理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優

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第3章 人間超越編

第49話 絶対的な恐怖……最近は厄介な人しか来ません

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「何だこの血の匂いは!」

   部屋中に充満する濃厚な血の匂いに思わず鼻と口を手で覆い、顔をしかめた。

「んっ、生臭い」

   ティアも不愉快そうに顔を歪める。
   突然の異常事態に楽勝ムードは吹き飛び、言い知れぬ不安が頭を過った。

「この匂いの原因は……」

   って、部屋の中を見渡す必要は無いか。部屋の中央に、元は六メートルを超えていたであろう巨人が、無惨に四肢と首を切り落とされ、バラバラの状態で転がっているんだから。
   そして、その脇に佇む一人の男。
   年齢は二十代後半、身長は百九十センチ位だろうか。腰まで伸びた髪は黒というよりは闇といった感じの色合いで、こちらを見据える紅く鋭い目は、視線を合わせると無条件で恐怖を与えてくる。
   男は俺達を見ると凶悪な笑みを浮かべ、トレンチコートの様なローブを翻しながら近づいて来た。
   ティアが近づいて来る男に対し、腰を落として戦闘態勢に入ろうとしたが、俺はそれを手で制して止める。
   こいつには何をしても勝てない。本能レベルでそう分かってしまう程、男の存在感は恐怖と力で染まっていた。

「よう、随分遅かったな」

   こちらの緊張を余所に、男は笑みを浮かべたままフレンドリーに話しかけてくる。

「それは申し訳ない。約束をした覚えはありませんでしたからね」

   震えそうになる声を何とか堪え、慎重に答える。
   男は一瞬キョトンとしたが、その後に大声で笑い出した。

「くかっかっかっかっ、俺に対して初対面でその減らず口とは、なかなか肝が座ってるじゃねえか」
「そうでもありませんよ。今でも逃げ出したい気持ちでいっぱいですが、背中を見せたら一瞬で殺されそうでね」
「くかっかっ、そこまではしねえよ。精々逃げられない様に足を折る位だ」

   凄い良い笑顔で物騒な事を言う男に、冷や汗を垂らしながら必死に笑顔を作っていると、男は不意に自分の後ろを肩越しに親指で指差す。

「そういえば悪かったな。あのデカイのお前らの獲物だったんだろ?   生意気にも攻撃して来たもんだから、つい八つ裂きにしちまった」

   ……全く悪びれた様子が無いが、今のは謝られたのか?   この男はあれ程の巨人をバラバラにする行為を、つい程度で済ませられるのか……
   軽い運動程度の口調で、とんでもない惨劇の状況を作り出してしまう男には、恐怖しか感じられない。
   そんな俺の心情を見抜いたのか、男は急に人懐っこい笑みを浮かべる。

「そんなに怯えるな。別に取って食おうってわけじゃねえんだ。ただ俺はお前達を見に来ただけなんだよ」
「見に来た?   俺達を?」
「ああ、一千年ぶりに自力で【超越者】になった奴らがどんな奴か気になってな」
「!」

   俺達が超越者になった事を何処で知った?   今の所知ってるのはかなねぇとレリックさんだけだけど、あの二人が教えたのか?   この男に……っていうかこの男、誰?
   基本的な情報収集がまだだった事に気付き、男の名前を聞き出す言葉を慎重に選んでいると、そんな俺の苦労をぶち壊す言葉が隣から飛び出す。

「おっちゃん誰?」

    ティアー!   よりにもよっておっちゃんって!   確かに十歳位の子から見たら二十代後半はおっちゃんかも知れないけど、その年代はおっちゃんって言葉に敏感なんだ!   せめてお兄さんと言ってくれー!
   俺の心の悲痛な叫びを余所に男はティアに顔を近づけ、マジマジと見つめる。そしてーー

「くかっかっかっかっ!   おっちゃんか!   そりゃあいい!   俺は生まれて此の方そんな呼ばれ方された事が無いが、悪かぁ無いな」

   思いの外、好評だった。
   何、この人?   普通初対面でおっちゃん呼ばわりされたら怒らない?   人が折角怒らせない様に神経すり減らして言葉を選んでたのに、おっちゃん呼ばわりされて笑うってそりゃ無いでしょう。
   最近慣れすら感じる様になった脱力感に苛まれながら、改めて男の素性を聞く事にする。

「俺は桂木博貴。こっちはティアです。それで貴方は一体何者なんですか」
「おう!   俺は竜種の超越者。超魔竜のガウレッド・バーンだ」
「竜種……の?」
「ああ、蛇の様な龍じゃないからな、ドラゴンの方だからな間違えるなよ」

   何かこだわりがあるらしい、凄い念を押された。

「しかし、【超越者】って他にもいたんですね」
「ああ、お前らを除けば、この世界に八人いる。その内、俺を含めて三人がこの大陸に住んでるな」

   ……この大陸?   まさかこの世界には他にも大陸があるのか?

(アユム?)
[この世界にはこの大陸を含めて四つの大陸が存在しています]

   最近のアユムさんは名前を呼ぶだけで疑問に答えてくれる。本当に頼りになります。

「この大陸には三人……ですか」
「そうだ。俺は『火の国』の火竜山。後のニ人は『闇の国』と『光の国』だな」

   成る程。よし!   その三つの国には近づかない様にしよう。
   そんな決意をひそかにしていると、ガウレッドさんが顔を近づけニヤリと笑う。

「博貴。お前今、そこには近づかない様にしようとか思ってなかったか?」
「何故それを!」

   ズザザッと後退り大袈裟に驚くと、ガウレッドさんはまた『くかっかっ』と笑った。

「そりゃあ無理ってもんだぜ博貴。【超越者】ってのはな、生物の頂点に立つ特別な存在なんだ。お前がいくら逃げ回ろうが、あっちから接触してくるさ。俺みたいにな」

   そう言ってガウレッドさんは獰猛な笑みを浮かべる。

「何でわざわざ会いになんか来るんですか」
「言っただろ特別な存在だって。だから先輩としてその人となりを確認しに来るのさ。要するに品定め、だな」
「……もし、お眼鏡に叶わなかったら?」
「これ、だな」

   そう言ってガウレッドさんは獰猛な笑みのまま、親指で首を掻っ切る仕草をした。
   


   
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