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第3章 人間超越編
第30話 初源の勇者……そして迷惑な組織
しおりを挟む「はいはーい、ヒメちゃん落ち着いた?」
軽い口調だけど優しさのこもった声で、かなねぇが自分の胸で泣くヒメを撫でながら宥める。
普段無邪気ながらも気丈なヒメが、涙を流すのは珍しい。だけど、今は例外。ヒメにとってかなねぇは幼馴染みであり、姉であり、母の様な存在なんだ。その無事な姿を見て涙を流すのは当たり前の事。まあ、それは僕や博貴も同じなんだけどね。
「ふっふっふっ、感動的な光景ですねぇ」
熱くなった目頭を押さえていると、隣で橘さんがそう言いながら出てもいない涙を拭くそぶりを見せていた。
この人は……何でこうも行動の一つ一つが胡散臭いのだろう……
感動の再会が、橘さんの胡散臭さで無残に塗り潰される。気持ちが萎えてしまいそうになるけど、グッと堪えてかなねぇへと向き直った。
「かなねぇ……」
「はあ~い、けんちゃん。右手は空いてるわよ、けんちゃんも私の胸に飛び込む?」
「………………結構です」
左手でヒメの頭を撫でながら、意地の悪い笑みで空いている右手で手招きするかなねぇの提案を、脱力しながら丁重にお断りする。
そうだった……この人も相手のペースを乱すのが好きな人だった……
息をする様に自然体で僕を翻弄してくる年長者二人に、軽い殺意を覚えながらも何とか自制して、真面目な話に持ち込む。
「かなねぇ……何でかなねぇが冒険者ギルドの総統に? っていうかかなねぇはいつこの世界に来たの? なんか行方不明になった時と姿が変わってないけど……」
「アッハッハ、質問責め? けんちゃんはせっかちだねぇ。まっ、その辺の話はおいおい話すから、先ずはおこたに入ったら? ミカンもあるよ」
「ミカン、ねぇ……それはテルムルの実でしょう。味はメロンに近かったと思ったけど? それに、コタツに入る様な陽気でもないでしょうに……」
そう言いながらも、僕はかなねぇの正面に座る。我ながら律儀だと思うけど、ここは言うとうりにしとかないと話が果てしなく脱線していきそうで怖い。
「けんちゃんは相変わらずだねぇ」
笑いながらかなねぇは右手を差し出してくる。
「かなねぇも変わらない様で何よりだね」
答えながら僕はかやねぇの手を握り返した。
それから、落ち着いたヒメが僕の右手に座り、橘さんが左手に座って今度こそ真面目な話が始まる。
「そうねぇ……、先ずは私の事から話そうか……」
そう言ってかなねぇはその顔から笑顔を消した。やっと真面目な話が出来ると内心ホッとする。
「私はね、百年前の『風の国』の勇者なの」
「えっ、でもかなねぇ若いよ」
ヒメに若いと言われ、かなねぇが笑顔になった。
「ふっふっふっ、私は永遠の十八歳なのよ。いいでしょう」
凄まじく勝ち誇った顔で、かつてのアイドルの様なセリフを吐くカナねぇにヒメが羨望の眼差しを向けている。
歳をとらない……ね、橘さんと同じ進化系スキル?
いや、橘さんはそれを取得するのに三十年かかったと言っていた。それが本当だとしたらカナねぇは若過ぎる。だとすると……
「それがカナねぇのオリジナルスキルの効果かな?」
そう結論づけ確認を取ると、とカナねぇは渋い顔をしてこちらを振り向いた。
相変わらず表情がころっころ変わる人だ。
「むーーー! けんちゃんは正解出すの早すぎ。そうよ、私のオリジナルスキルは【年齢詐称】。まぁ、歳を自在に出来るだけだから、戦闘の役には立たないけどね」
「はは、成る程。じゃあ、どうしてギルドの総統なんかに?」
「うん、その話をする前にけんちゃん、初源の勇者の話は知ってる?」
「え? うん、城の書庫で文献を読んだよ。何でも五百年前に現れて魔王を倒したとか」
あまりに暇だったから以前、書庫でその手の話を調べた事があった。まぁ、ラノベの代わりにはならなかったけど、それなりに楽しく読めた。
何でも初源の勇者は僕達みたいに複数ではなく、たった一人だったらしい。そして神はそのたった一人の勇者にありったけの力を与えた。
当時、魔物は間引く事も出来ず増える一方で、ついには魔物王なる者すら出現したというのだから、それに対抗する為の処置だとすれば、当然だろう。
そしてそれ以降、神は複数の勇者を百年ごとに召喚している。白い部屋で僕達は魔物を倒す為と聞いていたけど、実際は魔物王の再発防止の為らしい。
ここで僕は疑問に思った。そもそも魔物とはどうやって生まれるのか? 書庫で調べたけど、結局その答えが乗ってる本は見つけられなかった。
「うん、で、その勇者が神から直接力を貰ったっていう話は?」
「勿論知ってるけど」
「そう。じゃあ、その後に来た四百年前の勇者達にも初源の勇者程ではないけど、それなりの力を与えてたという話は?」
「えっ! それは初耳だよ。僕らみたいに【恐怖耐性】、【料理】、【世界共通語】のスキルとかじゃなくて?」
「うん。どうやら進化系スキルを与えてたみたいなのよ」
「はぁ~?」
それは驚きだ。だとすれば、破格の対応と言っていい。
「と言う事は、四百年前の勇者はこの世界で大した苦労も無く、強力な力を手に入れたと……それは、増長するよね」
思わず井上を思い浮かべてしまった。まあ、あいつの場合は王女に言い寄られ『もう、この国は俺の物も同然』と思い込んでるだけで、実際は宰相の手の平でいい様に転がっているだけだけどね。
「ええ、もう好き勝手。生き残った二十人程が『光の国』に集まって調停者なんて大層な組織を作ったわ」
「……まさか、まだ生きてるの?」
「そうよ。そして勇者が召喚される度に選定してスカウトしてってるから、今は四十人位になってるかしら」
「勇者が四十人……結構な戦力だよね。で、その組織は何の為の組織なの?」
そう尋ねるとかなねぇは困った様な顔で大きな嘆息をついた。
「そうねぇ~敢えて言うなら、出る杭を打つ組織?」
「……なにそれ?」
「目立ってる奴を殺っちゃったり、力を持っていながら自分たちの組織に入らない奴を集団でボコボコにしたり」
「え~と、それは自分たち以外、力を持つ事は許さないって事?」
そう答えるとかなねぇは満足そうに頷いた。
これは、かなねぇはその調停者とかいう組織にいい感情を持ってないな。
「そう解釈して貰って構わないわ。今のけんちゃんなら理解出来ると思うけど、私も『風の国』の連中に嫌気がさしてね、死んだ様に偽装して国を出たの。だけど今度は調停者に目を付けられちゃって。それで同じ様な境遇の人たちと協力して、当時国ごとにバラバラだった冒険者ギルドを一つに纏めて、調停者に対抗したのよ」
「そうだったんだ……」
「と、言う事で私の話はこんな所ね。で、今度はけんちゃんたちの話を聞こうかしら」
そう言うとかなねぇは底意地の悪い笑みを浮かべた。
あっ、これは普通に話を聞くつもりは無いみたいだ……
かなねぇ、この世界で百年もの年月を生きてきたっていうのに、全然変わってないや。
ちょっと安心した様な、ちょっとは成長していて欲しかった様な……
「先ずは、一番気になってた事だけど、ひろちゃんはどうしたの? まさか、ひろちゃんだけこっちに来なかったとか?」
「その事なんだけど、博貴は……」
僕は博貴の現状を話した上で、博貴の安否確認をかなねぇに頼んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カナねぇの容姿描写をし忘れてしまいました。
後にやらせていただきます。
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