上 下
13 / 20

13

しおりを挟む
いつも通りの朝。しかしいつもと違う何かをセシリアは感じ取っていた。
そうか、学生たちの視線だ。王太子とその婚約者を見つめる視線が今日は違う。
しかし、王太子はいつもと変わらず無表情で婚約者の話には興味など無さそうだった。

「セシリア、おはよう!」
同じクラスの子爵令嬢が声をかけてきた。セシリアはこの女のことをイモくさくてあまり好きではなかったが、自分に優しくしてくれるので仕方なく仲良くしていた。

「ねぇ、一昨日のパーティーは凄かったね。」
「一昨日のパーティー?」
「あれ?参加してなかったっけ?」
「お父様にまだ社交会に出ることを禁止されてるのよ。」
そっかと子爵令嬢は同情した目を向けてきた。伯爵令嬢にも関わらず長い間市井で暮らしていたセシリアを憐んでいるのだ。セシリアはイライラとした。

「それで?パーティーがどうしたっていうの?」
「一昨日のパーティーで王太子殿下がシルヴィン様のことを寵愛なさっていることが分かったの!」
「え?」
「お2人の美しさ、仲の睦まじさと言ったら…。私、すっかり2人のことを応援したくなったわ。私以外にもこういう人は多くいて、皆お2人が仲良くしてるのをみると嬉しくなるのよ。」

その後も子爵令嬢はパーティーでの王太子たちのダンスの素晴らしさや、手を取り合う様子など熱く語っている

なんて華麗な手のひら返しなんだろう。一昨日まではあんなにもシルヴィンのことを罵っていたというのに。
セシリアはふっと鼻で笑った。

でも、そうか。皆がそう言うならきっと本当にそうなのだろう。少し自分の計画とずれてしまった。望まない婚約を慰める予定だったのに。
でも、大丈夫。自分に落とせなかった男などいないのだから。


寮の部屋では暖炉の火が燃えていた。
3月だというのに、まだまだ寒い。
王妃になったら、南に別荘を建てさせよう。そして虎の毛皮もあつらえさせよう。

パチパチと燃える炎を見ながら、セシリアはフローライト伯爵のことを思い出す。
1年前、初めて会った時、その瞳の冷たさに震えた。しかし、彼の髪と瞳の色はセシリアによく似ていた。
自分が伯爵令嬢だと分かった時、やはり私は特別なのだと思った。

セシリアは貧しい暮らしなど嫌だった。誰よりも優雅に暮らしたかった。セシリアの育った孤児院は食べることにも寝ることにも一切困らなかったが、それでも時々やってくる裕福な貴族の子供を見ると腹立たしかった。

セシリアは誰よりも贅沢な日々を望んでいた。

美しい王子、美しい城、美しい宝石

伯爵令嬢セシリアが望めば手に入るもの。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

BL / 連載中 24h.ポイント:3,599pt お気に入り:2,706

運命の番を見つけることがわかっている婚約者に尽くした結果

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14,358pt お気に入り:259

あなたが見放されたのは私のせいではありませんよ?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7,639pt お気に入り:1,660

【完結】花が結んだあやかしとの縁

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:108

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:10,893pt お気に入り:3,099

婚約破棄させてください!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:9,059pt お気に入り:3,022

処理中です...