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第4章 超越者の門出編
第94話 ネクロマンサー……久し振りのちょろい奴
しおりを挟む[マスター、本当に大丈夫なんですか?]
木陰から出ると、アユムが心配そうに話しかけてきた。
(大丈夫って、何が?)
態と気付いてないふりをすると、念話の先からため息が聞こえてくる。
[また、分かってるでしょうに、そうやっておとぼけになるのですから]
(ふふっ、ただ単に言葉によるコミニケーションを取ろうとしてるだけだろ。人間なら当たり前の第一接触、何も心配することなんてないさ)
[しかし、相手は百を超える悪霊を集めてる様な奴です。どの様な反応を示してくるか……]
(その時はニア、君がなんとかしてくれるんだろ?)
アユムの側にいるであろうニアに呼び掛けると、何だかビクッとした感じの気配を念話越しに感じる。
フッフッフッ、ニアをビックリさせてやった。いつもはやられっぱなしだから、小気味が良い。
アユムは前に【共に歩む者】の三人が魔法を使用するには、俺の承認が必要と言っていた。だが、ニアはその縛りの外にいるのではないかと俺は考えている。
ニアは勝手に俺の記憶を覗いたり、ティアとなんか企んだりと、何かと自由奔放に動いてくれちゃたりするが、肝心な所ではしっかり俺を守ってくれてる様な気がするんだよなぁ。
だから今回も、何か勝手に動いてるんじゃないかと思ったのだが……
(もしかして、勝手に【聖神魔術】の準備なんかしてたりして?)
カマをかけてみると案の定、ビクビクッとした気配が感じ取れた。
ふふっ、まったく心強い事だ。
俺はとてつもない心強さを感じながら、余裕を持って男に近付いていった。
「こんにちは」
悪霊が飛び交う野原を【忍ぶ者】全開で気配を消して、でも、コソコソせずに堂々と歩いて行き、こちらに背を向ける大っきな人に明るい口調で挨拶をする。
大っきな人は俺の気配に気付いてなかった様で、デカイ体を思いっきりビクッと震わせた後でソロ~とこちらに振り向いた。
顔がこちらに向いたが性別は勿論、種族すらいまだに分からない。そいつはフードを目深に被り、更にマフラーの様な布で目の下辺りまで覆っていた。
あまりの正体の隠しっぷりに一瞬、【森羅万象の理】でもかけてやろうかとも思ったが、かけた事をバレると、この先の話し合いに支障が出そうなので止めることにする。
「すごい光景ですね。これは貴方が集めたのですか?」
少し待ったが、大っきな人はこちらを警戒するばかりで話し掛けてくる様子が無いので、仕方なく再びこちらから話し掛けてみる。すると、大っきな人はオロオロした後で静かに首を縦に振った。
う~ん……威圧感は感じられない。なんというか……でっかい小動物を相手にしてる気分だ。しかし、喋ってくれないなぁ。喋ってくれないとコミニケーションが取れないんだけど。よし、次は首の振りで答えられない事を聞いてみるか。
「俺は冒険者のヒイロです。貴方はネクロマンサーとお見受けしましたが、良かったらお名前を伺っても?」
流石に勇者とバレるかもしれない本名は隠して自己紹介。相手の反応を待つ。
大っきな人はひとしきりアタフタした後、小声で、本当に小さな声で言葉を発する。
「……アルファード」
をい! 小さな声だな。声で性別くらい判断出来ると思ってたけど、分からなかったぞ。もしかして【聞き耳】を持ってなかったら聞こえなかったんじゃないか?
なんとなく、この大っきな人から話を聞くのは疲れる作業になりそうだと予感しながら、それでも俺は笑顔で話を続けた。
「そうですか、アルファードさんですか……ところで、こんなに悪霊を集めて何をするつもりなんですか? まさか……悪い事でも企んでたりして……」
出来るだけ冗談ぽく聞いてみたが、アルファードはビクッと大きな身ぶるいを一つ。その後、大分思案してから口を開いた。
「……別にそんな事は考えてません……ただ【ネクロマンサー】の能力の訓練をしてただけ……」
この人分かりやすいな。口下手なのか、人との会話に慣れてないのか……しかし、そうか~、悪い事に使う気なのか。さて、どうしようかな。
考え込むとアルファードに警戒されそうなので、【高速思考】で少し思案し、思いついた一石二鳥の提案を出す事にした。
これで拒まれたら戦う事になるかもしれないが、そうなったら、ティアちゃんゴーだな。
相手に悟られない様に戦闘意識を高めつつ、俺は意を決して口を開く。
「成る程、訓練ですか。でしたら相談なんですけど実は、俺達はイノセントスピリットを取りに来たんです。すみませんが、この悪霊達を狩らせてもらっていいですか?」
俺の提案にアルファードは慌てふためく。
まあ、そうだろうね。なんか人に言えない目的があって集めてたんなら、狩られたら困るだろうから。
でも、こちらにしたらイノセントスピリットを大量ゲットできて、アルファードの思惑も阻止できる。
俺は、あくまで貴方の企みには気付いてません、という装いをしながら、アルファードが落ち着いて答えを出すのを油断せずに待った。
するとアルファードは、はたから見て分かる程肩を落とし、『どうぞ構いません』と、とても落胆した様子で了承してくれた。
作戦を強行するより、怪しまれない方を選んだか……まあ、態度でバレバレなんだけど。
「有難うございます。では、早速ーーティア、出番だよ」
俺の呼び掛けに応じて、ティアが木陰から元気良く飛び出してくる。別に俺がやっても良かったんだけど、ティアがウズウズしている様子が背中越しにも分かったので任せる事にした。でないと、後でご機嫌斜めになりそうだし……
アルファードはもう一人いるとは思っていなかったらしい。飛び出して来たティアを唯一、感情の変化が窺える目をまん丸に見開いて呆然としていた。
ティアは嬉々として悪霊達を陽炎で切り裂き、弓で撃ち落としていく。
(悪霊って、物理攻撃が通用するんだね)
ティアが魔法を使う様子もなく、普通に武器で悪霊を倒していくのを見て率直な感想を述べると、【共に歩む者】の面々のため息が聞こえてきた。
〈何を言ってるんですマスター。悪霊に物理攻撃が効く筈がないじゃないですか〉
(えっ! だって、現にティアが……)
トモに言われもう一度ティアを確認すると、弓術のアーツだろうか、空に向けて放った矢が、無数の光の矢となって雨の様に悪霊達に降り注いでいた。
思いがけず目の当たりにした初めて見る技に俺がビックリして動きを止めると、ニアが解説を始める。
《一応言っとくけど、あれは【神聖魔術】と【超級弓術】の合成技だからね。あんなのは例外として、普通の武器で悪霊にダメージを与える事は出来ないよ》
アーツと魔術の合成……俺も幾つか覚えているが、ティアめ、いつの間に……っと、それは取り敢えず置いといて、なんでティアが物理攻撃で悪霊を倒せてるかだったな。
〈マスター、自分が作ってる武器の事を分かってなかったんですね〉
[マスターの作る武防具は、マスターが魔力を込めて作り上げているので、魔力を帯びているのです]
《だから、普通に攻撃しただけで悪霊にも効いてるんだよ》
三人が若干呆れた様に説明してくれる。
ふむ、そういう訳だったのかと納得していると、ティアが全ての悪霊を狩り終わって戻ってきた。
「ん、手ごたえが無い」
少し消化不良気味の様だが、それは致し方ない。ティアにイノセントスピリットを回収する様頼み、俺はアルファードに向き直る。
アルファードはティアの戦闘力を目の当たりにして、目を見開いたまま硬直していた。
「有難うございます。お陰で必要な量のイノセントスピリットを手に入れる事が出来ました」
固まっているアルファードの手を無理矢理握り、笑顔で礼を言う。アルファードはハッと意識を取り戻し、布越しにでも分かる程、頬を引きつらせていた。
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