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第3章 人間超越編

第29話 再会……やっぱり居ました

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   ーーSide健一ーー

   冒険者ギルドに入ると、中は閑散としていた。
   入り口から左側には四脚の椅子が備え付けられた丸テーブルか五組あり、三人の男女がその内の一組に座りこちらを訝しげに見つめていた。
   右側にはたくさんの紙、おそらくは依頼書が貼られた掲示板が三枚、壁際にならんでいてその奥に登り階段がある。
   そして正面にはカウンターが設置されていて、二人の受付嬢が和かに座っていた。
   僕はヒメを連れ立ってカウンターに向かう。
   左には二十代半ばの普通に綺麗なお姉さん。右には十代後半位の猫耳の女の子。
   迷わず右の猫耳の子の方に向かう。オタクなら当然の選択だよね。ケモ耳最高!

「こんにちは、本日はどういったご用件でしょうか?」

   猫耳の女の子が輝かんばかりの笑顔で尋ねてくるけど、正直困ってしまった。
   そういえば特に用事は無かったんだよね……取り敢えず登録してみようかな。
   そう思いながら左手のテーブルにいた三人組に視線を向けてみる。三人組は僕達に対する興味を失ったのか談笑を始めていた。
   冒険者登録のテンプレは……無さそうだね。せっかく【鑑定の極意】でレベルとスキルを確認してたのに……
   ここに入った時、三人組を見て『新人冒険者への先輩の手荒い歓迎』というテンプレを想像し、【鑑定の極意】で三人組を調べていた。結果、三人組は平均レベル25程でスキルも初級ばかり。井上の所為でレベル50の僕達でも十分対処出来るとホクホクしていたのに非常に残念だ。
   折角異世界に来たのに井上に駒扱いされたり、国にいいように利用されたりと、ロクな扱いを受けてなかったせいか、どうやら僕は異世界のイベントに飢えてるらしい。
   荒事を期待する自分が滑稽に思え、思わず失笑しながらカウンターの猫耳の女の子の方へ視線を戻すと、右手の階段から誰かが降りてくる足音がした。
   無意識に足音がする階段の方へと視線が移る。
   ……はい?
   思わず、頭の中で素っ頓狂な声を上げてしまった。
   階段から降りてきたのは、昭和のマジシャンを連想させるダンディな四十歳位のおじさんだったんだ。
   痩身だけど、体幹が優れている様な佇まい。服装は黒のタキシードに赤の蝶ネクタイ。裏地が赤で表地が黒のマントを羽織り、黒いシルクハットをかぶっている。
   顔立ちは整っているのに、鼻の下に生やした細い眉の様な一対の髭が、折角の容姿を胡散臭く仕上げていた。

「ギルマス!   どうなさったのですか?」

   猫耳の女の子がおじさんを見て驚いていた。
   ギルマス……へー、この人がここのトップなんだ。だったら……
   【鑑定の極意】を使おうとしたら、ギルマスが鋭い視線をこちらに向けてきた。

「ふっふっふっ、【鑑定の極意】ですか?   その程度のスキルでは私の力は測れませんよ」
「!?   ………………」

   僕が使おうとしていたスキルを見破られ呆然としていると、ギルマスが更に続ける。

「ふっふっふっ、何故分かった、という顔ですね。いけませんよ、すぐ顔に出るようでは……ねぇ、そう思いませんか?   姫野美姫さん」
   
   突然名前を呼ばれ、後ろにいたヒメが息を飲む音が聞こえてくる。僕等を手玉に取れて、ギルマスはとても嬉しそうだ。

「ほらほら、完全に私に飲まれてしまってますよ。まだまだ場数が足りませんねぇ、そんなとこでは城にいる魑魅魍魎に良い様にあしらわれてしまいますよ」

   そんなギルマスに今の僕達の現状を的確に言い当てられ、やっと我に返れた。

「ふふっ、僕達の事をよくご存知で」

   虚勢だけど余裕を見せる。この手の癖の強い人には、底を見せて仕舞えば一気に主導権を握られて良い様に丸め込まれてしまう。
   気を張らなくちゃ。

「ふっふっふっ、その意気です。狩野健一君。井上とかいう輩は、完全に宰相に丸め込まれてる様ですからね。君達までそうなってしまっては目も当てられない」
「なるほど、冒険者ギルドは国に力を付けてほしくないわけですか」
「ほほぅ、私の言葉から情報を引き出しますか。なかなか抜け目が無い」
「よく言いますね、わざとやってるくせに」

   言葉の応酬の後、僕とギルマスは互いに『ふっふっふっ』と笑い合う。目は笑ってないけど。
   ひとしきり笑いあった後、ギルマスは突然くるりと背を向けた。

「まぁ、合格点をあげましょう。私について来てください」

   そう言うとギルマスは後ろを向いたまま肩越しに手招きをし、階段を上がり始めた。
   僕とヒメは慌てて後を追う。

「ギルマス。僕達を一体何処に連れてってくれるんですか?」

   追いついてギルマスに尋ねると彼はハッとして、振り返った。

「ああ、そういえばまだ名乗っていませんでしたね。私はレリック。本名は橘龍次と言いますけどね」
「「えっ!」」

   ギルマスの名乗りを聞いて僕とヒメが同時に驚きの声を上げる。だって本名って、どう聞いても日本人だよね……

「……龍次さんは日本人なんですか?」

   ヒメが直球の質問を投げかける。
   ああ、ヒメ直球過ぎるよ。相手は僕達が勇者だと知っている人なんだ、これが僕達を油断させる為の方便だったらどうするの!   もうちょっと駆け引きを覚えてほしいなぁ……

「はい、私は日本人ですよ。まぁ、健一君は素直に信じられないという顔をしてる様ですがね」

   こちらを見ずによくもまあ、見えてるみたいに言うね。しかも日本人だなんて……それはつまり他国の勇者だと言ってる様なものじゃないか……だけどこうなったら仕方がない、ギルマスの話に乗って、色々聞いてみるしかないか。

「と、いう事は龍次さんも何処かの国に召喚された勇者なんですか?」
「いえいえ、私は二百年前の勇者ですよ」
「はぁ~?」「うそ!」

   僕は疑惑の声を、ヒメは驚きの声を同時に上げた。

「二百年前って……勇者は歳を取らないんですか?」
「いえいえ、勇者も普通に歳を取りますよ。ただ私は進化系スキルで人種を仙人に変えてますからね、寿命が異様に長いのです」
「人種をって……そんなスキルがあるんですか?」
「はい。まぁ、取得するのに三十年程かかりましたけどねぇ。これでも私、この世界に来た時は貴方達と同じ位の歳だったのですよ」

   この人、何処まで本当の事を言ってるんだろ?   とても全部本当だとは思えない……

「おやおや、健一君は疑い深いですねぇ……なんなら【鑑定の極意】を使ってみますか?   見える様にスキル妨害の効果を切りますよ」

   ……この人、心を読むスキルでも持ってるんじゃないだろうか?
   でもスキルの妨害ねぇ……まだまだ僕の知らな事は沢山あるみたいだ。

「おっと、もっと健一君と心理戦を楽しみたかったのですが、目的の場所に着いてしまいました」

   また心にも無い事を。心理戦なんて……一方的に僕を手玉に取ってただけじゃないか。
   内心不貞腐れながらも肝心な事は聞いておく。

「ここに誰か居るんですか?」

   ここは二階の廊下の突き当たりの扉の前、つまりこのギルド会館の一番奥の部屋という事になる。
   定番だとこのギルドで一番偉いギルマスの、つまり橘さんの部屋だと思うんだけど……どうも部屋の中から人の気配がするんだよね。

「はい。この部屋にはこの大陸全体の冒険者ギルドのトップ、総統がいらっしゃいます」
「また、随分な大物ですね」
「はい、大物ですよぉ~」

   橘さんはふざけた口ぶりでそう答えると、扉をコンコンとノックした。部屋の中から『はい』と女性の声が聞こえてくる。

「龍次です。例の二人をお連れしました」

   先程までとは打って変わって真面目な口調。この人がこんな口調で対応しているんだ、この部屋の中に居るのが冒険者ギルドのトップと言うのは嘘ではなさそうだ。

「待ってました。入ってもらってください」
「はい、では失礼します」

   橘さんはそう言うと静かに扉を開いた。
   部屋は二十畳程の大きな和室で……って和室ぅ!
   説明で驚いてしまったが、確かに部屋にはい草の匂い漂う真新しい畳が敷き詰められていた。そして部屋の真ん中には部屋の大きさに似つかわしくない小さなコタツが置いてあって、そこに一人の女性がどてらを着て座っている。ご丁寧にコタツの上には網カゴにみかんに似た果物まで入れて。

「あっ……あっ!」

   ヒメが女性顔を見て泣きそうな顔をしたと思ったら、女性に向かって走り出し、飛び込む様に抱きついた。

「かなねぇ!」

   ヒメは泣きじゃくりながら女性の名を叫ぶ。
   ーーそう、冒険者ギルドの総統は、僕達がこの世界に来る一年前に行方不明になっていたかなねぇーー天野香奈美だった。
   
   
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