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第5章 『水の国』教官編
第165話 因縁の48層へ……そんなに分かりやすいかな? 俺
しおりを挟むリザードマンの騒動から直ぐに下り階段を見つけ、俺達は四十七層へと降りた。
四十七層はタコイカの出現割合が少し減り、その代わりリザードマンが目立ち始めたがその出現数は一、二匹で、美香さん達はぎこちなくはあるが忍さんの影響が出そうになると俺が手を叩いて正気に戻すというルーティンを繰り返すことで、その度合いは徐々に減り始めた。
そして、四十七層を攻略して完全に忍さんの影響下から完全に逃れたところで問題の四十八層へと足を進める。
「やっと、リザードマン相手でも普通に戦える様になってきましたね」
四十八層に入って最初に遭遇した、レベルが前の層よりも高く装備も鉄製の物に変わったリザードマン五匹パーティを平常心で倒した後で、俺が美香さん達に話し掛けると面目無さそうに美希さんが笑う。
「ははっ、手間かけさせて悪かったね博貴さん」
「いや、それが俺の仕事ですから気にしないで下さい」
本当は忍さんの影響なく戦ってくれる様になったことに心底安心しながらも、そんなことはおくびにも出さずになんでもない様な事の様に答えると、美久ちゃんと美子ちゃんが近付いてきてそんな俺の顔を見上げる。
「本当にそう思ってる?」
「メンドクサイ……なんて思って、ない?」
その心配そうな表情があまりにも健気で可愛らしく、思わず二人の頭に手を置きながら笑みを向ける。
「そんなことは思ってないさ」
本当は少し面倒くさいと思っていましたーーなんてことは言えるわけもなく、二人にそう答える。
もしかして、二人にはそんな俺の心情が見透かされていたのかな? なんてドギマギしていると、再び【気配察知】に反応。
正面と……背後からもだ。背後の奴は一匹だけど気配を殺してるな……ふむ、どういう意図でそんな行動を取っているんだろ?
俺が気配を察知した相手に対してそんなことを考えていると、美子ちゃんもその気配を感じたのか、俺の手を頭に乗せたまま前方に厳しい視線を向ける。
「また敵だ」
「またなの? さっき倒して移動もしてないのに」
美子ちゃんの警告に美香さんが頬に手を当てて困り顔を作ると、美希さんが舌なめずりをしながら前方に向かって剣を構える。
「連戦ね……だったら、博貴さんの心配を拭える様にさっさと倒しちゃおうか」
美希さんの言動にも、俺のさっきの言葉をそのまま受け取った気配は無い。
女の勘……てやつかね。本心を隠しきれなかったみたいだ。そう言えば、アユムにも隠し事が出来てなかったっけ。俺って顔にでてるのかな? ポーカーフェイスしてるつもりなんだけどなぁ……
[マスターの言動は分かりやすいです。マスターは隠し事があると若干、顔が緊張で強張っていますから]
わーい、念話なんかしてないのにアユムから的確な指摘が帰ってきた。アユムには言動どころか思考まで読まれているのか? 勘弁してくれ……
ガッカリと肩を落としながらも、先程の美子ちゃんの警告に背後の気配が含まれていなかったことに一抹の不安を抱き、戦闘態勢に入る彼女達を見守りながら後ろの気配に対応するために後退る様に後方に下がる。
背後の気配の主は一つで、曲がり角の影に隠れてこちらの様子を窺っているみたいだ。前方から来る気配は五。戦闘が始まったら後方から奇襲をかける気か? それにしては一匹でというのは数が少な過ぎる気がするが。
相手に気付いていることを悟られない様に視線を前方に向けたまま、意識を後方に集中していると、前方から五匹のリザードマンが姿を現わす。
「また、性懲りも無く現れたね」
「もう、あんた達相手でも気後れしないんだから」
リザードマン達を前にして、美希さんと美子ちゃんが不敵な笑みを浮かべる。そのセリフは恐らくリザードマンじゃなくて俺に向けられたものだろう。
「もう、貴方たちを見ても何とも思わないの」
「みんな~、やる気があるのはいいけど、油断はしないでねぇ」
美久ちゃんが二人の意気込みに乗っかると、美香さんがそんな皆に背後から釘を刺す。
うん、気負い気味だった皆を美香さんが上手いこと宥めてくれた。良いチームワークだ。
これなら俺が手を貸さなくても余裕を持って戦えるだろうと、前方に意識を向けている素振りを見せながらも、後ろの気配に注意を払う行為を続行。
さて、どのタイミングで介入してくるつもりなのかな?
様子を窺っているってことは、何かしらのアクションをするつもりの筈だ。
ーーここか?
美希さんがリザードマンのパーティに突っ込み、美子ちゃんがそれをサポートした瞬間。美香さんも美久ちゃんも戦況に集中していて完全に背後への配慮が疎かになっている。俺ならこのタイミングで出るなと思ったのだが、背後の気配は全く動く様子が無い。
そのまま彼女達の戦闘を見守ること数分。再び奇襲のチャンスが訪れる。
ーーなら、ここだ!
美希さんと美子ちゃんの壁を抜け、一匹のリザードマンが後方の美久ちゃん目掛けて詰め寄った。
この時は流石に俺も手を出そうとしたが、美久ちゃんが呪文を唱え終わって控えさせていたウォーターランスを発動させ、水の槍がリザードマンの胸板に突き刺さる。
一瞬、冷や汗が出たが何とか事なきを得て、ホッとしつつも思い出した様に後方の気配に気を向けるが出てくる様子は無いみたいだ。
一体、何がしたいんだ? もう、一匹死んでしまっているというのに、全く動く様子が無い。このままじゃどんどん数が減っていって戦力が落ちていく一方だぞ。
なんて考えている内に美希さんと美子ちゃんの手によってまた二匹葬り去られる。
残りは二匹。この数ではどんなに見事に不意を突けたとしても、数による戦力差でアッサリと引っくり返されるぞ。
背後に隠れている者の真意が分からなく頭を悩ませていると、数で勝った美香さん達はあっという間に残りの二匹も片付けてしまう。
「博貴さん。見た見た? 私達完勝したよ」
得意げな美子ちゃんを先頭に皆が俺の周りに集まってくる。
「途中、美久ちゃんにリザードマンが向かっていって少しヒヤヒヤしたけどね」
おどけた様に感想を返すと、勝ち誇っていた美久ちゃんがプクゥと頬を膨らませ思わず苦笑してしまう。
ーーっと、和んでいる場合じゃなかった。
「? 博貴さん、何か心配事でも?」
また、見抜かれてしまった様で、俺が雰囲気を変えた瞬間に美香さんが眉尻を下げながら聞いてくる。
「別に、大したことでは無いとは思うんですけどね」
心配そうな美香さんにそう返しつつ、俺は後ろを振り返った。
「何の目的かは知らないけど、出てきたらどうだい? 居るのは分かっているんだよ」
もしかしたら言葉が通じないかも知れないと思いつつも俺が背後に向かってそう勧告すると、そんな不安は杞憂だったようで、通路の角からそいつはゆっくりと姿を現した。
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