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第4章 超越者の門出編
第88話 レクリスのとの対面……かなねぇ美味しいご飯が食べたいだけじゃないですよね
しおりを挟むSide 香奈美
「……ねぇ、ティアちゃん」
「ん?」
私は膨大な量の書類に目を通しながら、おこたの向かいでマッタリとしているティアちゃんに話し掛ける。
ティアちゃんは返事はしてくれるものの、こちらを向いてはくれない。おこたに突っ伏しながら向けているティアちゃんの視線は、窓の外。ひろちゃんがいるはずの方をずっと見ていた。
「ティアちゃんってお料理出来るの?」
「ん、出来るけどひろにぃのが美味しい」
ひろちゃんのご飯の味を想像したのか、ティアちゃんはにへらっと笑った。
この子、感情をあまり表に出さない子かと思ってたけど、こんな顔もするのね。
ハッキリ言ってこの子は謎が多すぎ。
ひろちゃんと一緒に行動している理由も、Sランクを一蹴する強さも、龍次さんの【森羅万象の理】を妨害する力の源もぜ~んぶ謎。性格だっていまだによく分かんない。
まだ十歳位だよね。何でこの歳であんな強さを身につけてるんだろ? ひろちゃんの教育の賜物? それは無いわね。ひろちゃんには甘やかす事は出来ても、こんな子供に厳しい訓練を課す事なんか出来るわけがない。
やっぱり謎だわ……でも、料理が出来るんだったら一度食べてみたいわね。龍次さんだったらそれで料理スキルのランクが分かるかも知れないし……
「出来るんだったら料理してみない?」
「ん、何で?」
「何でって……ティアちゃんの料理が食べてみたいなーって思ったからだけど」
「……でも、ひろにぃが作った方が美味しい」
あーこの子、合理主義だわ……得意な分野はより得意な人がやるべきと思ってる節があるわね……確かにプライドの高いエルフはその傾向があって、苦手な事は絶対にやらないって聞いた事あるけど、この子位から矯正してけばなんとかなるんじゃないかしら?
家事の分担は共同生活の基本なのに、ひろちゃん甘やかして全部自分でやってたわね……全く、こういう協調性は子供の時に養わせないといけないのに、ひろちゃんは子育てに向いてない。
仕方がない。ここはお姉ちゃんが一肌脱ぐか。
「ねぇ、ティアちゃん」
「ん?」
「ティアちゃんは外から帰ってきて、ご飯が準備してあったら嬉しい?」
「ん」
ティアちゃんは興味がいまいち無さそうだが、一応は頷く。
「だったら、ひろちゃんが帰って来てご飯の準備ができていたら嬉しいんじゃないかなぁ……」
私の話を聞いて、ティアちゃんのエルフ特有の長い耳がピクピクと動いた。
よし! もう一押しね。
「それをティアちゃんが準備したって聞いたら、もっと喜ぶと思うけどなぁ」
「……ひろにぃ喜ぶ?」
「ええ、それはもう。涙を流して喜ぶかもしれないわね」
私の話を聞いて耳をピクピク動かしながら、やっとこちらに向けた目を輝かすティアちゃん。
そして、やおらガバリと突っ伏していた上半身を起こす。
「ん、ティアやる!」
「そう、作ってくれるのね。だったら龍次さんに教わりながら作ったら良いわ。龍次さんだったら、ひろちゃん以上に私達の国の料理の事を知ってるから、ひろちゃんがビックリする様な料理を作れるかもよ」
「え……そこは私に丸投げですか?」
私の右隣で資料に目を通していた龍次さんが、寝耳に水と言わんばかりに目を見開いて私を見てくる。
「あら、その手の指導は私より龍次さんの方が向いてると思うんだけど」
「いやいや、私とて仕事が……」
そう言いかけた龍次さんの腕を、ティアちゃんが引っ張る。
「んっ! 早く作る!」
「えっ、ちょっ……ティア殿?」
「んっ! 早く行く!」
「お待ちください! 私は仕事が……」
慌てる龍次さんを引きずって行くティアちゃんを、私は笑顔で手を振って見送る。
さて、ティアちゃんはどんな料理を作ってくれるのかしら。
Sied 博貴
「おお! 本当に博貴殿だったとは……ようこそいらして下さいましたのう」
部屋に入ると俺の顔を確認した途端、超圧縮された風の球体を手にしたレクリス卿が、厳しい顔を笑顔に変えた。
「レクリス卿、突然の訪問申し訳ない」
「いやいや、博貴殿にはこの老いぼれに生き甲斐を示してくれた恩がありますからのお、気にする事はありませんのじゃ」
レクリス卿は好々爺の様な表情を見せながら風の球体を散らす。
(あれ、上級のエアアッシュだよな。超圧縮された風の球体を相手にぶつけてズタズタにするやつ……)
[はい。ただ、凄まじい風が周りに巻き起こりますので、室内で使うのには向きませんね]
《この部屋にある家具、結構高価そうなのに気にしないんだね。さっすが金持ち》
上級で狙われてたのに、アユムもニアも部屋の心配だけで、俺の心配はしてくれない……まぁ、確かに大したダメージを受けない自信はあったけども。
「申し訳ないがここは書斎でしてな。客に勧める椅子も無くてのお」
スキル二人の対応に釈然としないものを感じてあると、レクリス卿は申し訳ないなさそうに応接室に移動するか聞いてきたが、俺はそれを丁重に断った。
「突然押しかけたのは俺ですからお気になさらず。それよりも今日は健一達の様子を聞きにきたのですが」
俺がそう切り出すと、レクリス卿は笑顔を渋い物へと変える。
「健一殿達の現在の状況は、あまり芳しく無い……と言わざるを得んのじゃ」
「それは、開戦が近いからですか?」
俺がそう聞き返すと、レクリス卿は僅かに目を見開く。
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レクリス卿は戦争反対派か……なら、遠慮無く情報を引き出させてもらいますか
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