最推しの乙女ゲー攻略対象に転生したら腹黒系人誑かしになり国を掌握した

景義

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少年期

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 エリーザベトと再び出会ったのは、レーヴェが教師を辞めさせたことで生じた、策略を練る時間として用意した昼過ぎだった。

「おや、エリーザベト嬢」

「あ……レーヴェ様」

 礼をしたエリーザベトは、一人中庭をのぞむ廊下で立ちつくしていた。視線は中庭の中心を向いていて、つられたレーヴェが視線を動かすと兄のランベルトが同年代の従僕たちと木の剣を振り回していた。

「お暇ですか?」

「ええ……残念ながら」

 エリーザベトの顔には、隠しきれない疲れが滲んでいた。いったいどれだけの間こうやって立っているのだろうか。

「レーヴェ様、後ろの方は?」

「ああ、新しく私の従僕になったハンスです」

「よろしくお願いいたします」

ハンスは訛らないように気をつけながら挨拶をしていた。

「エリーザベト嬢、こんなところで立っていては足も疲れてしまいます。別室で茶でも飲みながら休みましょう」

(ヒールたっか。少女が履いてていい靴じゃないでしょ。休もう休もう)

「お気持ちはありがたいですわ。でもわたくしはランベルト様を……」

(うわーっゲームだと高飛車だったエリーザベトがこんな健気に可愛いのズルくない?)

 レーヴェとしてもエリーザベトを微笑ましく見守りたいものだが、こんないたいけな少女をずっとほったらかしにするのはいかがなものだろうか。

「兄上の剣技は見事ですからね。見ていたい気持ちはわかります」

 しかし、と続けてレーヴェはエリーザベトの手を取る。

「ほら、手も冷え切っていますよ。ね?」

「あ……」

「すみません、不躾でしたね」

「いえ……でも、そうですね。身体を休める少しだけの間なら……」

「それは良かった」

 レーヴェは心から喜んで笑顔を送った。それを見て、エリーザベトは顔を赤くする。

「レーヴェはたまに自分の顔ん良しゃば忘れとーのが玉に瑕ばい」

 あきれたハンスは、間違っても他人に聞こえないようにしながらも小声で呟いた。傍からみれば兄の婚約者に言い寄っているが、それが違うことをハンスも分かっている。レーヴェは完全に年下の少女に気を使っているに過ぎなかった。
 
「兄上!エリザーベト嬢を少々休ませて差し上げたいのですが」

 中庭に声をかけると、そこで初めてエリザーベトがいたことに気づいたかのような表情を浮かべたランベルトは、笑顔でレーヴェに近づいてくる。

「なんだ、お前も参加しないのか」

「ええ、私は兄上ほど強くはありませんし……茶でも飲んでいるほうが好みです」

「ううむ、仕方ないな」

 レーヴェの本心から出た言葉にランベルトも引き下がることはせず、また剣を持って従僕たちの元へ向かった。エリーザベトを顧みることもせず。

「さ、行きましょうか」

「はい……」

(年頃の女の子にあんな態度……エリーザベトちゃんかわいそう)
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