理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優

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第4章 超越者の門出編

第82話 風の国の暗部……農業勇者も悪く無いと思う

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「うんま~~~~い!」

   部屋のど真ん中に設置されたコタツに四人で座り、俺の作った料理を囲む。先ず、海藻と魚の骨から取った出汁で作った味噌汁を飲んで、かなねぇが第一声を上げた。

「ふむ、これはなかなか。しかし、出汁が少し薄いような……」
「鰹節が作れればいいんですけどね。鰹の代用になる様な魚が手に入れば作れると思うのですが……」
「龍次さん!」
「心得てます。魚の特徴を仕入れ責任者に伝え、迅速に届けられる様、手配します」

   かなねぇが名前を呼んだだけで、レリックさんはすぐさま対応する。
   何?   この阿吽の呼吸。これが普段のニ人の息なのかな?   それとも、食への渇望がなせる技なんだろうか?
   俺が今回作ったのは、ご飯に味噌汁、目玉焼きとオーク肉の生姜焼きにサラダ。
   焼き魚ではなく、生姜焼きにしたのは肉食ティアのため。これに漬物と味のりがあったら完璧に日本の朝食って感じだったんだろうけど、流石に糠床までは作ってなかった。
   嬉しそうにご飯を頬張るかなねぇとレリックさんを見て、微笑ましく思いながらも、ふと、疑問が浮かぶ。

「そういえば、なんでかなねぇ達は米を収穫してないの?   取ろうと思えば幾らでも取れたでしょ」

   俺の疑問に、かなねぇ達はピタッと箸を止めて俺の顔を見る。

「ひろちゃん。この米はどこで収穫したの?」
「そりゃあ、試練のダンジョンに決まってるでしょ」
「でしょうね。それで、どうやって稲を米に変えたの?」
「どうやってって、【収穫】のスキルを使って……」
「【収穫】って、【農業】の派生スキルよね……」

   かなねぇは大きな、本当に大きなため息を吐くと、おもむろにコタツの天板をバンッと、両手で叩いた。

「あのねぇ、どこの世界に【農業】を取得する勇者がいるのよ!」
「ここに……」

   自分で自分を指差すと、かなねぇはバンバンと天板を何回も叩き始める。
   ああっ!   やめて、味噌汁が溢れる!

「ひろちゃん!   私達がどんな思いでスキルを選択してると思ってるの!   少ないスキルポイントをやりくりして、先を見据えて一生懸命考えながら、スキルを取得してるのよ!   皆、ひろちゃんみたいにスキルポイント成金じゃないんだから!」

   力説して、ゼイゼイ息を荒くするかなねぇに、俺は只々コクコクと頷いた。

「一度、やった事はあるんですよ」

   かなねぇと言う名の災害からご飯と味噌汁を死守する為に、右手に味噌汁、左手にご飯を持った状態で、レリックさんが話し始める。

「稲を持ち帰って、【収穫】を持つ農家の人に使ってもらったのですが、【収穫】は生えている状態でないと発動しない様で、米にはならなかったのです。それで、手作業で精米したのですが、まあ、手間のかかる事、かかる事。
   そもそも、ログハウスのドアを開けられるのはそこに召喚された勇者だけですしね。米を食べるためだけに、往復二週間近くかかる場所に勇者を派遣するのは、現実的ではないのですよ」
「えっ、でもデルク村で森の沼地に稲が自生してたって言ってたけど?   この世界に稲は無いの?」
「「はぁ?!」」

   俺の言葉にかなねぇとレリックさんは目を丸くする。

「なんと、まさかそんな事が……それは事実なのですか?」
「ええ、実際、デルク村の人達が米を収穫して来てましたから」
「森っていう事は、もしかしたら先代勇者が食べようとして持ち出したのかもしれないわね」
「そして結局、米に出来ずに投げ捨てた物がその場で繁殖した……有り得ない話ではないですね」
「持ち出して外で作って増やす……か~!   盲点だったわ」
「しかし、米を作るとなると、水田、最低でも沼地が必要になりますね。首都の周りは地盤がしっかりしてますので、あまり稲作には向きません。川の周りに水田を作るとしても、土地の確保と水田の整備で相当な資金が必要となります」
「ふむ、だったらデルク村に資金提供して、稲作をやらせた方が得策か……」
「検討してみましょう」

   かなねぇとレリックさんの稲作計画は、食事を進めながら着実に進行していった。

   ⇒⇒⇒⇒⇒

「ふぅ~食べた食べた」

   満足気に食後のお茶を飲むかなねぇとレリックさん。俺はやっと本題に入れると、二人を見やる。すると、俺の視線に気付いたかなねぇが、神妙な面持ちで見つめ返してきた。

「ひろちゃん、今からひろちゃんが聞こうとしてる事は知ってる。だけど、その前に二つだけ言わせて」

   妙に真剣なかなねぇの態度に、俺も気を引き締めて頷く。

「先ず一つ目だけど、けんちゃん達を強引に連れ戻すのだけはやめて」
「なんだそんな事か、それは分かってる。俺も『風の国』と正面切って敵対するつもりは無い。様子を窺って、健一達の死を偽装出来る様なタイミングを見計らうつもりだよ」

   俺がそう答えると、かなねぇは安心した様に微笑んだ後、次の話に移る。

「そう、なら良かったわ。それじゃあもう一つ。ワイバーンの卵を奪った連中は諦めてほしいの」

   次に出てきた注文の内容に、俺は眉をひそめる。

「理由を聞いても?」
「勿論、理由は簡単よ。もしそれをしたら、さっきひろちゃんが言った『風の国』との敵対、という状態になりかねないからよ」

   かなねぇの言葉に、俺は目を見開く。

「……まさか、ワイバーンを攫った連中の正体は、国の手の者って事?」
「そのまさかよ。ワイバーンの卵を強奪して、そのワイバーンの親をデルク村に押し付けたのは、『風の国』の密偵部隊の連中。正確には命令を出したのは宰相だけどね」
「宰相が……でも、何でそんな事を?」
「宰相はデルク村を重要視してないのよ。元々、百年に一度現れる勇者を迎えに行く森の中の街道を整備する為だけに作られた村だから。現実主義の宰相は、そんな事の為に毎年安くない整備費をデルク村に出す事を反対してたの」
「それで、村を壊滅させる為に?」
「あっ、それはついでみたい。本命はあくまでワイバーン」
「?   ……いまいち話が見えないんだけど」

   かなねぇの持って回した言い回しに、さっさと核心を言ってくれと口を尖らす。

「アッハハ、ごめんごめん。少し話す順番を間違えたわね。ねぇ、ひろちゃん。竜騎士って知ってる?」

   あっ、それはアユムに聞いた事がある。

「確か、飛竜に騎乗した騎士の事だっけ」
「そう。そして騎乗する飛竜の中で最もポピュラーなのがワイバーンなの」
「つまり、竜騎士の数を増やしたいからワイバーンの卵を集めてるって事?」
「その通り!   私達が集めた情報では、相当な数のワイバーンの卵、または子供を集めてるみたいだわ」
「……一応聞くけど、ワイバーンって、そんなに成長が早いの?   幾ら何でも子供のワイバーンの背に乗って飛ぶ事は出来ないでしょ」
「その点については、ワイバーンの成長を早め、隷属させる魔法薬を『風の国』が開発したとの情報が入ってます」

   かなねぇの代わりに答えたレリックさんの言葉の中に、不穏な単語を聞いて、俺は眉間に皺を寄せた。

「隷属ぅ~?」
「そっ、本来なら竜騎士は幼少の頃からワイバーンと成長を共にして、深めた絆を持って文字通り人竜一体となるらしいんだけど、『風の国』は手っ取り早く竜騎士擬きを量産する手に出たみたい」
「空での機動力は、本来の竜騎士より数段落ちるでしょうが、制空権を取れる分、普通の騎士よりよっぽど戦場で有利に戦えますからね」
「戦場って、『風の国』は戦争を起こすつもりなのか!」
「その準備と取れる行動をしてる以上、その可能性は高いと思ってる」

   真剣に話すかなねぇの顔を見ながら、俺の頭には最悪の光景が浮かんでいた。
   つまり、『風の国』の軍の最前線に立つ、健一達の姿がーー
   
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