理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優

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第5章 『水の国』教官編

第166話 疑惑のリザードマン……親しき仲でも言いにくいことはあるのです

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   俺の言葉に反応して、四姉妹もそちらへと視線を向けると、そいつは敵意が無いことを示すようにゆっくりと歩み出てくる。
   鈍い光沢のある黒い鉄製のブレストメイルを身に付け、ボロ切れを腰に巻いたそいつは、全身を緑の鱗で覆っていた。
   間違いなくリザードマン。しかし、布で腰回りを隠すリザードマンなんてみたことが無いんだが、もしかして、下半身を露わにすることに恥じらいを感じてる?
   突然のリザードマンの登場に、美香さん達が慌てて身構えるが、リザードマンは腰に下げた剣に手をかけることも無く、慌てた様子で両手を上げて戦う意思が無いことを必死にアピールしてきた。
   まぁ、さっきの戦闘に参加しなかった時点で戦う意思が無いことは明白だが、それでも何かしらの意図があって近付いてきたことは確かだろう、気は抜けないな。

「あいつ、一体なんなの?」

   諸手を上げるリザードマンに奇異の視線を向けながら美希さんが疑問の声を上げるが、その疑問に答えられる者はいない。俺だってそんなの分かる筈ない。

(何か、至近距離で使える特殊スキルでも持ってるのかな?   鑑定してみるか)
[ですね。精神に影響を与える様なスキルを持っている可能性も否定出来ません。【森羅万象の理】を使用します]

   俺の憂いにアユムが即座に同意し、リザードマンに対して【森羅万象の理】を使ってみることにした。

(レベルは五十二か……能力値も平均的だし、スキルも肉体強化系や武器系だけ。近付いてきたからって何か出来るとは思えないが……ん?)
[状態が憑依になってますね]

   俺が気付いた違和感に、アユムも同時に気付いたようで、その聞き慣れない状態異常を口にする。

(憑依って何だ?)
[誰かに精神を乗り移られている状態です。一部のゴースト系の魔物やモンスターが使えるという情報はありますが、ログハウスのダンジョンにその系統の魔物が出てくるという話は聞いたことがありません]
(だとすると一体……)

   こちらの言葉を解し、戦闘意思も無い。それでいてこっちに接触してこようとする誰かの意識が憑依しているリザードマン。そして、ここは四十八層。
   ーーまさか?
   一つの結論が頭に思い浮かび、俺は美香さんに視線を向けた。

「美香さん」
「何でしょう?」
「公彦さんのオリジナルスキルって、何だったか知ってます?」

   突然出した公彦さんの名に、美香さんの身体が一瞬強張ったが、直ぐに気を取り直してそのかぶりを振った。

「いえ、分かりません」
「公彦にぃ、聞いてもニヤニヤ笑うだけで教えてもらえなかったんだよね」

   美香さんの返答に美子ちゃんが遠い目をしながら付け加え、それに同意するように美希さんと美子ちゃんがウンウンと頷く。

「そう、ですか」

   オリジナルスキルの隠蔽か。確かにこの世界で生き残る為の生命線にもなりうるオリジナルスキルを隠すのは当たり前の行為かもしれないけど、それを元の世界から一緒だった気心の知れた彼女達にもしてたのか?   窮地の時に仲間の奥の手が分からないんじゃ、対処の仕方も変わってきてしまうんだけどな。
   教えなかったってことは、使えば一発で戦況をひっくり返せるような教える必要も無いスキルなのか、それともよっぽど後ろめたいスキルなのか……

《なに悩んでるの?   答えは出てるんだから悩むことないじゃん》
(うおっ?!)

   突然のニアの登場に、思わず念話で驚きの声を上げてしまう。
   こいつ、ちょこちょここっちに戻ってくるな。ニアにはティアのサポートを頼んでいるのに……真面目なトモはちゃんと健一達のサポートに勤しんでるぞ。
   そんな俺の心のぼやきが届いたのか、ニアはニハハと悪びれつつもそれを隠そうともせずに笑い、言葉を続けた。

《どうせ確信が持てなくて悩んでたんだろうけど、隠していた理由なんて邪な考えがあったからに決まってるじゃん》
(邪な考え?)
《そう。もし公彦のオリジナルスキルがマスターの予想通りなら、異性に憑依したら着替えもお風呂も覗き放題ってこと》
(………………マジか?)

   確かに男の夢とも言えなくはないが、命がかかってるこの世界でそんな理由で隠すか?   普通……
   う~ん、いくら考えてもそんな感覚は分からん。この謎は俺個人の感覚だけては判断出来ないな。あのリザードマンに『公彦さんですか?』と聞いてみれば手っ取り早いのだが、もし違っていたら美香さんたちに要らぬ期待を持たせてしまいそうだし……
   悩んだ末、俺は心の友の意見を聞いてみることにした。

(トモ、ちょっといいか?)
〈何でしょう、マスター。健一さん達ならいま、土の国のダンジョン、六十層のフロアボスを倒したところですが……〉

   俺の突然の念話に、トモはすかさず現在の健一たちの状況を報告してくる。

(健一にちょっと聞きたいことが……って、もう六十層まで行ったのか!   早いな)
〈はい。早く土の国のダンジョンをクリアして光の国に入り、そこのダンジョンを攻略しながら忍率いる光の国の勇者達の移動経路を探ってかち合わない様にしようというのが私達の指針ですので〉
(そうか。確かにそれが一番の安全策かもしれないな)
〈はい。で?   健一さんに聞きたいこととは?〉

   あっ、健一達のハイスピード攻略に驚いて忘れてた。だけど、あのでばがめ紛いの質問をトモ経由でしないといけないのか?   ……ちょっと難易度高いな。
   トモを呼び出したはいいが、そこで初めてトモ経由じゃないと健一と話せないことに気付き、その質問内容に俺は思わず口ごもってしまった。しかし、そこで健一と話せるのはトモでなくても出来ることに気付く。
   ここは、ニアにお気楽に聞いてもらうか。

(ニア、健一にさっきの推測を聞いてもらっていいか?)
《えっ、ぼく?》

   俺の口から女の子にそんなこと聞けず、ニアから直接健一に話してもらおうと頼むと、彼女から驚いた様な声が返ってくる。

(頼むよ。なんか俺の口からあんなこと聞くのは気恥ずかしいんだよ)
《う~ん、しょうがないなぁ》

   面倒くさいという雰囲気を残しながら、ニアの意思が消えていく。どうやら健一の下へと行ってくれたようだ。
   ふう、これで健一の意見が聞けるな。はてさて、健一の見解はどんなものだろうか……
   などと思っていると、突然棘のある念話が飛び込んできた。

〈不潔です!〉
{ふけつ、です}

   うわっ!   ニアのやつ、堂々と健一に聞いたな!   くそっ、密かに聞いてくれと言うのを忘れていた。
   それは俺が出した発想じゃないんだよぉ~。ニアが言ったことなんだ……って今、トモの他にも声が聞こえたような?

   必至に頭の中で弁解していると、トモと共に聞きなれない少年のような声が混じっていたことに気付く。

(えっと……誰?)
{あっ、僕、ですか。僕は、健一、さんの、【ナビゲーター】、です。ナビ君、と、呼ばれて、います。博貴、さん、よろしく、お願い、します。っと、そんな、ことより、博貴、さん!   マスターに、変なことを、吹き込まないで、下さい!}

   初対面で憤慨してくるナビ君。
   うん、そのやたらと途切れる喋り方、ナビさんを思い出すなぁ。でも、別に意見を聞きたかっただけで変なことを吹き込んでるわけではないぞ。
   あの頃を思い出して怒られながら和んでいると、ニアが戻ってくる。

《思春期やそれに近い男なら、そんなスキルを手に入れたら最初にそんな使い方を想像しちゃうんじゃないかな。だって》

   あっ、そうなんだ。最初に思いついちゃうんだ……それが思い浮かばなかった俺って、ちょっとズレてるのかな?

{えっ!   マスターが、そんなことを!}

   自分の感覚のズレに俺が衝撃を受けていると、それ以上に衝撃を受けたようなナビ君の声が響いてくる。
   すまん健一。要らぬ騒動に巻き込んでしまったかもしれん。やっぱり、ボーイズトークを第三者に聞かせるものじゃないな。

《それと、その発想が浮かばないようじゃ博貴、枯れてるんじゃないかい?   大丈夫?   だって》

   健一の心配をしていると、ニアから更にそんな伝言を受け取り、俺のこめかみにピシリと青筋が浮かぶ。
   俺は枯れてなんかないぞ、余計なお世話だ。うん、おまえはトモとナビ君が敷くであろう針のむしろに暫く座っていろ。
   健一の境遇は自業自得だという事にして、取り敢えず賛同を得られたこの問題を解決してしまおう。そう思い前にいるリザードマンに視線を向けると、アユムから念話が入る。

[私も、今のやり取りはどうかと思いますよ]

   あっ、トモ程ではないけどアユムもそっち寄りなんだ。
   アユムの場合、トモやナビ君みたいにその場で騒ぎ立てずに、忘れた頃に思い出したようにこの事を引き合いに出されそうで戦々恐々しながら、俺はリザードマンに向かって口を開いた。
  
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