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第3章 人間超越編
第47話 ヒヒイロカネ……その起こし方は二度としないで下さい
しおりを挟む「かなねぇ達は大人しく帰ったみたいだね。でもーー」
《あちらさんは帰ってくれないねぇ》
ニアの言葉を聞きながら、玄関前の広場の奥の森の中に目を向ける。
【千里眼】で確認すると、木の陰からこちらを窺う一つの影。
〈【気配察知】にかからないという事は【忍ぶ者】を持ち、マスターとのレベル差がかなりあるという事ですね〉
トモの言う通り、あの人影は【気配察知】に引っかからない。では何故気付いたかというと、かなねぇ達を【千里眼】で確認した時、偶々視界にかなねぇ達を尾行するあの影を見つけたのだ。
「かなねぇ達のお客さんだと思ったんだけどなぁ」
[一体何処の手の者でしょうか?]
アユムの疑問に肩をすくめて答える。
「さて、何処だろうね。かなねぇの現在の立場を考えれば、国、組織、何処が差し向けていても不思議じゃないからなぁ」
〈今の段階で考えるのは無駄ですか〉
「そういう事。まあ、この中にいる以上手出し出来ないだろうから、今の所は放置だね」
今の俺にかなねぇが連れてきた間者なんて興味なし。俺の興味は今、ヒヒイロカネに集中している!
結構重大かも知れない問題をポイッとぶん投げ、俺は鍛冶場へとルンルン気分で向かった。
⇒⇒⇒⇒⇒
鍛冶場で炉の前に座り、ヒヒイロカネを眺める。
赤っぽい色で表面が蜃気楼の様に揺らめいて見えるこの鉱物は、俺の記憶が確かなら、日本最古の鉱物の一つで三種の神器にも使われたと言われている代物だった筈。
槍の穂先に使っても良いけど、この揺らぎは武器の長さを相手に錯覚させる事が出来るかも知れない……だとすれば、奇襲用の武器に最適だよな。
鉱物の量的に作れるのは剣一本分。短刀なら二本行けるか?
ヒヒイロカネを手に入れてからずっと考えていた構想を頭の中でまとめて行き、二振りの短刀のイメージが頭の中で固まる。
よし! じゃあ始めますか。
気合いを入れ、先日倒したハイヒューマンの核を取り出す。今現在持っている核の中で一番内包する魔力が多い核だが、実はこれでもヒヒイロカネを加工出来る程の熱量が出るのか微妙な所だ。
核を炉にセットして、炉が過熱するのを待ってからヒヒイロカネを炉の中に投入する。
ここからは時間の勝負だ。核の魔力が尽きるのが早いか、短刀を完成させるのが早いかーー
ヒヒイロカネが加工可能な温度に達したのを確認し安堵しながらも直ぐに取り出して二つに割ると、一つは炉に戻し、もう一つを金槌に魔力を込めて形を整え始める。
この金槌に魔力を込めるという技術は、【至高の鍛冶屋】を取得した時に出来る様になったものだ。加工がし易い上に鉱物の硬度も上げてくれるという優れた技術である。
一振りめの形が大体出来上がったところで一度炉に戻し、もう一振りの方も同じ様に形を整え始める。
筋力7290は伊達じゃない。かなりの硬度を誇る筈のヒヒイロカネが面白い様に形を変えていく。
そうして数度、叩いては炉に入れるを交互に繰り返し二振りの短刀は出来上がった。
[お疲れ様です]
完成し、グッタリしているとアユムが労いの言葉をかけてくれる。
(いやー、思ったより疲れたわ。いつもなら炉で熱してる間は休めるげど、二本同時はきついね)
鍛冶は集中力勝負なところがある。ちょっとでも途中で集中力を切らすと仕上がりの出来栄えが変わるどころか、元となる鉱物のランクすら下がっている事があるのだ。
鉱物のランクが下がると二度と上がる事は無い。
とにかく古代級のヒヒイロカネを失敗せずに仕上げた事に極上の達成感を感じ、それを噛み締める様に静かに目を閉じるーー
ゴンッ!
何かとてつもない衝撃を頭に感じ目を開けると、背後に気配がする。振り返ると、ティアが両手を後ろ手に組みこちらを見ていた。
「ん、夕食を所望」
目が合うとご飯を催促してきたが、俺としては後ろに回した手が気になる。
「えーと、ティアさん?」
「ん?」
「その後ろに回した手を見せてくれるかな」
「ん」
左手をそのままに、右手だけ見せるティア。
「……両手を見せて」
「……出来ない」
「何故?」
「ひろにぃなかなか起きないから目覚まし」
「……一体何を目覚ましに使ったぁ!」
吠えるとティアはバックステップを駆使して部屋から脱兎の如く出て行った。
「はぁ~、最近のティアは段々過激になっていく……」
《だってティアちゃんが一生懸命優しく起こしてるのに、マスターたら、中々起きなかったんだよ》
ティアを擁護するニアの言葉に何か引っかかりを感じる。
今のニアの言い回しは、ティアが一生懸命俺を起こしてるのに起きないから自分が何か吹き込んだ。と、取れるのだが気のせいか?
(ニア、ティアに何を吹き込んだ?)
《絶対にマスターが起きる方法》
カマをかけるとあっさり白状するニア。
しかし、何を使ったかは絶対に言わず、トモやアユムに聞いても『私達は止めたのです』と言うだけで結局教えてもらえなかった。
一体俺は何で起こされたのだろう?
疑問が晴れず悶々としながら今日の夕食をすました。
⇒⇒⇒⇒⇒
「いや~、何がどうとは言えないけど、とにかく酷い目にあったなぁ」
制作室で愚痴りながらも短刀の柄を作成し終わり、今は硬白木という木材を鞘に加工している。
「絶対にあれは鈍器だったよな。鈍器は目覚ましじゃなくて凶器なんだよ。ニアさんはその辺理解してるのかね」
徹底的に愚痴ってやるが誰も答えてくれず、独り言になっている。
そうこうしてるうちに、【至高の木工職人】と【神の手】のコラボでとんでもない速さで鞘が仕上がる。
「出来た。トモ鑑定」
〈了解しました〉
愚痴ってる時は黙ってるくせに、こちらの指示にはすぐに対応するスキルに若干の不満を感じつつ、新しい得物の確認をする。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
疾風(はやて)
必要筋力 580
攻撃力 875
ヒヒイロカネで作られた全長40センチの短刀。ヒヒイロカネの特性で刀身には揺らぎが生じている。敏捷性向上、精神力向上、刺突力向上。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
陽炎(かげろう)
必要筋力 520
攻撃力 800
ヒヒイロカネで作られた全長30センチの短刀。ヒヒイロカネの特性で刀身には揺らぎが生じている。敏捷性向上、気配隠蔽向上、斬撃力向上。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うん、上出来だ……ティア!」
新しい得物の出来に大満足し、早くティアに見せたくて大声で呼ぶ。
「……ん」
ティアは何故か入り口の陰に身を潜め、片目だけでこちらを確認しながら返事をする。
あれ? まさかさっきの鈍器の事を気にしてる? 食事の時は何事も無い様な素ぶりだったのに……
これはあれか、その場の勢いでやっちゃったけど時間が経つにつれ罪悪感が徐々に浸透してきて、今頃になって怒ってたらどうしようと思い悩むやつ。
まぁ、罪悪感を感じているなら許してやるか。というか、どちらかというとニアに罪悪感を持ってもらいたいのだが……
「ティア、もう気にしてないからこっちにおいで」
優しく声をかけると、ティアはおずおずと近くまで来る。
「ほら、新しい得物だ」
言いながら陽炎を渡してやる。
「ん、ありがと」
沈んだ声で受け取ったティアだったが、陽炎の性能を見て徐々に瞳を爛々と輝かす。
「ん! 新しい得物!」
そしていつもの様に誇らしげに陽炎を掲げた。
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