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第4章 超越者の門出編
第93話 謎の男……やっぱりティアは料理に目覚めた位ではお淑やかにならなかったか
しおりを挟む死霊の住む森は昼でも薄暗く、とてもジメジメした場所だった。
なんでも、百年前に起きた内乱でこの森に誘い込まれた兵士達が罠にかかり非業の死を遂げた場所だそうだ。それ以来、この森は死んだ者の魂が集まる呪われた森になったらしい。
「ふむ、レリックさんの話だとイノセントスピリットを落とす魔物の出現区域はこの辺の筈なんだけど、それらしいのは居ないなぁ」
薄暗い森の中で辺りを見回しながら索敵していた俺は、【気配察知】になんの反応も感じられずに嘆息を吐いた。
イノセントスピリットとは、悪霊系の魔物を倒した後にでる素材らしい。霊体である彼等? は核を持たないので、核の代わりにイノセントスピリットという素材を残すそうだ。
しかし、悪霊を倒した後に残るのが純真な魂とは……倒せばその魂を清められるという事だろうか?
悪霊系の霊体は全て魔物だという事だから、無念の意思が魔素を取り込んで形作ったという解釈で良いのかな。
「ん、この辺にはもう、魔物とかモンスターの気配は無い」
ティアも索敵をしてたみたいだけど何も引っかからなかった様で、ちょっと不満げだ。ちなみに『もう』と付けたのは既にこの辺にいた奴等は軒並み俺とティアで狩ったからだ。
ここに来るまでに二十匹程、マッドモンキーやデビルウルフ、それにゾンビ系のアンデットなど、外見も性格もぶっ飛んだ魔物やモンスターを狩っている。
「仕方がない。テムディス草の群生地はもう少し奥って言ってたから、先にそっちに行ってみるか。ここは精神衛生上あまりよろしく無さそうだから長居したくないよな」
「ん、ティアが居た森と違って空気が淀んでる」
ティアもあまり居心地が良くない様で、眉間に少しシワが寄っている。エルフは森の民だそうだから、俺以上にこの森を不快に思っているのかもしれない。
「よし、じゃあ先にテムディス草の根の方を片付けるか」
俺とティアはさっさと要件を済ませてしまおうと、テムディス草を求めて更に森の奥へと足を運んだ。
⇒⇒⇒⇒⇒
[マスター、あれがテムディス草です]
森の中を小走りに進む事十分程、アユムのテムディス草発見の報を聞き俺は足を止めた。
そのままアユムに誘導され一本の木に近づく。
「これ……かな」
[はい。それがテムディス草です]
木の根元に生える、緑と黒のストライプの葉を持つ植物。はっきり言って精神を安定させる素材には見えないが、アユムがそうだと言ってるのでそれを信じて引っこ抜く。しかし、その全容を見て俺は絶句してしまった。
「……これ、本当に精神を安定させてくれるの?」
《素材は効果が命。見た目なんて関係ないよ。ほら、あっちこっちに生えてるからどんどん採取する!》
ニアに急かされ、俺とティアは黄色と紫のまだら模様の根を持ったテムディス草の採取を始めた。
⇒⇒⇒⇒⇒
それから程なく、テムディス草に導かれる様に採取しながら更に森の奥へと歩を進めた俺とティアは、進む先に気配を感じて歩みを止めた。その気配が魔物なら別段気にはしなかったんだけど、どうやらその気配は人の様だ。
「ん……人」
「……冒険者かな? 気配の感じからして一人の様だけど」
はっきり言ってこの森の魔物のレベルは低い。大体二十から五十といったところだ。だから、高レベルの冒険者なら一人で来てても特に不思議ではないのだが……
「もしかして、先を越されてるのか?」
イノセントスピリットは品薄だとレリックさんが言っていた。だとすれば、大量に確保して高値で売ってやろうと考える冒険者がいてもおかしくない。そうだとすれば、いかにして俺達の分を確保しようか思案し始めたところで、トモが俺の考えを否定してきた。
〈確かに考えられない事ではありませんけど、でもそれだったら、テムディス草も一緒に採取しませんか?〉
確かにトモの言う事も最もだ。テムディス草も品薄なんだから、それも採取してないとおかしい。イノセントスピリットが品薄だという情報を掴んでいて、テムディス草の根が品薄だという情報を掴んでない訳がない。
「ふむ……だとしたら、この気配の人は一体何をしにこんな所に一人で……」
「考えても分からないなら、見に行く」
「そうだな、ちょっと【忍ぶ者】を発動してこっそり様子を見てみようか」
気配がしてるのは大体百メートル程先。気配は動いてないのでこちらには気付いていないと判断し、【忍ぶ者】を発動したのだが、その事により俺達は驚く事になる。
「えっ!」
「んっ! いっぱい」
【忍ぶ者】の発動でその効果を強めた【気配察知】が、実体を持つものよりも気配の希薄な霊体の存在を察知したのだ。それが十や二十なんて数ではない、百単位で始めに察知していた人の周りに集まっていた。
「これは……戦ってるんじゃないよな……集めてるのか?」
「取り敢えず行ってみる」
ちょっと困惑気味の俺に、ティアが袖を引っ張り進む様に促す。
「そうだな……うん、行ってみよう」
俺とティアは気配を殺し、人と霊体の気配がする方へと静かに歩いて行った。
⇒⇒⇒⇒⇒
そこは直径二十メートル程の開けた野原になっていた。
俺達は野原の手前の木の陰に隠れてその、幻想的かつ異様な光景を見ている。
野原の中心には一人の大きな人。まあ、ローブを纏いフードを被っているので人族なのかは勿論、性別も分からないのだが、身長は二メートル位あると思う。そして、その周りには半透明の大量の人魂。
遠目には人の周りを光が飛び交いとても幻想的なのだが、よく見てみると、その光には苦悶の表情を浮かべた顔が付いていたり、手が付いていたり、終いには人、熊、鹿、猪など、複数の顔が付いたよく分からない丸いものまである。
(うわー……よく分からない、分かりたくもないものが沢山いるなぁ)
[元になったモノによって姿形が全て違いますが、あれは一応、全て悪霊です]
(って事は、あれ全部イノセントスピリットの元?)
[そうなります]
(成る程ね、ここに集まっていたからレリックさんの言った狩場に居なかったのか。しかし、どうやって集めてるんだ?)
[おそらく【ネクロマンサー】のスキルですね]
(【ネクロマンサー】? 初耳だけど)
[【闇魔術】から分岐する死者を操る事に特化したスキルです。マスターは分岐の時点で【闇黒魔術】を選んでただいたので、その時点で取得資格を失っています]
(なんだ、そんな選択肢があったのか)
[もしかして取得したかったですか?]
(いや、【闇黒魔術】との二択なら【闇黒魔術】で良かったよ。死霊の軍団を作るなんて柄じゃないしね)
《マスター、ティアちゃんが全部狩って良いか聞いてるけど?》
アユムと状況確認をしていると、ニアから念話が入る。
ティアめ、狩れる魔物を目の前にしてウズウズしているな。これで悪霊だけならゴーサインを出したところだけど、それを操るボスがいるとなると……
(ティアには待つ様に言っといて、先ずは俺が行ってあいつと話してみる。もし、話が通じない様ならーー)
《ティアちゃんゴーだね》
何処かワクワクしている様に語るニアに、『出来れば争い事は避けたいんだけどね』と、心で思いながら、俺は静かに木の陰から躍り出た。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
前話でイノセントスピリットの御霊と素材名を書きましたが、スピリットと御霊が重複していた為に御霊を消させてもらいました。前話の時の事を覚えている方、紛らわしい真似をして申し訳ありませんでした。
さて、お気に入りが1500を超えました。入れて下さった方々有難うございます。
書き始めた当初は1000越えなど夢のまた夢などと思っておりましたが、とうとう1500。順位も何故か3日おきの割にはあまり下がりませんし、本当に恵まれていると思っている今日この頃です。
神尾優でした。
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