理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優

文字の大きさ
51 / 172
第3章 人間超越編

第47話 ヒヒイロカネ……その起こし方は二度としないで下さい

しおりを挟む
   
   
   
   
「かなねぇ達は大人しく帰ったみたいだね。でもーー」
《あちらさんは帰ってくれないねぇ》

   ニアの言葉を聞きながら、玄関前の広場の奥の森の中に目を向ける。
   【千里眼】で確認すると、木の陰からこちらを窺う一つの影。

〈【気配察知】にかからないという事は【忍ぶ者】を持ち、マスターとのレベル差がかなりあるという事ですね〉

   トモの言う通り、あの人影は【気配察知】に引っかからない。では何故気付いたかというと、かなねぇ達を【千里眼】で確認した時、偶々視界にかなねぇ達を尾行するあの影を見つけたのだ。

「かなねぇ達のお客さんだと思ったんだけどなぁ」
[一体何処の手の者でしょうか?]

   アユムの疑問に肩をすくめて答える。

「さて、何処だろうね。かなねぇの現在の立場を考えれば、国、組織、何処が差し向けていても不思議じゃないからなぁ」
〈今の段階で考えるのは無駄ですか〉
「そういう事。まあ、この中にいる以上手出し出来ないだろうから、今の所は放置だね」

   今の俺にかなねぇが連れてきた間者なんて興味なし。俺の興味は今、ヒヒイロカネに集中している!
   結構重大かも知れない問題をポイッとぶん投げ、俺は鍛冶場へとルンルン気分で向かった。

   ⇒⇒⇒⇒⇒

   鍛冶場で炉の前に座り、ヒヒイロカネを眺める。
   赤っぽい色で表面が蜃気楼の様に揺らめいて見えるこの鉱物は、俺の記憶が確かなら、日本最古の鉱物の一つで三種の神器にも使われたと言われている代物だった筈。
   槍の穂先に使っても良いけど、この揺らぎは武器の長さを相手に錯覚させる事が出来るかも知れない……だとすれば、奇襲用の武器に最適だよな。
   鉱物の量的に作れるのは剣一本分。短刀なら二本行けるか?
   ヒヒイロカネを手に入れてからずっと考えていた構想を頭の中でまとめて行き、二振りの短刀のイメージが頭の中で固まる。
   よし!   じゃあ始めますか。
   気合いを入れ、先日倒したハイヒューマンの核を取り出す。今現在持っている核の中で一番内包する魔力が多い核だが、実はこれでもヒヒイロカネを加工出来る程の熱量が出るのか微妙な所だ。
   核を炉にセットして、炉が過熱するのを待ってからヒヒイロカネを炉の中に投入する。
   ここからは時間の勝負だ。核の魔力が尽きるのが早いか、短刀を完成させるのが早いかーー
  ヒヒイロカネが加工可能な温度に達したのを確認し安堵しながらも直ぐに取り出して二つに割ると、一つは炉に戻し、もう一つを金槌に魔力を込めて形を整え始める。
   この金槌に魔力を込めるという技術は、【至高の鍛冶屋】を取得した時に出来る様になったものだ。加工がし易い上に鉱物の硬度も上げてくれるという優れた技術である。
   一振りめの形が大体出来上がったところで一度炉に戻し、もう一振りの方も同じ様に形を整え始める。
   筋力7290は伊達じゃない。かなりの硬度を誇る筈のヒヒイロカネが面白い様に形を変えていく。
   そうして数度、叩いては炉に入れるを交互に繰り返し二振りの短刀は出来上がった。

[お疲れ様です]

   完成し、グッタリしているとアユムが労いの言葉をかけてくれる。

(いやー、思ったより疲れたわ。いつもなら炉で熱してる間は休めるげど、二本同時はきついね)

   鍛冶は集中力勝負なところがある。ちょっとでも途中で集中力を切らすと仕上がりの出来栄えが変わるどころか、元となる鉱物のランクすら下がっている事があるのだ。
   鉱物のランクが下がると二度と上がる事は無い。
   とにかく古代級のヒヒイロカネを失敗せずに仕上げた事に極上の達成感を感じ、それを噛み締める様に静かに目を閉じるーー

   ゴンッ!

   何かとてつもない衝撃を頭に感じ目を開けると、背後に気配がする。振り返ると、ティアが両手を後ろ手に組みこちらを見ていた。

「ん、夕食を所望」

   目が合うとご飯を催促してきたが、俺としては後ろに回した手が気になる。

「えーと、ティアさん?」
「ん?」
「その後ろに回した手を見せてくれるかな」
「ん」

   左手をそのままに、右手だけ見せるティア。

「……両手を見せて」
「……出来ない」
「何故?」
「ひろにぃなかなか起きないから目覚まし」
「……一体何を目覚ましに使ったぁ!」

   吠えるとティアはバックステップを駆使して部屋から脱兎の如く出て行った。

「はぁ~、最近のティアは段々過激になっていく……」
《だってティアちゃんが一生懸命優しく起こしてるのに、マスターたら、中々起きなかったんだよ》

   ティアを擁護するニアの言葉に何か引っかかりを感じる。
   今のニアの言い回しは、ティアが一生懸命俺を起こしてるのに起きないから自分が何か吹き込んだ。と、取れるのだが気のせいか?

(ニア、ティアに何を吹き込んだ?)
《絶対にマスターが起きる方法》

   カマをかけるとあっさり白状するニア。
   しかし、何を使ったかは絶対に言わず、トモやアユムに聞いても『私達は止めたのです』と言うだけで結局教えてもらえなかった。
   一体俺は何で起こされたのだろう?
   疑問が晴れず悶々としながら今日の夕食をすました。

   ⇒⇒⇒⇒⇒

「いや~、何がどうとは言えないけど、とにかく酷い目にあったなぁ」

   制作室で愚痴りながらも短刀の柄を作成し終わり、今は硬白木という木材を鞘に加工している。

「絶対にあれは鈍器だったよな。鈍器は目覚ましじゃなくて凶器なんだよ。ニアさんはその辺理解してるのかね」

   徹底的に愚痴ってやるが誰も答えてくれず、独り言になっている。
   そうこうしてるうちに、【至高の木工職人】と【神の手】のコラボでとんでもない速さで鞘が仕上がる。

「出来た。トモ鑑定」
〈了解しました〉

   愚痴ってる時は黙ってるくせに、こちらの指示にはすぐに対応するスキルに若干の不満を感じつつ、新しい得物の確認をする。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

   疾風(はやて)

   必要筋力   580
   攻撃力      875

   ヒヒイロカネで作られた全長40センチの短刀。ヒヒイロカネの特性で刀身には揺らぎが生じている。敏捷性向上、精神力向上、刺突力向上。
  
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

   陽炎(かげろう)

   必要筋力   520
   攻撃力      800

   ヒヒイロカネで作られた全長30センチの短刀。ヒヒイロカネの特性で刀身には揺らぎが生じている。敏捷性向上、気配隠蔽向上、斬撃力向上。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「うん、上出来だ……ティア!」

   新しい得物の出来に大満足し、早くティアに見せたくて大声で呼ぶ。

「……ん」

   ティアは何故か入り口の陰に身を潜め、片目だけでこちらを確認しながら返事をする。
   あれ?   まさかさっきの鈍器の事を気にしてる?   食事の時は何事も無い様な素ぶりだったのに……
   これはあれか、その場の勢いでやっちゃったけど時間が経つにつれ罪悪感が徐々に浸透してきて、今頃になって怒ってたらどうしようと思い悩むやつ。
   まぁ、罪悪感を感じているなら許してやるか。というか、どちらかというとニアに罪悪感を持ってもらいたいのだが……

「ティア、もう気にしてないからこっちにおいで」

   優しく声をかけると、ティアはおずおずと近くまで来る。

「ほら、新しい得物だ」

   言いながら陽炎を渡してやる。

「ん、ありがと」

   沈んだ声で受け取ったティアだったが、陽炎の性能を見て徐々に瞳を爛々と輝かす。

「ん!   新しい得物!」

   そしていつもの様に誇らしげに陽炎を掲げた。

   
   
しおりを挟む
感想 165

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...