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第2章 最弱勇者卒業編
第15話 一緒に……パンツは大事です
しおりを挟む「俺と一緒に来るか?」
エルフの子がスープを食べ終わったのを確認して話し掛けたけど、首を横にかしげられた。
頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるのが見える。
う~ん、誘い方が大雑把すぎるのか? だったらーー
「俺と一緒に強くなるか?」
今度は行動目標を混ぜて誘ってみる。
ここでこの子と別れれば、この子はこの森で命を落とす事になるだろう。それではこの子を救った事にはならない。
ならば、この先この子が生きていける力を、俺と共に育ててみても良いんじゃないかと思っての発言だが、結局はこの子の意志次第なんだよな。
エルフの子は俺の提案を聞き、少し考える素ぶりを見せた後、
「ん! 強くなりたい」
と、力強く頷いた。
「よし、じゃあ一緒に行くか?」
言いながら手を差し出すと、エルフの子は手を掴んで立ち上がった。
二人でログハウスのリビングに戻り、物珍しそうに辺りをキョロキョロとするエルフの子に声を掛けようとして、その場で固まってしまった。
やっぱり名前が無いと呼びづらいな。おいとか、お前とかじゃなんか偉そうだし、エルフの子って呼ぶのもなぁ……
名前を付けるという選択肢もあるが、一応その前に確認してみるか。
「ねぇ、さっき名前は無いって言ってたけど、お父さん、お母さんからは何て呼ばれてたの?」
話し掛けるとエルフの子はキョロキョロとしていた顔をこちらに向けた。
「お父さんとお母さん、ティアって呼んでた」
「ティア……ティアか。じゃあ君の名前はこれからティアでどうかな?」
そう提案するとエルフの子は『ん!』と、嬉しそうに頷いた。
「よし、じゃあティア、腹はまだ空いてるか?」
そう聞くと、ティアは余りの激しさに首が取れるんじゃないかと心配になる程凄まじい勢いで、こくこくと、頷いた。
「分かった、分かったから! 今持って来くから、席に着いてまってて」
ティアの反応にたじろぎながら厨房に入ると、スープを新たらしく装い、バスケットにこぶし大のパンを五、六個入れる。更にコップに牛乳を注いでリビングで大人しく座っていたティアの前に並べてやった。
ティアは目の前に食事が並べられると、それに釘付けになっていたが、食事に手を付ける前に俺の方を向いたので、『どうぞ』と進める。すると、凄まじい勢いで食事を始めた。
(なあ、ナビさん)
ティアの壮絶な食事風景を眺めながら、ナビさんに話し掛ける。
〔何でしょう?マスター〕
(ティアは女の子、だよね?)
多分そうではないかとは思うのだが、一応、ナビさんに確認してみる。
〔はい。ティアは、エルフ種、エルフの、女性と、認識、出来ます〕
(だよね……)
はあ、女の子か……だとすると、問題がもう一つ増えるな。
そう、ティアとダンジョン攻略するにあたり、いくつかの問題点に気付いたのだが、ティアが女の子だとすると、俺には難易度の高い問題点がもう一つ増えることになる。健一達との約束があるから、攻略は迅速に進めたいので、明日もダンジョンに入りたいのだが……
今夜中に解決出来るかな?
問題の解決方法を思案してると、ティアが用意した食事を全部平らげていた。
「ティア、おかわりは?」
「お腹いっぱい」
ティアが満足そうに答える。
「そうか、じゃあ、風呂に入ってきて」
「……お風呂? ……入る」
良かった。風呂ってなあに? なんて聞かれたら、幼女に風呂の入り方を教えるイベントが発生するところだった。俺にそっちの属性は無いが、親戚でもない、今日会ったばかりの幼女と風呂なんてハードルが高すぎる。
ティアを風呂に案内して、体を吹く布と、着替えに俺のTシャツを渡す。このTシャツはこの世界に来た時、自室に十枚程準備されていた物だ。因みに、ズボンや上着なども準備されていた。
ティアが風呂に入った後、洗濯しようと彼女の服を見たが、それは最初の印象通り、服とは呼べない物になっていた。
森を彷徨っているうちに木の枝などに引っ掛けてしまったのだろう。あちこち破れ、ティアが森でどれ程過酷な生活をしていたかを物語る物だった。
そして、その服がティアの唯一の所持物である。
郷のエルフどもは、ティアに何の装備も持たせず森に追放した事になる。何とも胸糞悪い話だ。
ティアを風呂に案内した後、エルフの郷の住人に怒りを覚えながら、二階に上がる。
かつて健一達の自室だった部屋を一通り確認するが、やはり全員着替えは持って行ったようだ。ちなみに、桃花さんの部屋だけ『女の子の部屋に入るなんて博貴君のエッチ』という書き置きが置いてあり、脱力感でエルフへの怒りがどっかに行ってしまった。
しかし服が無いんじゃあ、一から作るしか無いという事か。まあ、どっちにしてもここにはティアに合う服など無いから、手直しは必要だったが。
一階に降りながら、【裁縫】(1)をレベル10で取得し、製作室に入るとソーイングセットを出して布とゴムも準備した。
先ずはティアが女の子と判明した時に出た問題点から片付けようと思うんだが……女の子の下着なんて、どうやって作ればいいんだ?
【裁縫】スキルで得た知識で考えるが、女の子の下着の構造など解る筈も無く、良いアイデアなど出る訳が無い。仕方がないので、苦肉の策で一着仕上げてみたが……
出来上がったのは、トランクスの足を出す部分にゴムを入れたーー俗に言う『カボチャパンツ』というやつだった。
うむ……取り敢えず作ってみたけど『こんなパンツいやっ!』とか言われたら、精神に取り返しのつかないダメージを受けないだろうか?
言い様の無い不安を感じながら、出来上がったパンツを両手で広げ眺めていると、『ひろにぃどこ~』と言う声が廊下から聞こえてきた。どうやらティアが風呂から上がったみたいだが、『ひろにぃ』って俺の事か?
製作室のドアを開け廊下に顔を出すと、丁度リビングから廊下に出てきたティアが俺を見つけて駆け寄って来る。そして俺の側まで来ると、俺を指差し、『ひろにぃいた』と謎の指差し確認をした。
う~ん、子供のやる事はよく分からんが可愛いからいっか。
風呂から出たティアは、俺のTシャツをワンピースの様に着て、ボサボサだった金髪はサラサラなストレートヘヤーになっていた。しかし、そのせいで元々目を隠していた前髪は更に顔を侵食して、鼻の頭辺りまで達している。
ああ、髪も何とかしないと。まぁ、髪に関しては人の事は言えないけど。
この一年で俺の髪も大分伸びていた。前髪は邪魔にならない程度に適当に切っていたが、後ろ髪は肩甲骨の下辺りまで伸びていて、それを首の辺りで縛って纏めている。
取り敢えず俺の髪はいいけど、ティアのは何とかしないとな。それとパンツか……
俺は変な覚悟を決めながら、ティアを製作室に招き入れる。
「ティア、これ履くか?」
言いながらティアに恐る恐るカボチャパンツを手渡してみたが、ティアはカボチャパンツを広げて小首を傾げた。
「知らない? パンツ。こうやって履くの」
言いながらパンツを履くジェスチャーをすると、ティアは俺の真似をしてパンツを履いた。
「どうだ? 履き心地は」
「ん……大丈夫」
何が大丈夫なのか分からないが、問題無いみたいだからそれ以上の追求はしない。という事で次は髪だな。
パンツの不安を解消し、安堵しながらティアを椅子に座らせ【理容】(1)をレベル10で取得する。鋏は専用の物では無いが、持ってみると問題は無さそうだ。
前髪を目の上辺りで切り揃えながら、ティアに話し掛ける。
「ところでティア。ひろにぃって何だ?」
「ヒロキでお兄ちゃん……ひろにぃ」
当たり前だと言わんばかりにドヤ顔で答える。
まぁ、懐かれたってことだよね。よそよそしくされたり、警戒されてる訳じゃ無いんだから良しとしよう。
「そうか、まぁ呼び名はそれでいいよ」
「ん!」
ティアは満足そうに満面の笑みを浮かべた。
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