理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優

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第4章 超越者の門出編

第95話 ワイバーンにとっての幸せ……またですかレリックさん

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[マスター、あの者にマーキングをしてましたね]

   アルファードと別れ、森を出たところでアユムが語り掛けてくる。
   マーキングは【地図作製】の能力の一つで、地図にマーキングをした相手の位置を記すというもの。レベル9までの【地図作成】には地図表記の外に出られるとマーキングが外れるという欠点があるが、俺の【地図作製】のレベルは10。地図を作ってない所に行かれない限り外れる事は無い。

(まあ、必要無いとは思うんだけど、何か企んでた様だし念のためにね)
[そうですか。しかしあの者、一体何の為に悪霊を集めていたのか……]
(さてね、悪い人には見えなかったけど、他人を信用してないって感じだったよなぁ)
《う~ん、悪い人かどうかはともかく、あれは自分の手では人が殺せないって感じだったね。まあ、見た目はアレだったけど、マスター並みの甘ちゃんかもね》
(誰が甘ちゃんだ!   俺はやる時は殺るぞ……って、ん?   自分の手では?)

   ニアの言葉を引き金に、ふと前に遭遇したとある出来事と重なる。
   ……まさか……ね。
   そんな事はあり得んだろうと、俺はその考えを振り払いながら街へと向かった。

   ⇒⇒⇒⇒⇒

   今回はちゃんと門から街に入り、街の店で薬を作るのに必要な器材を購入。全部で大金貨一枚という中々の出費をしながら冒険者ギルドに帰還する。
   夕方という事もあり冒険者で賑わっていたが、堂々とカウンター裏に入って階段へと向かう。もう、受付のおねぇさん達とは知った顔同士なので、咎められる事は無い。ティアは当然の様に厨房に向かった様だ。
   全く、ティアにそこまで料理に対する情熱を与えるとは、かなねぇ達は一体ティアに何を吹き込んだんだろう?
   それでもティアが料理をするという事は悪い事ではないので、ティアを見送って俺は二階へと上がる。

「おや、早いお帰りですね」
「ああ、レリックさん。ただいまです。素材の方は揃いましたか?」

   階段を上りきった所でレリックさんと出会い、軽く挨拶を交わした後で素材の確認をする。

「ええ、充分な量を部屋に運んでおきました」
「それは有難いです。こちらも素材を揃えられたので、早速準備をして明日から製作を開始しようと思います」
「宰相のお披露目は三日後、実質行動出来るのは後二日ですからねぇ、あまり時間はありませんが、期待してますよ」

   気負い感が全く無いレリックさんのエールを受けて、俺は善処しますと苦笑いを浮かべつつも、その件に関してレリックさんに頼みたい事があったのを思い出した。

「そう言えば、一つお願いが……」
「伺いましょう」

   俺のお願いがお披露目阻止に繋がるものだと感じ取ったのか、レリックさんは俺が台詞を言い切る前に即答する。

「ワイバーンが城の何処に居るか調べてもらいたいのですが」
「ああ、そんな事ですか。それならばもう分かっています」
「へ?」

   既に知ってると言われ間抜けな声を出した俺に、レリックさんは含み笑いをしながら言葉を続ける。

「城には結構な人が出入りしてますからね。Sランク以上の冒険者の中には城に呼ばれる者もいますし、大まかな城の見取り図は既に把握済みなんです」
「……そうなんですか。城の内部の構造なんて皆、秘密にしてるものだと思ってました」
「フッフッフッ、勿論、秘密の通路なんてものは分かりませんが、そういう所以外の場所には大概誰かしら人の出入りがあるものです。そういう情報を集めていけば、見取り図は作れるのですよ」

   ふむ、確かに城に勤める者全員が口が堅い訳ではないか。国に対する忠誠心を持つ者なんてごく一部だろうしね。

「そういう訳で、城の見取り図と警備体制の情報を記したメモを後でお渡しします」

   警備体制まで把握済みだったか。冒険者ギルドは他の国でもそんな事をしてるのかな?
   一瞬、冒険者ギルドが良からぬ事を企んでるんじゃないかという疑惑が頭の隅を過ぎったが、かなねぇがトップでレリックさんの様な抜け目の無い人が副官として控えていれば、その位の情報は保険として得ていてもおかしく無いと納得する。
   
「では、私は用があるのでこの辺で」
「あれ?   これからお出かけですか?」
「いえ、外出ではありませんよ。ティアさんが帰って来たという報告があったので、これから厨房に行こうかと思いまして」

   もう暗くなる頃だというのに一階に下りようとするレリックさんに何気無く聞くと、満面の笑みでそう答える。しかし、その曇りの無い笑みに俺は一抹の不安を覚えた。

「一応確認なんですが、レリックさんは今までどちらにいたんですか?」
「私ですか?   私は自室にいましたが」

   レリックさんの自室という事は、ギルドマスターの部屋……つまり、かなねぇが書類に追われてた部屋だよな……

「それはつまり、かなねぇの仕事を手伝ってたって事ですか?」
「ええ、ティアさんが出かけて、私が総統の仕事を手伝わない理由が無くなってしまったので仕方無く」
「それを、ティアが帰って来たからと部屋から出て来たんですか?」
「はい」
「……かなねぇなんか言ってませんでした?」
「裏切り者!   と言われましたねぇ。全く、今まで手伝っていたというのに、酷い事を言いますよね」

   やれやれと言った感じて下に降りて行くレリックさんを見送ってから、俺はかなり機嫌が悪いであろうかなねぇに気付かれない様に、そっと自室に戻った。

   ⇒⇒⇒⇒⇒

「さて、これで薬を作る準備は整ったが、問題は飲ませ方だよな」

   部屋に届けられていた素材を一通り確認し、薬を作る準備に抜かりは無いと分かった俺は、次の問題の為に頭を捻らす。

〈二回に分けて飲ませないといけない訳ですから、その場にとどまる事になりますよね〉
《でも、言うなれば敵陣の中だよ。あんまり長居はしたくないよね》

   トモとニアの意見に、器材を部屋に並べながら俺はウンウンと頷く。

「だよなぁ……一番最高なのは深夜に忍び込んで飲ませて、お披露目の時に効果が現れる事なんだけど、麻薬の効果を打ち消すのに二時間だとして、その後に精神力を回復させたら、どの位の時間で精神操作から逃れられると思う?」
[それは恐らく一瞬ですね。精神力さえ戻ってしまえば直ぐにワイバーンは自分を取り戻します。ただし、元々は子供でしたから、自我を取り戻した時に突然大人になった自分に気付き、ワイバーン達がどの様な反応を示すのか、それまでは予測出来ません]
「……そうか」

   気付いたら大人。自分に重ねて考えても、かなりショックである事は分かる。
   果たしてワイバーンにとって、このまま操られていた方が幸せなのか、それとも突然大人になっていたとしても自我を取り戻した方が幸せなのか。
   その答えは分からないが、それでもワイバーンに自我を取り戻させるしか選択肢が無い俺は、黙々と薬を作る準備を進めた。

   
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