理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優

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第3章 人間超越編

第41話 カナねぇとの腹の探り合い……でも侮れないのはやっぱりナイスミドル

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「では改めて、私はフロライン。冒険者ギルドの総統をしてます」

   席に座ったかなねぇは先ずそう挨拶した。

(それが今のかなねぇの名前と肩書きか……)
〈冒険者ギルドの総統ですか、中々の大物ですね〉
(ギルドって確か同業者組合の事だったよな。偽名は何の為だろう?)
《マスター達の名前って、響きが独特で目立つからじゃない》
(そうか……勇者って事を隠すなら日本名は目立つのか……)

   俺もこの世界で勇者の肩書きを捨てて暮らすなら、偽名を考えないといけないかなぁなどと思いつつ、トモ、ニアとの念話を一旦中断し、かなねぇの丁寧な挨拶に答える。

「これは御丁寧に、俺は桂木博貴。ここに来たという事は、既に存じているとは思いますが、勇者の出来損ないです」

   かなねぇの丁寧な挨拶に取り敢えず合わせつつ、出来損ないを強調して答える。
   しかし、そんなよそ行きの挨拶交わす二人を、レリックさんが一刀両断にした。

「ふぅ、博貴殿はまだそんな戯言事を宣うのですねぇ。それとフロライン様、今更取り繕っても、既に入り口でのやり取りを後ろの四人は聞いているのですよ。回りくどい言い回しはおやめになっては?」
「ああ!   もう、折角猫かぶってたのに何でそう横槍をいれるかなぁ」

   両手をブンブンと振り回しながら駄々っ子の様に文句を言うかなねぇ。そしてそれを驚いた顔で見つめる冒険者四人。
   いやいや、被ってた猫はレリックさんの言った通り入り口で脱いじゃってるよね。
   カナねぇの行動に嘆息を吐きながら、俺の後ろで隠者のローブのフードを被って気配を殺してたティアの方に視線を向ける。

「ティア、悪いけどお茶と茶菓子を準備してくれる?」
「ん、あれを出すの?」

   一瞬、嫌な顔をするティア。あれとは最近、食後のデザートとして出していた物で、作り置きがまだ冷蔵庫もどきの勝手に冷える箱の中に入っていたはずだ。

「また幾らでも作ってやるから、人数分切り分けて持ってきて」
「……ん」

   ティアは渋々頷き厨房へと消えていった。

「へ~、結構仲いいんだね~」

   言われてかなねぇの方に視線を戻す。するとかなねぇはテーブルに両肘を付き、両手を顎に添えてニヤニヤしながら俺を見ていた。

「それであの子は誰なの?   あんまり親密になると、後でヒメちゃんが爆発するわよ」

   何故そこでヒメの名前が出るのかは知らないが、かなねぇは冷やかす気満々のご様子。
   ここで変に狼狽えると、かなねぇに主導権を握られるな……かなねぇの冷やかしグセはタチが悪いからなぁ、冷静に対処しないと。
   
「あの子は偶々、行動を共にする事になった子だよ。それより、フロラインさんは俺の情報をどこで?」

   俺が冷静に対処した事で、かなねぇは少しムッとする。

「ま~たそんな分かり切った事聞くの?   そんなのけんちゃん達に決まってるでしょ」

   予想はしていたが、やっぱり健一だったか……

「健一はフロラインさんに会って何の躊躇も無く俺の情報を?」

   睨む一歩手前位の視線でかなねぇを見据え、声のトーンを落として尋ねる。すると、かなねぇも戯けた表情を消し、笑みを浮かべた。

「あら、けんちゃんが私に何の躊躇をする必要があるの?」
「フロラインさんがかつてのフロラインさんなら、俺も無条件で信用するんだけどね……その辺の事は健一なら理解出来ると思ってたんだけど……」

   俺がそう言うと、かなねぇは天を仰いだ。

「あ~あ、やっぱりひろちゃんは警戒するかー」
「そりゃあそうでしょ。冒険者ギルドの総統様相手に迂闊な約束でもしようものなら、権力闘争の道具にでも使われかねない」
「そんなつもりは……ちょっとしか無いわよ。けんちゃん達にだって私の事はちゃんと説明したもの」
「ちょっとはあるんかい!   ……って、今のフロラインさんの立場を知った上で健一達は俺の事を話したのか?」

   驚きだ。てっきり昔のよしみを最大限に生かして情報を引き出したのかと思ってたけど……
   俺が驚くと、かなねぇがまたニヤァっと笑う。

「あっらぁ、長い付き合いなのに分からなかったの?   けんちゃんはね、人のあしらいは上手いけど、腹の探り合いはイマイチなのよ」

   ……そう言えば健一って、自分の興味外の事には無関心だったな。だから、気に入らない人間をあしらう技術は高いけど、気に入らない人間の腹を探る気なんてもともと持ち合わせていないから、腹の探り合いは下手だったのか。あれ?   という事は……

「もしかして健一達って、城で腹黒い奴らにいい様にされてる?」

   心配になりそう聞くと、かなねぇの隣に座るレリックさんが嘆息混じりに口を開いた。

「ええ、それはもう。このまま行けばその内傀儡にされると思い、先日お会いした時に少しばかり喝を入れさせて頂きました」

   レリックさんの喝って……
   先程の精神的に疲れるやり取りを思い出し苦笑いを浮かべていると、ティアがお盆を持ってリビングに入って来る。

「ああっ!」
「……ほう」

   お盆に乗っている物を見て、かなねぇが大声を上げ、レリックさんが感嘆の声を上げる。
   やっぱりこの世界にはこの手のお菓子って無いんだな。
   二人の反応を見て、そう確信する。
   ティアが持って来たのはケーキ。スポンジに生クリームを塗ってフルーツをトッピングしたシンプルな物だが、【至高の料理人】の補正によって、極上の仕上がりになっている。
   ティアがケーキを並べていくと、かなねぇは自分の前に置かれたケーキに釘付けになった。

「ひろちゃん……これって……」

   カナねぇがケーキを睨みつけながら、体をワナワナと震わせている。

「ケーキだよ。やっぱりこの世界には無いの?」
「無いわよ!   お菓子っていったら硬いクッキーとか、飴とか、手間の余りかからない物ばかりだもの」
「勇者が再現しなかったの?」
「【料理】スキルを持ってる勇者なんていなかったわよ!   そう言えば今回の勇者は最初っから付けてもらってたんだっけ?」
「そう言えばそんな事いってたっけ。前の勇者が料理出来なくて栄養失調や食中毒になったとか……」

   俺がそう言うと、かなねぇは勿論、レリックさんまで無言で渋い顔をした。口に出したくはない、トラウマでもあるんだろうか?

「まぁ……そんな事はどうでもいいわ。これ、頂くわね」

   かなねぇはそう言うが否やフォークでケーキを一口サイズに切り分け、口に運び満面の笑顔を浮かべた。
   かなねぇが食べたのを見て、冒険者四人も手渡されていた皿に乗ったケーキをフォークで食べ始める。
   そして驚愕の表情になった後、満面の笑みを浮かべる。

「何これ!」
「うまっ!」

   皆が笑顔でケーキに舌鼓を打っている中、レリックさんだけが一口食べた後、真面目な顔でジッとケーキを見つめていた。

「このケーキは、博貴殿がお作りに?」
「えっ、ええ、そうですけど……」

   ケーキを見つめたまま突然質問されて慌てて答えると、レリックさんは『う~む』と唸った後、俺に視線を向ける。

「このケーキの味、完成度から推測するに、博貴殿は【料理の達人】……いや、【至高の料理人】を取得されてると見ましたが?」

   ああ、この人はお茶請けからもここまで情報を引き出しすのか……
   俺は頭を抱えた。

   
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

   冒険者四人組にカナねぇ達が元勇者だとバレない会話を、と思いましたが、この会話を聞いていたら察しますよね。
   その辺は突っ込まないで下さい。
   神尾優でした。

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