向き合って生きていかねばならない……?)

 確かに今までは深く気にしたことはなかった。だって前世と意識は変わらずとも幼い子供だし、自然な流れで受け入れてきたので考える必要もなかったのだ。

 解釈一致運動は最初の課題が最大の問題かもしれない。ぶらぶらとした推し。

(考えるのやめ!深く考えたらダメな気がする)

朗らかな笑顔を鏡で確認して、第二王子として振舞うための態度を整える。

 するとちょうど計ったかのように部屋の扉が叩かれる。

(うわ、もう来たよ)

「レーヴェ王子、そろそろ授業を再開しますよ」

 酒焼けした男性教師の声がした。

「ああ、すぐに行くよ」

 第二王子である以上さぼることなど許されない。というかそもそも推しがサボりとか解釈違いにも程がある。

 レーヴェは扉を開けて、授業をするために部屋を立ち去った。

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