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少年期
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その場にいた全員が振り返って、驚く。
そこにいたのは、現トイテンベルク王であり、レーヴェの実の父親だったのだから。
「レーヴェ、貴様何を遊んでいる?」
「父上」
低い声は怒りを表している。先程までの空気が一変し、別の方面で重苦しくなる。エリーザベトではなく、レーヴェに重圧が向かっていた。
「遊んでいる暇があるのか」
「申し訳ございません」
「聞くところによると、貴様はランベルトと違い教師から折檻を貰ってばかりだそうだな」
(よくご存知ですね!もしかして教師は父上の采配ですか?無能!バカ!髭面!加齢臭!)
思い浮かぶありとあらゆる稚拙な罵倒の言葉を飲み込んで、あくまでもレーヴェとして涼しい顔で受け止める。
「ふん、口答えもしないとは。これ以上王家の評判を落とすなら考えがある。それを伝えておこう」
言うことを言ったら、これ以上顔を合わせているのも苦痛だというようにその場を去っていった。嵐のように、というより暴風雪のようだ。冷たいものを降り積もらせる。レーヴェの心はもう雪原のように冷たく、真っ白だった。
「すみません、エリーザベト嬢。見苦しいところをお見せしました」
「わ、わたくし、申し訳ありません」
「いいえ、私の不徳の致すところです」
もう茶会の空気などではない。解散の雰囲気になり、レーヴェはエリーザベト嬢が立ち上がるのを手伝うべく手を差し伸べた。
そしてエリーザベトが立ち上がるその時、それとなく自分の方向に引き寄せる。エリーザベトが自然とバランスを崩したかのようにレーヴェの胸元に飛び込んだ。
「いつでもお返事待っていますよ」
そっとエリーザベトに耳打ちをする。当人は、こうやってれば腹黒なレーヴェポイント高めじゃね!?という考えからやっているが、エリーザベトにしてみれば心臓が止まってしまいそうな出来事だ。
「それでは兄上の元に案内しましょう」
「いいえ、それには及びません」
心臓が持たないわ、とエリーザベトが内心で呟く。そして
「レーヴェ様。質問のお返事、遅くなって申し訳ありません。そしてお返事を。わたくしからお力添えを求めることはございません」
強く、キッパリと告げた。その姿勢は、傷つき弱った少女ではない。
「わたくしはこの国の未来の王妃です。ここで人の手を借りるようではいけませんもの」
「それでこそエリーザベト嬢です」
むしろ頷かれるよりよっぽど小気味良い。レーヴェは穏やかに笑った。
(あっ、これっていわゆる俺の誘いを断るなんておもしれー女って奴では!?まさか体験する立場になるとは……恐ろしい子)
「それに、レーヴェ様は弟になるのですから。姉として良い所を見せなければ」
「おや、ではお姉様とお呼びしたほうが?」
「う……なぜだか抵抗がありますわ」
「私とエリーザベト嬢は同い年ですからね」
「レーヴェ様とは何故だか同い年という気がしませんもの」
「よく分かりましたね。私は本当は30を過ぎた女なのです」
「レーヴェ様ったらそんな冗談を言う方なのですね」
「おや、意外でしたか?本来の私は結構冗談を言うのですよ」
「揶揄っているだけでしょう、もう」
穏やかに、静かに、けれども小声で笑いながら二人は別れた。
(エリーザベトちゃんは同性の感覚で話せるから気が楽になる。今までの女の子はすぐ推しフェイスにメロメロで雑談のような会話をする機会もなかったから。まあ推しはカッコいいからそれも分かるんだけど。エリーザベトちゃんはそこら辺ランベルトの顔で慣れてんのかな)
気分が高揚しているレーヴェとは相反して、ハンスは完全に従僕として全てを見てないフリである。未来の王妃と親しげにする王位継承権第二位という複雑な状況は、完全にハンスの処理能力を超えていた。
そこにいたのは、現トイテンベルク王であり、レーヴェの実の父親だったのだから。
「レーヴェ、貴様何を遊んでいる?」
「父上」
低い声は怒りを表している。先程までの空気が一変し、別の方面で重苦しくなる。エリーザベトではなく、レーヴェに重圧が向かっていた。
「遊んでいる暇があるのか」
「申し訳ございません」
「聞くところによると、貴様はランベルトと違い教師から折檻を貰ってばかりだそうだな」
(よくご存知ですね!もしかして教師は父上の采配ですか?無能!バカ!髭面!加齢臭!)
思い浮かぶありとあらゆる稚拙な罵倒の言葉を飲み込んで、あくまでもレーヴェとして涼しい顔で受け止める。
「ふん、口答えもしないとは。これ以上王家の評判を落とすなら考えがある。それを伝えておこう」
言うことを言ったら、これ以上顔を合わせているのも苦痛だというようにその場を去っていった。嵐のように、というより暴風雪のようだ。冷たいものを降り積もらせる。レーヴェの心はもう雪原のように冷たく、真っ白だった。
「すみません、エリーザベト嬢。見苦しいところをお見せしました」
「わ、わたくし、申し訳ありません」
「いいえ、私の不徳の致すところです」
もう茶会の空気などではない。解散の雰囲気になり、レーヴェはエリーザベト嬢が立ち上がるのを手伝うべく手を差し伸べた。
そしてエリーザベトが立ち上がるその時、それとなく自分の方向に引き寄せる。エリーザベトが自然とバランスを崩したかのようにレーヴェの胸元に飛び込んだ。
「いつでもお返事待っていますよ」
そっとエリーザベトに耳打ちをする。当人は、こうやってれば腹黒なレーヴェポイント高めじゃね!?という考えからやっているが、エリーザベトにしてみれば心臓が止まってしまいそうな出来事だ。
「それでは兄上の元に案内しましょう」
「いいえ、それには及びません」
心臓が持たないわ、とエリーザベトが内心で呟く。そして
「レーヴェ様。質問のお返事、遅くなって申し訳ありません。そしてお返事を。わたくしからお力添えを求めることはございません」
強く、キッパリと告げた。その姿勢は、傷つき弱った少女ではない。
「わたくしはこの国の未来の王妃です。ここで人の手を借りるようではいけませんもの」
「それでこそエリーザベト嬢です」
むしろ頷かれるよりよっぽど小気味良い。レーヴェは穏やかに笑った。
(あっ、これっていわゆる俺の誘いを断るなんておもしれー女って奴では!?まさか体験する立場になるとは……恐ろしい子)
「それに、レーヴェ様は弟になるのですから。姉として良い所を見せなければ」
「おや、ではお姉様とお呼びしたほうが?」
「う……なぜだか抵抗がありますわ」
「私とエリーザベト嬢は同い年ですからね」
「レーヴェ様とは何故だか同い年という気がしませんもの」
「よく分かりましたね。私は本当は30を過ぎた女なのです」
「レーヴェ様ったらそんな冗談を言う方なのですね」
「おや、意外でしたか?本来の私は結構冗談を言うのですよ」
「揶揄っているだけでしょう、もう」
穏やかに、静かに、けれども小声で笑いながら二人は別れた。
(エリーザベトちゃんは同性の感覚で話せるから気が楽になる。今までの女の子はすぐ推しフェイスにメロメロで雑談のような会話をする機会もなかったから。まあ推しはカッコいいからそれも分かるんだけど。エリーザベトちゃんはそこら辺ランベルトの顔で慣れてんのかな)
気分が高揚しているレーヴェとは相反して、ハンスは完全に従僕として全てを見てないフリである。未来の王妃と親しげにする王位継承権第二位という複雑な状況は、完全にハンスの処理能力を超えていた。
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