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第3章 人間超越編
第35話 対御老体……老人虐待じゃないよね、多分
しおりを挟む「お断りします」
老人の申し出をキッパリと断ると、御老体の額には切れるんじゃないかと心配になる程クッキリと青筋が浮かんだ。
「小僧。今、何と言った?」
御老体のドスのきいた声は怒りに震え、その身から溢れる魔力は周りに威圧を与える程、色濃く現れ始める。実際、周りにいた騎士達はその魔力に恐怖し、御老体から距離を取り始めた。
しかし、俺から見ればその魔力も矮小にしか見えない。
言う事を聞かなければ脅すか……全く、捻りも無しとは、宥め賺すって言葉を知らないのかねぇ。
御老体の態度に呆れる。どうせ戦闘は避けられないのだから冷静さを損なわせる為に少し小馬鹿にしてみるか。
「御老体は耳が遠いのですか? こ、と、わ、る、と言ったのですが」
「きぃさぁまぁ!」
今度は声だけでなく、体まで震わせる。額の青筋も五、六本増えたみたいだ。
周りに居る騎士達が『正気か?』という顔で俺を見る中、御老体が吠える。
「こちらが下手に出ていれば良い気になりおって!」
いやいや、あんたいつ下手に出たよ。
俺が心の中でツッコミを入れていると、御老体は右手をこちらに向けた。
「貴様など、我が傀儡として一生こき使ってやるわ! 自我は残してやるから自分の愚かさを一生悔いるが良い!
喰らえ【超級闇術】マインドコントロール」
[精神攻撃を感知しました。レジストーー成功しました]
御老体渾身の精神操作系魔法をあっさり無効化したと、アユムは淡々と報告する。
ま、能力値の差があり過ぎるんだ、当然と言えば当然の結果だろう。
俺はしたり顔の御老体を冷やかに見つめ、一言呟く。
「で?」
その一言で、御老体のしたり顔は驚愕へと変わる。
「ば、馬鹿な! 超級の精神操作魔法が効かぬのか……そうか! あの勇者供め! 貴様に魔法を無効化させる魔道具でも与えておったな!」
何か自己完結したみたいだが、自分より俺の方が強いという結論には至らなかったらしい。魔力2400強で放った超級闇術をレベル0の奴が無効化する魔道具って、古代級か神級のアイテムになると思うけどその辺、分かって言ってるのかねぇ。
俺が御老体の正気を疑っていると、老人は懐に手を入れ、二本の骨を取り出した。
あれ? 本当に正気を失ってる?
骨を取り出した意味が分からず、本格的に御老体の正気を疑っていると、御老体は高らかに笑い始めた。
「ふっははは! これはワイバーンの骨よ! 魔法が効かぬなら、物理的に貴様を無力化してくれるわ! 出でよドラゴンボーンウォーリアー!」
老人が叫びながら二本の骨を投げる。すると、骨は二体のスケルトンへと姿を変えながら地面に降り立った。いや、ただのスケルトンとは違う。体は人の様だが頭蓋骨はドラゴンのそれになっている。そして、御丁寧に剣と盾を装備していた。
(何あれ?)
〈魔道具作製スキルで加工したワイバーンの骨を、錬金術で変質させて作った魔法生物ですね〉
(ふーん、トモ鑑定)
〈了解しました〉
簡潔に指示を出すと、ドラゴンボーンウォーリアーのステータスが表示される。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
名前 ドラゴンボーンウォーリアー Lv 200
魔法生物種 スケルトン
状態 正常
HP 10500/10500
MP 6000/6000
体力 2100
筋力 2200
知力 1
器用度 500
敏捷度 1200
精神力 500
魔力 1200
〈ノーマルスキル〉
刺突耐性Lv10
硬骨体Lv10
〈エクストラスキル〉
上級剣術Lv10
上級盾術Lv10
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(おいおい、レベル0を拘束するには過剰戦力じゃないのか? まっ、問題は無いけど。でも、硬骨体って何?)
[スケルトン系のモンスター特有スキルで、骨の強度を上げるスキルです]
(? ……魔物じゃなくてモンスター?)
[はい。種が魔物ではありませんから……! 来ます。説明は後ほど]
(了解)
アユムとの念話を切り、二体並んで迫って来るドラゴンボーンウォーリアーに目を向ける。
硬骨体ね……どんくらい硬いんだろ?
【忍ぶ者】と【武を極めし者】を発動し、一気にドラゴンボーンウォーリアーとの間合いを詰める。
ドラゴンボーンウォーリアー達は突然目の前に現れた俺に剣を振り上げるが、その剣が振り下ろされる前に左側のドラゴンボーンウォーリアーの頭蓋骨にフック気味に右拳を叩きつける。頭蓋骨が砕け散ったのを確認し、返す拳の裏拳で右側のドラゴンボーンウォーリアーの頭蓋骨も叩き割った。頭蓋骨を失った二体のドラゴンボーンウォーリアーは、骨をバラバラにしながらその場に崩れ落ちる。
「思ったより硬くなかったな」
《【闘士】から【武を極めし者】にパワーアップした時に、中に入ってた【剛力】も一緒にパワーアップしてるもん、当たり前だよ》
ちょっと拍子抜けしてると、ニアがノリノリで解説する。その戦いの場に似つかわしくない口調に苦笑いを浮かべながら御老体達を見ると、皆唖然としてこちらを見つめていた。
「な……なっ、何なんじゃ貴様はー! 虎の子のドラゴンボーンウォーリアーを素手でじゃとー! あり得ん! あり得んのじゃー!」
今度こそ正気を失ったか? と、思ってしまう程大声で喚き散らす御老体。
高価そうな服を着た老人が、狼狽えながら大声を出す姿を見ると、少し哀れに見えてきた。
しかし、その哀れな老人は俺を餌にして健一とヒメを政治の道具として利用しようとした人物。
俺の事はどうでもいいが、健一とヒメを利用しようとした事は許せる許容範囲を超えてしまっている。
俺はゆっくりと老人の方に歩き始めた。
「ひっ!」
それをみた御老体と騎士達は短い悲鳴を上げ、こちらを見ながらジリジリと後ずさる。
「逃げるな」
低い声で無感情に警告を与え、指をパチンッとならす。
シュッ……トスッ!
「ひっ!」
俺の合図に答えたティアの放った矢が、御老体の足元に刺さり御老体は再び悲鳴を上げてその場に止まった。
「逃げれば俺の相棒が容赦無く貴様らを射るぞ。言っとくが相棒の実力は俺と同等クラスだからな」
俺の警告を聞き、御老体達の表情が絶望の色に染まる。その表情から、もう俺が弱者などとは考えていない事が窺える。
「さて……」
御老体の側まで近づき、話始めようとした時、
「お待ち下さい!」
今まで馬車の近くで震えながら事の成り行きを見ていた少女が、俺と御老体の間に割って入った。
「健一さんと美姫さんに近づいて貴方の情報を引き出したのは私で……」
「そんな事は分かってる」
少女の口上が途中の段階で少女の首根っこを掴み、脇にポンッと優しく放り投げる。
「えっ!」
地面に座り驚いた顔で見上げる少女に、静かな口調で語りかける。
「こんな欲まみれの老人に身の上話をする程、ヒメは世間知らずじゃ無い。少なくともヒメの信頼を勝ち取ったお前に危害を加える気は無いから、そこで大人しくしていろ」
「ですが!」
「お、と、な、し、く!」
なおも食い下がろうとする少女に少し強めの口調で諭すと、コクコクコクと無言で頷いてくれた。
《マスター。今の威圧はただの女の子には酷だよ》
ニアが今の行動に苦言を呈する。
えー、ちょっと強めに言い聞かせただけなのに、やり過ぎになるの? うーん、力の加減が分からない。
人間種に対する力の加減を覚えないといけないなあ、と思いつつ俺は御老体に向き直った。
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