王太子殿下は悪役令息のいいなり

一寸光陰

文字の大きさ
14 / 20

14

しおりを挟む
「ここが分からないから教えていただけませんかぁ。」
セシリアは上目遣い気味にディアスを見上げた。

「ここは、…だからこうなる。」
「なるほどぉ!とても分かりやすかったです!ありがとうございますぅ」
「構わない。」
「ディアス様は私のことを疎まないのですね…。ご存知かもしれませんが、私はずっと平民として暮らしてきて、自分が伯爵令嬢だということを知らなかったのです。そのせいで多くの人にいじめられ、無視されて…」
セシリアは大きな瞳に涙をいっぱい溜めてディアスの顔を見つめる。 
「ディアス様は本当にお優しいですぅ…。」
「そうか。これからは分からないところは教師に聞くといい。そちらの方が分かりやすいからな。」
「な…!!私は!で、ディアス様に…!」
「すまないが、私も忙しい。あまり教えられそうにない。」

セシリアはさっと動揺を隠し、また瞳を潤ませる。
「そうですよね…。ディアス様は一国の王子。様々な責任がつきまといます。とてもお大変でしょう。いつでも相談に乗ります。」
「分かってくれたならそれでいい。」
ディアスはさっさと何処かへ行ってしまった。
セシリアはこめかみに青筋をたてた。


セシリアが中庭を歩いていると、シルヴィンを見かけた。
前にあんな事をしてしまったせいで少しきまずい。しかし、ディアスがシルヴィンを大事にしていると分かった今、仲良くしていて損はない。

シルヴィンはどんなに寵愛を受けようと男。色々と不便なことはあるだろう。行き違いも出るだろう。そんな時にセシリアが慰めれば…。
セシリアは歪んだ笑みを浮かばせた。

「シルヴィン様!」
「セシリアさん。どうかしましたか。」
シルヴィンの表情に警戒の色が浮かぶ。

「ごめんなさい!!!!」

平民直伝高速直角御辞儀を披露する。
「せ、セシリアさん?」
「じ、実は私の勘違いだということが分かりましたの。お、お許しください!」
「そんな…。少しも気にしてないよ。だから頭を上げて。」
「あぅ…。し、シルヴィン様はお優しいですね…。」
セシリアは紫色の瞳に涙を浮かばせる。
「ご、ごめんなさい!私、泣き虫で…!」
「いいんだよ。これ良かったら使って。」
シルヴィンは美しい刺繍の入ったハンカチを手渡す。
「あわわ、こんなに美しいハンカチは見たことがありません。こんなに素晴らしいものを私が使ってもいいのですか?」
「うん。実はこれ7年前にディアス殿下から頂いた物なんだ。その時、僕は怪我をしていてね…。このハンカチがまた困っている人の役に立ったと知ったら殿下もお喜びになるだろう。」

セシリアは顔を歪める。そんな惚気を聞きたいわけではない。
「うざ…。」
そう呟いたがシルヴィンには聞こえなかったようだ。

「本当に何から何までありがとうございます。私は次の授業があるのでまたお返ししますね。」
セシリアはそう言って駆け出す。

「ああ!セシリアさん!走ると危ないよ!」
「え?き、きゃっ!」
セシリアはつまづき、ハンカチは宙に舞い、近くの噴水に落ちた。

セシリアがごめんなさいという前に、シルヴィンはザバザバと噴水の中へと入っていく。
「あ、あぅ…。ごめんなさい~って、し、シルヴィン様!?」
シルヴィンは焦った表情をして、セシリアの声にも反応せず奥へ奥へと進む。

そしてようやくハンカチを掴み、安堵のため息を吐いた。
「良かった…。」

「シル!!」
どこから現れたのかディアスが駆け寄る。ベチョベチョに濡れたシルヴィンを優しく抱きしめた。
「風邪をひくぞ。シルらしくない。たかがハンカチではないか。」
「これはただのハンカチじゃないよ。ディーからの初めての贈り物だもの…。」

ディアスは水の滴るシルヴィンの手にキスした。
「ハンカチを守ってくれてありがとう。またシルにハンカチを贈ろう。」
うっとりと青い目を細める。

対照的にギロリと美しい青い目がセシリアを見た。
「わざとではないな?」
「は、はい。」
セシリアはこくこくと何度も頷いた。
「君は貴族としての素養以外にも身につけるものが多くありそうだ。」

ディアスはシルヴィンの手を引き去っていく。
セシリアは下唇を噛み締めた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした

Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話 :注意: 作者は素人です 傍観者視点の話 人(?)×人 安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)

悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される

木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー ※この話は小説家になろうにも掲載しています。

【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!

木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。 この話は小説家になろうにも投稿しています。

妹に奪われた婚約者は、外れの王子でした。婚約破棄された僕は真実の愛を見つけます

こたま
BL
侯爵家に産まれたオメガのミシェルは、王子と婚約していた。しかしオメガとわかった妹が、お兄様ずるいわと言って婚約者を奪ってしまう。家族にないがしろにされたことで悲嘆するミシェルであったが、辺境に匿われていたアルファの落胤王子と出会い真実の愛を育む。ハッピーエンドオメガバースです。

美人なのに醜いと虐げられる転生公爵令息は、婚約破棄と家を捨てて成り上がることを画策しています。

竜鳴躍
BL
ミスティ=エルフィードには前世の記憶がある。 男しかいないこの世界、横暴な王子の婚約者であることには絶望しかない。 家族も屑ばかりで、母親(男)は美しく生まれた息子に嫉妬して、徹底的にその美を隠し、『醜い』子として育てられた。 前世の記憶があるから、本当は自分が誰よりも美しいことは分かっている。 前世の記憶チートで優秀なことも。 だけど、こんな家も婚約者も捨てたいから、僕は知られないように自分を磨く。 愚かで醜い子として婚約破棄されたいから。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

処理中です...